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第二章 『空っぽの中に』
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しおりを挟む「篝さん、先に帰っていて下さい。俺ちょっと、話してきます」
「幸さんとですか?」
「はい、久しぶりなので」
Mレストランでの打ち合わせを終えたその日、俺は店内でいよりを探す。
森川店長に居場所を聞くと、休憩中らしく、式場のスタッフである俺は、信用されてすぐに休憩室へと案内された。
そして、俺がいざ扉を開くと、いよりはマグカップに口をつけており、こちらを見た途端やはり顔を青くして立ち上がる。
「……駿、ちゃん」
「うん、久しぶり」
「な、何、しにきたの……」
異様にびくつかれ、明らかに挙動不審のいよりは、一歩後ろに後ずさる。
「元気かなって思って」
「……私は、まぁ」
「俺もまぁ、何とか食いつないで暮らしているよ」
「そ……そうなんだ」
姿形の変化は見られないいより。栗色に染めた髪の毛も、胸まで伸びた長さもも、変わっていない。
「ちゃんと元気でいるいよりを見て、安心したよ」
「……元気なんて、そんなこと簡単に言わないで」
「あの時はごめん。本当に反省してる」
「今更……謝らないで。もう過去のことは……思い出したくない」
小声で呟くいよりの言葉をちゃんと聞き取りたくて、俺はいよりに近付いたのだが、そこでいよりが大きな声を出してしまった。
「こっちに来ないでっ!」
血の気の引いた顔のまま、大声を出され、そこで歩み寄るのをやめる。
「……いより」
「もう私に、関わらないで。……帰って」
「……そっか、うん、分かったよ」
責められて当然の俺は、いよりの言葉に従う他なく、休憩室を後にする。
幸いいよりの鋭い声を聞いている者はいなようだが、あのいよりの拒絶の仕方には俺も一瞬硬直した。
恐ろしい物をでも見たかのようないよりの表情が、頭の中で再度思い出された。
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