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第二章 『何かが始まる時』

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「あ……の、奈古君、わ、私変、ですよね」

「え?」

 いきなりの話題変更に鳰さんを見ると、鳰さんは歩くのを止めない。

「こ、声の……ことです。私、ふつ、うに、話せないから」

 この件に関しては、できるだけ気にしないようにしていたし、簡単に触れてはいけない気がしていたから、本人から切り出されるとは思っていなかった。

「……話すの、きつそうだなとは思ってました」

「へ……変、だから。あまり、私に、か、関わらない方がいいですよ」

 物凄いネガティブな発言に、俺は返す言葉に困ってしまった。

「こ、喉頭ジストニア」

「……?」

「け、痙攣性発声障害って、いう、病気なんです」

 突然出てきた病名に、沈黙後、はてなが浮かぶ。

「も、桃園君には、中々言い出せませんでした」

「……そうだったんですね」

「わ、私まともに話せないし、き、気を使って話してもらわなくて大丈夫です」

 喉頭ジストニア? 痙攣性発声障害? 鳰さん、病気だって?

「命に係わる病気じゃ……」

「あっいえ、それは、ぜ、全然関係ないので」

「それで、声が出しづらいんですか?」

「そ……う、ですね。し、絞り出すような声、聞きにくいでしょ」

 鳰さんは一切俺を見ようとせず、下を向いて歩いてゆく。

「いえ、こちらこそ、言いにくいことを言ってくれて、ありがとうございます。てか、すみません。俺何も分かってなくて」

 ただ緊張しやすい性格で、病名がついているとまでは、思っていなかった。

「だ、だから、私、普通じゃないので。じゃ、じゃあ……この、辺で」

 スローペースで歩いていたが、気付けばアパートの前まで来ており、鳰さんは外階段を上ってゆく。

 表情は暗くてよく見えなかったが、鳰さんを纏う空気は重かった。

 え、何、すごい重要なこと、言われたよな……?

 さっきスーパーで微かに笑った鳰さんは、もう遠いものに感じてしまった。






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