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第一章 『ふわり春風になびく髪』
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しおりを挟む~嶌梓~
俺のことを何となくでしか覚えていない、と言う雅環菜は、俺から目を逸らして楽譜を見る。
大きなチューバに身を隠されそうなくらい小柄な姿は、以前と変わらない。
「俺は、環菜先輩のこと、覚えてましたよ」
「……そっか」
チューバとフルートの場所はすぐ近くで、環菜先輩は気まずそう。
「はじめまして、千歳唯です。二年で、フルート担当しています」
一方で、担当だと言う先輩は、準備室からフルートを一つ持って来てくれた。
「フルート経験者なんだっけ?」
「はい、小さい頃から楽器習っていて、一通り吹けます」
俺はフルートにサックス、トランペットとピアノとでき……うちは音楽家の家系で、父は指揮者で全国を飛び回っている。母は元ピアニスト、姉は音大に入り、サックスをしている。
小さな頃から音楽には触れていたのだが、運動が好きなため中学ではバスケ部に入部したものの、俺は高校で吹奏楽をしようと思っていた。
──それは、雅環菜がいたからだ。
再び環菜先輩に視線を戻すと、彼女は俺の方を見ようとはせず、チューバを吹いている。
気まずいのは分かる。でもそれは、こちらだって一緒だ。
だって俺は、環菜先輩に振られてしまったのだから……。
*
中学二年、環菜先輩と図書委員でカウンター当番をしている時は、正直何とも思っていなかったし、間接的にだが告白をされた時は驚きを隠せなかった。
おっとりしていそうな、口数の少ない先輩、という印象しかなく、恋愛感情は抱いていなかったからである。
でも、これをきっかけに、俺はまだ知らない環菜先輩のこと、少しずつ知っていけたらと思っていた。
環菜先輩に悪い印象はなく、控えめな性格の奥にあるものを知りたい、と思っていたのは、事実。
それなのに、告白はされっぱなし。
やがて、夏休みに入っても、校内で環菜先輩と顔を合わせることはなく、俺に間接的に伝えてきた大堂美知佳先輩も、特に何も言わない。
何だったんだろ、俺、告られたよね……?
しかし、ぼんやりそんなことを考えている間に、夏休みは終わり、二学期に入ってすぐだった。
「俺、環菜と付き合うことになったんだぁ」
部活終わり、部員達とダラダラ喋りながら駐輪場へ向かっていると、先輩の一人がサラッと言って、心底驚いた。
「環菜って、雅環菜……?」
思わず足を止めて先輩に尋ねると、そうだよ、と頷くではないか。
「え、嶌って、環菜のこと知ってた?」
「あ、あぁ……前、図書委員だったので」
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