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第二章 『色味を加えて、動き出す』
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しおりを挟む~轟翔馬~
俺だって、にきと踊りたいのに。
昨日、にきと宝先輩が体育館の真ん中で踊っている姿を、俺は端から横目で見ていた。
俺が突っ込まないと、にきは特に何も言わなかったが、何だか嬉しそうだった。そりゃ、そうだろう。宝先輩が来るまで、にきと舞子ちゃんは、瞳先輩から放置状態だったんだから。
五月の第二週末に、文化祭を控えている。
俺達新入部員も、そこで初めてダンスを披露することになっており、今は毎日練習をしている。
「部長、俺、にき……三保さんと踊りたいです」
練習中、近くまで様子を見に来た部長に、ダメ元で伝えてみたのだが……やはり、結果は見えていた。
「轟は桃ちゃんとペア組んでるじゃん。それは無理」
「うぅ……そこをどうにかならないんですか」
「三保ちゃん達は轟達より覚えるペースも遅いし、文化祭には間に合わないよ」
確かに、二人が俺達よりペースが遅れているのは分かっているが、それでも初めてのダンスのペアはにきが良かったのに……。
「ほら、轟、練習行ってこい」
「……はーい」
一度断られたが、まだ諦めるつもりはない。早く自分が上達して、にきをリードできるようにならなければ。
部長に背中を押され渋々桃の元に戻ると、どうやら俺と部長の会話が聞こえていたらしい。
「私がペアで悪かったね」
「ごめん、聞こえてた」
「私、耳いいから」
桃はフンッと顔を背けるものの、俺の腕を引いて練習を再開しようとする。
「翔馬君はにき、にきって、いつも三保さんのことばっかりだね」
「まぁ、幼馴染だから」
「とか言っちゃって、好きなんじゃない?」
男と違って女はそういう感に鋭いようで、隠す必要はないからと俺は頷く。
好きだよ、と言うと、一瞬驚かれたがすぐに納得された。
「やっぱりか、そういう感じしたもん」
「好きだから、一緒に踊りたい。にきが他の男とペアなんて、見てられない」
「翔馬君のペアが、好きじゃない私で悪かったね」
「いや、そういう意味じゃなくて。ごめんごめん」
桃のことが嫌いなわけでは決してないが、それとこれとは、また別の話で……。
壁の逆側では、瞳先輩がにきと舞子ちゃんのレッスンをしている。
だが、ピクリとも笑わずに、きつい目つき、優しさは見えない。そういう瞳先輩の態度に、俺は少しイライラしていた。
文化祭を控えており、皆短い練習時間の中で頑張ってはいるが、頑張っているのはにきや舞子ちゃんも一緒なのだから、二人を責めるのは筋違い。
気の強い舞子ちゃんは、何かあった時ははっきり言い返しそう。
でも、大人しいにきは、ぐっと堪えて自分の中に溜め込みそうで心配だ。
だから、少しでも本音を聞きたくていつも様子を見るが、にきの前向きな姿勢は変わらなかった。入部するまでは嫌そうだったものの、やるからには頑張ろうと思っているのだろう。
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