エタニティ・イエロー

第三章 『落涙の後に』

5

「尚美」

　そして呟いた英木は、俺の元を離れて、前方から歩いてくる女性に駆け寄り、嬉しそうに笑顔を見せる。

　しかし、その尚美さんの隣にいる人物を確認して、俺も早足に彼等に近付いた。

「幸さん」

　初対面の尚美さんの隣にいるのは、いつもはＭレストランでしか見かけない幸さんがいて、彼女は俺を見て一瞬目を見開いた。

「……篝さん」

　幸さんは、英木の彼女の友達……？

「篝、俺の彼女の尚美」

「はじめまして、梶尚美です。いつも英木君がお世話になってます」

「いやいや、こちらこそ。はじめまして、篝です」

　どうやら初対面同士の者も多いようで、駅前の大画面前で、四人自己紹介をするものの、幸さんだけは俯きがちで、声もか細い。

　それは、初対面の英木がいるから？　それとも、俺がいるから？

　幸さんは、いつも笑わない。接客中は笑顔を見せているが、それは作り物のようで、どうにも本心からの笑顔には思えなかった。

「尚美達は今からどこ行くの？　もう帰る所？」

「うん、そう。ちょうどここで別れようとした所だった」

「へぇ、いよりさん、可愛いね」

　根は真面目な英木だが、わざとげに幸さんにデレデレすると、尚美さんがバシンッと英木の頭を叩く。

「そういうの、いより嫌いだから。英木君達は、もう一軒行く所だった？」

「そうだね、考えてた。篝、どうする？」

「あー……そうだね。でも、今日は帰ろうかな」

　英木に尋ねられ、少し間をおいて返事をすると、英木は若干残念そうだが、俺は幸さんと電車で一緒に帰ることを選択した。

　それは、夜一人で帰らせるのもなんだから、と思っていたのと、幸さんと少し話をしたい、というのもあったわけで。

「じゃ、篝、いよりさん、今日はここで」

「いより、気を付けて帰ってね」

「尚美、今日はありがとう。また近いうちに会おうね」

　尚美さんの言葉頷いた幸さんと、二人に手を振り返しながら、改札に向かうためにエスカレーターに乗る。

　こうして外で二人きりになるのは、随分前に感じる。

「幸さん、今日は仕事だったんですか？　お休み？」

「今日は早番でした。篝さんは？」

「俺は一日休みでした。家でゴロゴロ過ごした後に、夕方から英木と飲んでたんです」

　改札の前まで来て、奥の掲示板を確認すると、特急電車は行ったばかりで、あと三十分程時間が残っている。

　Ｓ田に止まる普通電車はもうすぐ発車するようだが、一緒に特急を待っていようとすると、やはりというか、幸さんは先に帰っていいと言ってきた。