エタニティ・イエロー

宝ひかり

文字の大きさ
上 下
40 / 83
第四章 『二つを重ねて』

11

しおりを挟む







~美野田駿~

「二人って、どんな関係なんですか」

 とても意外な組み合わせのいよりと篝さんに、ダイレクトに尋ねると、いよりの眉が目に見えて更に下がる。

「友達ですよ」

 答えたのは篝さんで、篝さんはいよりと目を合わせて、一度頷く。

 正直、二人がどうこうとか……全く、微塵も考えたことなどなかったから、かなり驚きだ。

 見るからに感じ取れる、俺以外への男性に接するいよりの態度は、酷いもんだ。そう、篝さんといよりが二人で話しているのは、見たことはあるものの、いよりはピクリとも笑わずに怯えているようだし、キラキラしている篝さんがいよりを特別視しているようにも、見えなかった。

 何、友達って、どういうこと?

「じゃ……じゃあ、また」

 居たたまれなくなったらしいいよりがペコリ頭を下げ、二人が去って行くと、俺の両親はポカンと口を開いたまま、後姿を見ている。

 今日は祭日ということあって、両親が実家からC街まで日帰りで出てきており、三人でA池を巡っていたのだ。

 そこでばったり出くわした、意外な二人。

 ──は、いや、何なんだよ。二人って。

「俺、今、結婚式場で働いているって、言ってたじゃん。で、今いよりがいるMレストランで、レストランウェディング担当してるんだ」

「あら、え、そうなの? じゃあ、いよりちゃんとは久しぶりに会ったわけじゃないの?」

「うん、よく顔合わせてる。俺、いよりに嫌われてるけどね」

 すっかり笑わなくなったいよりは、時間が止まっているはずだったのに、それは自分の方で、いよりは前に進もうとしているのだろうか。

 そこに、もう俺の居場所はないのだろうか。

 好きで、好きで、結婚して、でも裏切って、酷いことしか言えなくて、戻りたいのに、戻れない。

 時間は待ってくれない、過去には戻れない。

 ──いよりを裏切ったのは、俺だ。

 それでも、どうにか、さ。また歩み寄ってはくれないのか。

 簡単に裏切ってしまったこと、本当に、本当に、今は後悔しかしていないんだ。俺の時間こそ、離婚が成立したあの日から止まったままだ。

「俺、ちょっと行ってくる」

「え? 駿?」

「先、店入ってて」

 気付けば両親に言い残し、俺は速足で店の前を離れ、二人が歩いて行った方向に、自分も続くように足を速める。

 何を、どうしたいのかは、分からない。

 それでも、いてもたってもいられずに、速足がやがて小走りになり辺りを見渡しながら走っていると、やがて、脇道の紅梅餅の店にできている列の最後尾に、いよりと篝さんの姿を見つけた。

 二人は話しているが、依然いよりは笑ってはいない。

 笑ってなどいないのに、何故あの人と一緒にいるのか。

「いよりっ」

 駆け寄り二人の前に立ち止まると、いよりは瞬きさえもせずに、口を半開きにしたまま固まる。

「……どうしたの」

「どうしたって……」

 どうしたって──

「お前が、心配で」

「……心配って?」

「篝さんと……男と二人でいるから、大丈夫かなって」

 俺は勝手に、いよりの時間も止まったままだと思っていた。

 もうほぼ男性恐怖症にも見えるいよりは、これ以上誰も好きになることはできないかもしれない。だから、あわよくば、俺ならば、俺とならば、もう一度って──

「……大丈夫だよ。友達……だから」

「ホントに友達なの?」

「……うん、友達、だと思ってる」

 いよりはボソリ言うと、目を逸らしてバッグの持ち手にギュッと力を入れるのが分かった。一生懸命、俺と話をしているのが伝わってくる。

「友達なら、一緒にいていいのか」

 友達ならば、二人で会えるのか。

 こんな風に、隣を歩けるのか。

 友達ならば、歩み寄ろうとしてくれるのか。

 だったら、だったら俺だって──

「俺も、いよりの友達になりたい」

「……え」

「友達になりたい。それだけだから。じゃ」

 そんなの嫌だと断られる前に言い残すと、俺は振り返ることなく走り去って行く。心臓は、何故だかドキドキしていた。

 どうにも、あの篝さんから、これからいよりを奪われてしまう気がしてならなかったのだ。

 明るい太陽のような篝さんに照らされたいよりは、変わってしまうのか?

 俺の前から、いなくなってしまうのか?







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

気づいたときには遅かったんだ。

水無瀬流那
恋愛
 「大好き」が永遠だと、なぜ信じていたのだろう。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

処理中です...