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第四章 『二つを重ねて』
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しおりを挟む~美野田駿~
「二人って、どんな関係なんですか」
とても意外な組み合わせのいよりと篝さんに、ダイレクトに尋ねると、いよりの眉が目に見えて更に下がる。
「友達ですよ」
答えたのは篝さんで、篝さんはいよりと目を合わせて、一度頷く。
正直、二人がどうこうとか……全く、微塵も考えたことなどなかったから、かなり驚きだ。
見るからに感じ取れる、俺以外への男性に接するいよりの態度は、酷いもんだ。そう、篝さんといよりが二人で話しているのは、見たことはあるものの、いよりはピクリとも笑わずに怯えているようだし、キラキラしている篝さんがいよりを特別視しているようにも、見えなかった。
何、友達って、どういうこと?
「じゃ……じゃあ、また」
居たたまれなくなったらしいいよりがペコリ頭を下げ、二人が去って行くと、俺の両親はポカンと口を開いたまま、後姿を見ている。
今日は祭日ということあって、両親が実家からC街まで日帰りで出てきており、三人でA池を巡っていたのだ。
そこでばったり出くわした、意外な二人。
──は、いや、何なんだよ。二人って。
「俺、今、結婚式場で働いているって、言ってたじゃん。で、今いよりがいるMレストランで、レストランウェディング担当してるんだ」
「あら、え、そうなの? じゃあ、いよりちゃんとは久しぶりに会ったわけじゃないの?」
「うん、よく顔合わせてる。俺、いよりに嫌われてるけどね」
すっかり笑わなくなったいよりは、時間が止まっているはずだったのに、それは自分の方で、いよりは前に進もうとしているのだろうか。
そこに、もう俺の居場所はないのだろうか。
好きで、好きで、結婚して、でも裏切って、酷いことしか言えなくて、戻りたいのに、戻れない。
時間は待ってくれない、過去には戻れない。
──いよりを裏切ったのは、俺だ。
それでも、どうにか、さ。また歩み寄ってはくれないのか。
簡単に裏切ってしまったこと、本当に、本当に、今は後悔しかしていないんだ。俺の時間こそ、離婚が成立したあの日から止まったままだ。
「俺、ちょっと行ってくる」
「え? 駿?」
「先、店入ってて」
気付けば両親に言い残し、俺は速足で店の前を離れ、二人が歩いて行った方向に、自分も続くように足を速める。
何を、どうしたいのかは、分からない。
それでも、いてもたってもいられずに、速足がやがて小走りになり辺りを見渡しながら走っていると、やがて、脇道の紅梅餅の店にできている列の最後尾に、いよりと篝さんの姿を見つけた。
二人は話しているが、依然いよりは笑ってはいない。
笑ってなどいないのに、何故あの人と一緒にいるのか。
「いよりっ」
駆け寄り二人の前に立ち止まると、いよりは瞬きさえもせずに、口を半開きにしたまま固まる。
「……どうしたの」
「どうしたって……」
どうしたって──
「お前が、心配で」
「……心配って?」
「篝さんと……男と二人でいるから、大丈夫かなって」
俺は勝手に、いよりの時間も止まったままだと思っていた。
もうほぼ男性恐怖症にも見えるいよりは、これ以上誰も好きになることはできないかもしれない。だから、あわよくば、俺ならば、俺とならば、もう一度って──
「……大丈夫だよ。友達……だから」
「ホントに友達なの?」
「……うん、友達、だと思ってる」
いよりはボソリ言うと、目を逸らしてバッグの持ち手にギュッと力を入れるのが分かった。一生懸命、俺と話をしているのが伝わってくる。
「友達なら、一緒にいていいのか」
友達ならば、二人で会えるのか。
こんな風に、隣を歩けるのか。
友達ならば、歩み寄ろうとしてくれるのか。
だったら、だったら俺だって──
「俺も、いよりの友達になりたい」
「……え」
「友達になりたい。それだけだから。じゃ」
そんなの嫌だと断られる前に言い残すと、俺は振り返ることなく走り去って行く。心臓は、何故だかドキドキしていた。
どうにも、あの篝さんから、これからいよりを奪われてしまう気がしてならなかったのだ。
明るい太陽のような篝さんに照らされたいよりは、変わってしまうのか?
俺の前から、いなくなってしまうのか?
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