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第三章 『笑った方がいい?』
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しおりを挟むしかしこの日はもう一人、桃園君も私に声をかけてきた。
「みーやちゃんっ、いたいた」
仕事終わり、疲労を感じながら中央会館を出て歩いていると、手首をキュッと握られ、振り向くと立っていたのは桃園君。
「みやちゃん、お疲れ様です」
「あっ……も、桃園君、お疲れ様です」
「ちょうど授業終わりなんですよー。これから帰る所で」
桃園君の近くには同じく学生であろう、男性が一人。そういえばこの間もこの人いたな。
知らない人が近くにいるだけで緊張が増し、益々喉がつっかえてしまう。友達がいるならば、わざわざ声をかけてくれなくてもいいのに……。
「みやちゃん、今日も夕飯これから作るんですか?」
「は、はい、スーパー寄って帰るつもりです」
「なら、アパートお邪魔させてもらって、俺に何か作ってくれませんか? すげー腹減ったんですよね……ハハ」
「え、いや……そ、それは……ごめんなさい」
冗談で言われことを丁寧に断ると、桃園君はやっぱり駄目ですよね、と言って頭をかいた。
瞬時に断ってしまった……。桃園君が部屋に来るイメージが付かない。
「へぇ、やっぱり桃園はこの人が本命なの?」
「林田、ちょっと煩い」
「どうも、友達の林田です。桃園からみやちゃんさんのお話は聞いてます」
えぇ、お話ってどんな話してるの……。
「いや、奈古はみやちゃんの手作りご飯食べたって言ってたから、それなら俺もと思ったわけで」
「……あ、あれは」
──奈古君、桃園君に話したんだ。
「何もないって奈古言ってたけど、俺不安になっちゃいました」
「ってなこと言いながら、桃園には彼女候補他にもいるけどねー」
「林田煩い、黙れ」
慌てる桃園君だが、私の病気のことに関しては何も言い出さない。桃園君ならば、何かしらを言ってきそうだが……奈古君から何も聞いていないのだろうか。
「それにしても、みやちゃんさんって、綺麗ですよねー」
“林田”と名乗った学生は私を見て、軽そうな笑顔を見せる。
「桃園と奈古がつるみたがるの、なんか分るわ。放って置けない感、ある」
「林田、お前チャラいから、みやちゃんにはガチで近付くなよ」
「それは俺の勝手だけど?」
「みやちゃんはお前と違って純粋だから、触らないで」
桃園君は林田君とじゃれ合いながらも、笑っている。
彼らが大学に入学してもうすぐ二ヶ月、もし大学で知り合ったのならば、まだたった二ヶ月しか一緒にいないのに、こんなに仲良くなれるのか。
すごいな、すごい、何で、そんなにすぐ友達を作れるのだろう……。声が出たら、世界の見え方は全く違うのかもしれない。
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