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第八章 『祭りの夜ら』
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しおりを挟む胸の高さまで盛り上がった、コンクリートの堤防を机代わりにしてかき氷を置くと、私はようやくふぅと一息つく。
「鳰さん、疲れました?」
「えっい、や……そうじゃない。花火の時間まで、もっう、すぐですね」
早くも溶けかかったイチゴ味のかき氷、口に含むととても懐かしい味が広がり、次の感情は小さな感激に変化した。
「か、かき氷なんて……いつぶり、だろう」
「イチゴ味、一口貰ってもいいですか?」
「あっは、はい、もちろんです」
自分のストローを使わず、じっと私を見ている奈古君。これは……あーんって……すべき……なのか? どうなのか?
ぎこちなく、ストローのスプーン部分に赤い氷をすくって奈古君の口元へ運ぶと、やはり彼はパクッと氷を口に入れた。
「美味しい。メロンもいりますか?」
「あっ……え……じゃ、じゃあ」
あーんなんて、されたことない。まるで恋人のようなことをサラッと言ってくる奈古君に緊張しながらも、口に入ったメロン味の氷がじんわり溶けてくる。
奈古君は、すごく、優しくなった。
その優しさが今はすごく嬉しくて、照れがあっても、私はこの優しさを手放したくなかった。
私は、過去を全部受け入れて、これからは今から先を見ていきたくて、奈古君の隣にいたくて。
「あ、あの、奈古君、私……」
──ドンッ……!
大きな音に思わず空を見上げると、私の言葉に重なるかのように、丸い赤色の花火が夜空に咲いた。
「花火だぁっ」
隣に立つ小さな子供がはしゃいでおり、私も空を見つめる。
……ホントだ、花火だ。暗闇の中キラキラ弾ける花火は美しく、このような光景を、こんな気持ちで見ることになるとは、数ヶ月前の私は全く予想もできていなかった。
隣に好きな人がいる。好きな人と、花火を見ている。
奇跡に近いことであり、私はゴクリと唾を飲むと、そっと隣に立つ奈古君を見つめた。
「す……好き」
上手い言葉は言えずにストレートに言ったものの、奈古君には届かなかったようで、私の言葉は花火の音に消されてしまう。
こんな風に、私の言いたいことは伝わらないことが多く、苦しい思いをすることは何度もあり、その度に落ち込んで自分の殻に閉じこもっていた。
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