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第三章 『胸を駆け巡る恵風』

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~雅環菜~

 間一髪の所で私の体重を受け止めた誰かの胸に、私はスッポリ抱き留められてしまった。

 顔を上げると、梓君が立っている。

 私を小さい、と言った梓君の笑顔が、頭から離れない。恥ずかしいのに、梓君のことを、目で追ってしまう。

 委員の活動は終わったけれど、こうやって誰にも知られぬ気持ちでも、一人ほのぼの彼を眺めていられたらいいな……。

 ──ハッと目を覚ますと、そこは自室で、ピチピチ鳥の鳴く声が聞こえる。

 朝だ……。以前も見たことのある夢を見てしまい、私はうーん、と伸びをして起き上がる。

 昨日から二週間後に行われる体育祭の練習が始まって、既に体は筋肉痛。

 ちょっと全体行進の練習をしただけなのに、春の強い日差しに、いつもより長い時間照らされ、もうお疲れ気味。

 午前中のみの授業を終えると、運動場に出て、ブロック毎に分かれる。

 クラス単位で所属するブロック、うちのクラスは、今年は赤。残りは黄色に青、全部で三ブロックになる。

「確か赤ブロックは、去年優勝してたよね? 今年はV2狙いか」

 今年同じクラスになった、幼馴染の大堂美知佳が、言いながら、体操服の袖を肩が見えるまで捲り上げる。

「私、毎年体育祭の練習、好きなんだよねー。勉強よりずっとマシ」

「美知佳は、運動好きだもんね」

 赤ブロックは一番手前の5段スタンドを使い、生徒達が自分のポジションに着くと、今日も応援合戦のパネルの練習が始まった。

 一人ずつ、白、黒、赤、青、黄色を担当し、ドラムのタイミグで上に出す。

 五つの色を管理するのは、意外と難しいのだが、間違えると応援団の大きな声が聞こえてくる。

「そこ、違うって!」

「青出てるよ! そこ黄色でしょ!」」

 始まってすぐからピリピリしている応援団、それ程、体育祭の応援合戦とは賑わうものなのだ。

 私は間違えないように、そわそわしていると、隣の美知佳が色を間違えて、長い棒で突かれてしまった。

「今、黒出てるはずなんだけど!」

 応援団の声に、美知佳はスローペースでパネルの色を変える。

「あ、間違えちゃった」

 言いはしても、ケロッとしており、気にしている様子は見えない。

 美知佳曰く、今までスポーツをしていて、もっと厳しい場面には何度も直面しており、このくらい何ともない、だそう。

 でも、応援団、結構怖いんだけれどな……

 応援練習が終わると、次はダンスの練習に入る。男女ペアになって踊る創作ダンスは、毎年意外と盛り上がる。

 体育祭マジック、と言って、その日の浮かれた気分で、相手を好きになって付き合うパターンもあるらしいのだ。

 そして、三年生の先輩が紙を確認して、ペアを組んで行った時だった。






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