エタニティ・イエロー

宝ひかり

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第四章 『二つを重ねて』

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~篝千~

「篝さん、こっちこっち」

 駅の大画面前にて、俺は待ち合わせをしていた人物を見つけて、小走りで近付いてゆく。

「ごめんなさい、待たせましたか」

「いえいえ、こっちも今来た所。ね、いより」

 今自分の目の前に立つのは、英木の彼女である尚美さんと、Mレストランで働く幸さん。

 六月に入ってすぐの祭日、今日休日だった俺は、尚美さんと幸さんと、英木の誕生日プレゼントを探すために三人で集まっていた。

「さ、それじゃあ行きましょうか」

 手を叩いて横断歩道を渡り始めようとする尚美さんと、こうして個人的に会うのは初めてなのだが、知り合いに幸さんもいるから、是非三人で選ぼうと今回誘ってくれたのだ。

「大体のイメージは、もう決めてるんですか?」

「あー、そうね。アクセサリーがいいかなって、思ってるんです」

 尚美さんの横を歩くと、少し距離を置いて後ろを歩こうとする幸さんに視線がいって、人の多い横断道路の中、俺は右手で幸さんの細い手首を握る。

 振り払われるよりも前に、自分と尚美さんとの間に幸さんを連れてくると、何事もなかったかのように触れた手を離して、歩道を渡りきる。

 一瞬目が合った幸さんに笑いかけると、笑顔は向けられなかったが、拒否されることなく三人でファッションデパートの中に足を踏み入れた。

 ここはレディース・メンズの洋服を中心に販売しているデパートで、自分も何度も来たことがある場所であり、今でもたまに買い物にも来る。

「実はこの間一人で一回来て、大体の目星は付けているんですよね。でも、私メンズ物ってよく分からないから、篝さんにも一緒に選んでほしくて」

「俺なんかの意見で、参考になればいいんですけれど」

「篝さんオシャレでカッコ良いし、センスありそうだなって」

「いやいや、そんな誉めても何も出ませんよ」

 俺が笑うと、緊張の様子なく尚美さんも笑う。

 目指すは六階のメンズフロア、尚美さんの次に、幸さん、自分の順番でエスカレーターに乗っているのだが、幸さんが小柄なため、すぐ後ろに乗る自分とほぼ身長差がなくなっている。

 いつも下から首を上げてこちらを見ているのが印象的で、その艶やかな栗色の髪の毛を眺めていると──

 ふとした瞬間に、何を思ったのか幸さんがこちらを振り返ってきたではないか。

 息のかかりそうな程近い距離に、こちらも一瞬ドキッとして固まると、幸さんの顔が見る見るうちに赤くなってゆく。

 あまりの緊張からなのか、瞬きさえもせずに硬直する姿に、俺はおかしくなって、途中でクスリと笑ってしまった。

「幸さん、大丈夫?」

 人差し指で赤くなった頬をツンツン突くと、ますます茹蛸のように頬を真っ赤にした幸さんは、次の階に着くのと同時に、バッと俺から顔を背けた。

 先日、幸さんから仲良くなりたい、と言われ、俺達は今、きっと友達なのである。

 餃子を摘まみ、甘いチューハイを飲んでいたあの時の幸さんは、いつもより少しだけ空気が軽くて、そこに本来の彼女の姿を、僅かにだが見えた気がしていた。





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