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第七章 『心の聲』
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しおりを挟む食事を終えた後、私達はカフェからそのまま砂浜を歩いて、夫婦岩の近くへと向かった。
時折跳ね返ってくる砂は温度が熱く、裸足で歩くのは大変そうだ。
この辺りは海水浴場ではなく観光スポットのため、水着で泳いでいる人は見当たらない。
「今日何度なんだろ」
「……天気予報で35℃超えるって言ってました」
「それじゃあ暑いはずですね」
暑いが海を眺めながら、のんびり夫婦岩の近くへ向かう中、時折篝さんと目を合わせる。
「幸さん、また俺とどこか出かけてもらえますか」
「私で良ければ……とは思うんですけれど、あの……篝さん、好きな人がいて……その件は大丈夫なんですか」
私は良くても、異性と二人で出かけることを良く思わない人もいると思う。
「特に問題ないですよ」
「……でも」
「幸さんはそんなこと気にしないで。大丈夫だから」
ね、と言われてはどうにも言い返せなくて、私は黙り込んでしまう。
やがて砂浜を五分程歩くと、観光客の集まる夫婦岩を近くで見れる場所に到着し、夫婦岩とその手前に立っている白い鳥居を見つめる。
美しい景色を写真に残そうと携帯を取り出すと、同じタイミングで篝さんもまた携帯で写真を撮ろうとしていた。
「篝さん、今日は誘ってくれて、ありがとうございました」
「こちらこそ、一緒に来てくれてありがとうございました」
写真を撮り終わり篝さんの方を見ると、彼はまだ携帯を海の方に向けていて、私には篝さんの横顔が目に映る。
やけに整った顔に、穏やかな表情。
出会った頃からいつも寄り添ってくれて、隣にいてくれた篝さん。
もうすぐ転勤で遠くに行ってしまうかもしれない、篝さん。
他に好きな人がいる、篝さん。
「幸さん、あの、俺」
じっと見ていたから、ふいにこちらを見てきた篝さんとバッチリ目が合い、咄嗟に逸らしてしまう。
「こっち見てくれませんか」
言われ、そっと顔を上げると、篝さんは珍しく笑っていない。
「大事なこと、言ってもいいですか」
「……え?」
……っと、次の瞬間、言われた言葉に私は目を見開いてしまった。
「え……えっと……えっ……」
──幸さんのことが、大好きです。
「あ、あのっ何かの冗談じゃ」
「幸さんのことが、好きなんです」
真面目な顔の篝さんが私を見下ろしており、私は硬直する。
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