26 / 95
第二章 『何かが始まる時』
12
しおりを挟む炊き込みご飯を一口口に運ぶと、実家とは違う味だが結構好みの味で、もう一口。
「めっちゃ美味しいです」
「ホ……ホントですか?」
「はい、美味しい。鳰さんも食べて下さい」
電気を付けるか付けないか微妙な明るさで、夕日の沈むほんのり暗い部屋で、二人でご飯を食べる。
テレビは付いておらず、開けた窓からはアパートの前の道を通っているらしき、小さな子供達の無邪気な声が聞こえてきた。
「……良かったです。お、美味しいか、すごく不安だった」
「料理、成功ですね」
ホッとしたような表情を見せた鳰さんも、たけのこのステーキを食べて、美味しい……と呟く。
「昼間は、守屋さん? と出かけられてたんですね」
「そ、そうなんです。ちょっと買い物に行ってました」
「仲、良いみたいですね」
「……わ、私はそう思ってるんですけれど」
認めるんだ。幼馴染って、そういうものか。
「俺も、これからも、鳰さんと普通に話してもいいですか」
「……ふ、普通に……って?」
「病気が障害がどうこうってわけじゃなくて、会うことあったら、避けたりしたくないなって、思いました」
「……」
鳰さんは箸を止めて、暫く沈黙を挟むと、ゆっくり目線を上げた。
「……どうして、ひ、引かないんですか。おかしい……」
「引く引かないって、特にないですね。鳰さんは俺のこと、苦手そうだけど」
「そっれは……奈古君も同じかと……」
「いえ自分は、特に」
そこまで言うと、俺はスープを飲み、鳰さんから視線を逸らした。
別に無理に友達になろうとは思わないが、故意に避ける必要もないと思った。
ただ、それだけだ。
「作り過ぎましたね、余りそうじゃないですか?」
「あ、余ったら、持って帰ってもらって大、丈夫、ですよ」
「それは嬉しいですね」
「よっ、喜んでもらえた……のは、私も嬉しいです」
「大満足です」
言うと、俺は静かに頬を緩めた。押しかけた申し訳なさはある反面、言いたいことはサラッと伝えられたし、良しとしよう。
食事後、断られたが後片付けまで終え、お土産を持たされて部屋を出ろうとした所、俺は冷蔵庫に貼ってある一枚の写真が目に入った。
「これって、守屋さんですか?」
「あっはい、そうなんです……中学生の時の写真です」
「へぇ」
思春期のはずなのに、距離なく二人は笑顔でピースをしている。学ランを着ている守屋さんに、セーラー服姿の鳰さん。
「ずっと仲良いんですね」
「も、守屋君は……優しいから」
「優しいんだ」
「……は、はい」
──好き、なのか?
聞いたら好きでも違うって言いそうだが、こういう時の感って、結構当たったりする。
「じゃあ、今日はお邪魔しました」
「い、いえ……それじゃあ、ま、また」
「はい、また」
バタン、と扉が閉まっても、俺は暫く重い扉の前から動かなかった。
右手には、残りのご飯やおかずが入ったパックが入った袋の重みがある。
……今度、お礼しないと。何が好きか、シレッと聞いとけば良かった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる