上 下
32 / 95
第三章 『笑った方がいい?』

6

しおりを挟む






 あ、い、う、え、お。母音は出づらいから、希望のウーロン茶は無理。オレンジジュースも、アップルジュースも言えない。

 そしたら、ドキドキしながらメニュー表をを見ていると、視界に一本の指が表れて、ウーロン茶を差した。

「俺、ウーロン茶頼もうと思ってるんですけど、鳰さんも一緒でいいですか?」

 助け舟を出してくれた奈古君にコクコク頷くと、店員さんは笑顔で去っていき、私ははぁ、と大きく息をついてしまった。

「な……奈古君、ごめんなさい」

「すみません、言い辛かったですよね。ウーロン茶で良かったですか?」

「は、はい、第一希望だったので」

「鳰さんは、いつもウーロン茶頼まれるんですか?」

 そうですね、と苦しながら言うと、覚えておこう、と奈古君は言った。

「次食事に行った時、すぐ頼めるように、ですね」

「……次」

「もしあれば、ですけどね」

 お肉や野菜を決めた後は、奈古君が注文をしてくれて、私達はウーロン茶の入ったグラスで乾杯した。

「め、迷惑かけてしまって、すみません。私、の、方が、年上なのに」

「別にいいですよ。注文くらい、何も減るもんじゃないし」

「……す、すみません」

「いえいえ」

 そういえば奈古君って、まだアルコールが飲めない年なんだ。

「な、奈古君は、19歳……でしたっけ」

「そうですよ、鳰さんから見たらガキですよね」

「わ、若いな」

 まだピチピチの十代。今年25になったアラサーの私とは大違いだ。

「鳰さんは、今年25でしたっけ」

「……で、ですね」

「……あ、今更ですが、お酒じゃなくて良かったですか?」

「お、お酒は普段飲まないので、も、問題ないです」

 ウーロン茶をチビチビ飲みながら、奈古君をチラリと見ると、あちらも私を見ていたようで、目が合う。

 しかし、両者何も言わず、静かに沈黙が流れた。

「お待たせしました、こちら盛り合わせですね」

 そこでちょうど大皿のお肉と野菜を持ってこられ、鉄板の横に置かれる。

 思っていたより量が多いが、奈古君はやや嬉しそうな顔を見せた。

「美味そう」

「じゃ、じゃあ、焼きましょうか」

「鳰さんは、何肉が一番好きなんですか?」

「……うーん。と、鶏肉ですかね」

「一緒だ」

 奈古君は鉄板にお肉を並べると、ウーロン茶を一口飲む。

 目を伏せている表情も正直カッコ良く、よくよく見ると恥ずかしくなってくる。

「……何ですか」

「あっいえ……な、奈古君は身長何センチなんですか」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

夫の幼馴染が毎晩のように遊びにくる

ヘロディア
恋愛
数年前、主人公は結婚した。夫とは大学時代から知り合いで、五年ほど付き合った後に結婚を決めた。 正直結構ラブラブな方だと思っている。喧嘩の一つや二つはあるけれど、仲直りも早いし、お互いの嫌なところも受け入れられるくらいには愛しているつもりだ。 そう、あの女が私の前に立ちはだかるまでは…

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※完結済み、手直ししながら随時upしていきます ※サムネにAI生成画像を使用しています

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

処理中です...