エタニティ・イエロー

宝ひかり

文字の大きさ
上 下
11 / 83
第一章 『私の日常』

6

しおりを挟む






~篝千《かがり せん》~

 北の田舎町からC街に出てきて、四年大学を卒業後、俺はC街内にある結婚式場に勤めることになった。

 人々の幸せな瞬間に携われることは嬉しく、結婚式場に就職したいというのは、高校の時からの夢で、その夢を見事に叶えることができた。

 大学卒業時の22歳から働き始め四年、今年26歳の誕生日を迎えたのだが、一人前のウェディングプランナーになるには、まだまだこれからだ。

「篝さん、今日はMレストランに行くのよね?」

「はい、試食会が入っているので。松本《まつもと》さんと行ってきます」

 松本さんは俺の上司で、尊敬できる女性プランナー。松本さんはいくつかの店舗を転勤し、元々は経理の事務をしていたのだが、数年前から本人の希望でプランナーとして働いている。

 元々俺の勤めるこのR式場でも、チャペルや披露宴会場があり毎週末結婚式が行われているものの、これからMレストランでのレストランウェディングも、この式場が引き受けることになっていたのだ。

 主な担当は自分になりそうだが、今日は松本さんも一緒にMレストランに向かう。

「篝君、この間Mレストラン見てきたんでしょ。どうだった?」

「中は広くて吹き抜けだし、素敵な所でしたよ」

 今日は会場であるMレストラン現地集合であり、四組のカップルが試食会に参加する予定である。

 式場からバスに乗って十五分、そこから歩いて五分行くと、大通りに面してMレストランは立っている。ここへ来るのは先日の見学会以来である。

「こんにちは、お世話になります」

 扉を開けると、おそらくスタッフである一人の女性が出迎えてくれ、店内には二組のカップルが席についていた。

「森川店長いらっしゃいますか」

「はい、お呼びしますので少々お待ち下さい」

 スタッフは笑顔でここを去り奥の部屋に消え、そこで俺は室内隅の方に立つ、一人の女性に目がいった。

 彼女の名前は知らないが、一度駅の改札口でぶつかってしまい、このレストランで再会した。どうやらここで働いているらしい。

 見るからにおどおどしていて、何だか挙動不審気味のため、忘れることはなかったのだ。

「え、いよりさん?」

 しかし、俺が彼女に挨拶をしに行くよりも前に、隣に立つ松本さんが笑顔で彼女に駆け寄っていく。

 続けて自分も後を追うと、松本さんが親しげに彼女に話しかけ、相手の方も驚いているように見えた。

「……松本さん?」

「そう、松本。R式場でいよりさん達を担当していた、プランナーの松本です」

 “いより”と呼ばれた女性は小さく頷きながらも、下を向きがち。

「篝君、この方、私が入社後初めて一人で担当した、美野田いよりさんなの。わぁっ、お久しぶりですね」

「そう、ですね。お久しぶりです……」

 元気のなさそうなか細い声で話をする美野田さんは、松本さんとは違い笑顔を見せない。

「その後、旦那様とは上手くいってますか? お二人、お似合いだったもんなぁ」

「それが……その」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?

ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。 しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。 しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

アクセサリー

真麻一花
恋愛
キスは挨拶、セックスは遊び……。 そんな男の行動一つに、泣いて浮かれて、バカみたい。 実咲は付き合っている彼の浮気を見てしまった。 もう別れるしかない、そう覚悟を決めるが、雅貴を好きな気持ちが実咲の決心を揺るがせる。 こんな男に振り回されたくない。 別れを切り出した実咲に、雅貴の返した反応は、意外な物だった。 小説家になろうにも投稿してあります。

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

処理中です...