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第四章 『二つを重ねて』
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しおりを挟む篝さんはもう一杯今度はレモンサワーを注文すると、運ばれてきた天津飯を大盛りにスプーンに取ってモグモグ頬張り、リラックスした状態で話を進めた。
「お酒飲んで、少しは緊張取れました?」
「はい、少しは……何か、尚美が、私お酒飲むと普通の時より笑うようになるって、言ってました」
「あ、英木もお酒飲むと笑い上戸になりますね。でもそういうの、良くないですか?」
一緒にいて楽しいし、と言う篝さんに、私は微かに口角が上がるのを自分で感じながら、同じく天津飯を口に運ぶ。
「尚美さんから、彼氏の友達を紹介するって言われてたんですよね。その相手、俺だったって聞いてました?」
「……そうですね、この間バッタリ会った後に、聞きました」
まさか知り合いだとは思わず、断ってしまって申し訳なさを感じる。
「私まだ……恋愛する余裕、なくて」
「無理して急がなくても、いいと思いますよ」
「素敵だなって思える人と出会って、またその人と笑い合える日が、いつか来たら……凄い進歩だなって、思ってます」
「ですね、いつか」
篝さんは私の事情に少し踏み込んでくるが、そこにしつこさはなく、私は言える範囲で話を進めるため、自然と悪い気はしない。
「駿ちゃ……美野田さん、職場ではどんな感じなんですか」
「頑張って働かれてますよ」
「そうなんだ……別れてからは、私美野田さんのこと、何も知らないから」
聞こうと思えば本人は教えてくれるだろうが、駿ちゃんと目を合わせて話をする気持ちになれない。
篝さんとは友達になれても、駿ちゃんとはそうはいかない。
「あの、言っていいのか分からないんですけれど……離婚の理由、この間美野田さんが話してくれましたよ」
「え……そうなんですか」
「俺の父親が浮気性で、小さい頃から母が泣いているは見てきたので、幸さんが辛かった気持ちは、分かる気もします」
だから浮気なんて、正直ないな、なんて、篝さんは言葉を紡いで、今まで笑っていたのに、苦笑した。
「引きませんか……離婚したって」
「何でですか。引きませんよ」
「……ホント?」
「だって、幸さんは何もしてないじゃん」
篝さんの言葉に、私はもう一口お酒を口に含むと、少しだけ心が軽くなるのを感じて、いつも自分を引っ張っている縄が、緩みを見せた。
「お酒を飲んでいるからかな、こういう話をしても、今泣いたりしてません」
「そっか良かった。でも、実家の両親も心配するだろうし、早めに帰りましょうね」
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