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第六章 『ずっとにきを想ってた』

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 ドンドンッ、ドンッと、歯切れのよいリズムの音がぼんやり耳に入ってくる。

 日曜日、大会当日、当然のように翔馬は姿を現さなかった。

 私と舞子と、新入部員の一年生は、枠外から出場ペアのダンスを見学していた。

 出場ペアは全部で58組。老若男女、様々なペアが、独自の振り付けでダンスをしている。

 クイックステップ、曲名はシングシングシング。チャンスは一回、十組ずつが踊り、審査委員達が点をつけてゆく。

 ──あっ、宝君だ……。

 ステップを踏みながら私達の前にやってきた宝君と鷲尾さんが、ハイテンポのステップを踏む。

 バックロック ランニングフィニッシュ。

 本で読んだり、動画を見ただけだが、知っているステップを、二人は完璧に踊ってゆく。本当に息ピッタリで、見惚れてしまうくらいの素敵なペア。

 V6、シックスクイックラン、QQQQQQ……。

 宝君と鷲尾さんが中央に流れてゆくと、今度は部長達が前を踊る。こちらも負けていないくらい、メリハリとキレのあるダンス。

 ステップホップ×二回、ペッパシャッセ、Q&QQQ……。

 クイックステップはスタンダード種目のワルツ、タンゴ、ベニーズワルツ、スローフォックスロットの中で、一番難しいステップになっている。

 私はいつ踊れるようになるのやら……という感じだが、卒業するまでに踊れるようになれるといいなぁ、なんて。

 周りは手拍子をしていて、それに合わせて私もリズムをとる。

 踊っているペアはそれぞれ個性があり、皆楽しそうだ。

 やがてボヤボヤと流れていた曲が止むと、踊っていたペアは笑顔で退場していく。これでうちの部から出場した五ペアのダンスは全て終わり、後はこの後の結果を待つだけ。

 部長が部員を全員揃えて挨拶を終えると、結果発表まで、一旦解散となった。

 こう誰か挨拶する時は、必ず翔馬か鷲尾さんが横で手話をしてくれていたから、困ることはなかった……そう、翔馬がいたから。

 解散となり、私はバラけていく部員の中の一人、宝君の腕を握ると、彼は、ん? と立ち止まる。

 宝君には、翔馬のことを相談をしたかった。彼は翔馬が部活を辞めると言っていること、知っているのだろうか、知らないのだろうか。

 宝君と市民体育館を出ると、日に照らされた外階段に座って、私は買っておいたミネラルウォーターを宝君に差し出す。

【ありがとう】

 大きな口で分かるように言ってくれた宝君は、ゴクリと水を飲むと、私の持っていたメモとペンを受け取る。

“もしかして、轟のこと?”

“そう、翔馬が部活を辞めるって言ってて”

“うん、聞いてる。金曜日に、突然辞めるって言ってきたから”

 ──宝君にも言ってたんだ……。





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