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第八章 『ブルージェット』
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しおりを挟む~篝千~
「では、これで全部ですね」
「はい、宜しくお願いします」
引っ越し業者に荷物の入った段ボール箱を手渡すと、俺は地下鉄乗り場へと向かった。
キャリーケース一つを持って、今日、このC街を離れる。
十月からは違う店舗のR式場での仕事が待っており、不安も大きいが、自分のスキルアップには必要だと前向きに捉えていた。
──っと、乗り場へ行く途中、マナーモードにし忘れていた携帯が着信を知らせ、慌てて着信を取ると、声の主は双川涼香だった。
『篝君、もう出てる?』
「うん、空港向かってるよ」
『そっか、今日行っちゃうんだよね』
英木達を含め、涼香と美野田さん、彼等には、俺は個人的に幸さんとのことを話していた。
幸さんと正式に付き合うことになり一週間、本日仕事の幸さんは見送りに来れず、多少寂しくても、でももうそんな程度じゃどうにもなかった。
『幸さんからも、直接聞いた。篝君のこと好きだって、ちゃんと言ってた』
「そっか」
『私も、負けずに篝君のこと、好きだったんだけれどな』
でも、と続けた涼香の言い方は、寂しげでもあり、キッパリともしていた。
『私達、遠距離でダメになったじゃん。だから、もし今回上手くいってても、またすれ違ってたかもなって思った』
「そうだったもんね」
『嫌な言い方をしたこともあったけれど、幸さん、悪い人じゃないと思うよ。改めて良かったじゃん、おめでとう』
幸さんに過去があるように、自分にも過去はある。
それでも、見ているのは未来であり、時間は前に進んでいる。
「涼香、電話ありがとう」
『お礼なんて言わないで。じゃあ、切るね』
「うん、ありがとね」
涼香の近くにいた自分がいたからこそ、今がある。
マイナスなことはあっても、全ては今に繋がっている。
「よし、行くか」
しかし、本当に驚いたのは空港であの美野田さんと、バッタリ出くわしたことだった。
なぜ彼がここに、と不思議には思ったが、隣には同じ年齢位の男性がいて、その人の見送りか出迎えか。
だが、あちらも前から歩いてくる自分の存在に気付くと、一瞬目を見開いた。
「美野田さん、お疲れ様です」
「篝さん、今から行かれるんですね」
「バッタリ会って、驚きました」
「ですね、こっちもです」
幸さんを取り合うようになって仲が良好ではなかったが、レストランウェディングの引継ぎをしてくれたのは美野田さんで、仕事上美野田さんは頑張っているように見えていた。
「いよりは来てないんですか」
「幸さんは、今日仕事らしいので」
「へぇ、そうですか。お気の毒で」
言い方は、前のように冷たいまま。
「俺、いよりのことまだ諦めてませんから。この先どうなっても、知らないですからね」
「……もう、大丈夫です。ちゃんと、気持ちは繋がっているので」
言うと、一瞬睨みつけてきた美野田さんですが、思いの他そのタイミングでペコリと頭を下げてきた。
「仕事の面では、お世話になりました。教え方、分かりやすかったので、何とかレストランウェディングやっていけそうです」
「いえ、こちらこそ、お世話になりました」
「じゃあ、俺はいきますね。まぁ、今後も頑張って下さい」
幸さんに辛い過去を作ってしまった、美野田さん。
そんな彼にも、これからも彼の人生があり、時間は止まらない。
幸さんと復縁をしてもらうのは困るが、なぜだか、心は温かいままで、俺は幸さんを信じることができたのだった。
間もなく出発のした飛行機の中で、俺は前向きな気持ちで、徐々に遠ざかってゆくC街を眺めた。
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2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
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