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『プロローグ 私のこと、嫌いだった?』
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実家に帰って一週間を過ぎても、駿ちゃんからは未だ何も返信がないまま。
最初の一日こそ返事を待っていたが、頑固な駿ちゃんの方から連絡が来るとは思えなかった。
だが、痺れを切らした父が、週末に駿ちゃんに電話をかけてしまったのだ。
いつも朗らかな父が電話口で怒っており、そこで初めて駿ちゃんから返事が届いた。
【ごめん】
普段謝らない駿ちゃんから、このように謝られたのは初めてだったと思う。
私は二週間ぶりにアパートに帰ることになり、しかし、いざ駿ちゃんと会うのが、とても怖くて仕方がなかった。
駿ちゃんは何を言うのだろう。弁解するのだろうか、それとも認めるのか……。
週末、運転席には父が、そして助手席には母が乗る車の後部座席に私も乗っていた。車内では至って普通に話をするものの、心はさわさわ揺れており、膝の上に置いた握り拳に力を入れる。
ちゃんと進むために必要な時間なんだ。逃げることはできない。
下道を三時間かけて小さな街に向かうと、やがて久しぶりに見る、ティファニーブルーの二階建てのアパートが見えてきた。
ゴクリ唾を飲んで、下の駐車場で両親と別れると、一人二階に上がってインターホンを押す。
三ヶ月この家にしっかり住んでいたのに、こんな気持ちで帰るとは……。
インターホンを深く押して暫くすると、ガチャリと扉が開かれ、久しぶりに見る駿ちゃんが立っていた。
「来たんだ」
「……うん、話をしに」
「上がったら」
「……うん」
あんなに愛していた駿ちゃんと一緒にいるはずなのに、苦しくて、苦しくて、息が詰まりそうだ。
リビングに入ると、片付けたのかお弁当の空などはなかったものの、洗濯物がぐしゃぐしゃになったまま床に落ちている。
今まで食事洗濯は専業主婦の私の役目だったから、いなくなって駿ちゃんは困ったかもしれない。
コタツに座ると、駿ちゃんはもちろん笑うことなく私の向かい側に座って、バツが悪いのか下を向いたまま。
「あの……カードのこと、見たって言ったよね」
「うん」
「私と付き合ってる時に……行ってたの?」
「……そうなるね」
沈黙を挟んだ後に呟いた駿ちゃんを見た瞬間、駿ちゃんの表情が揺らぎ始める。
「この間、床に落ちてたコンドームは」
「まぁ」
「まぁって、合同説明会の時に行ったの……?」
「うん、ごめんけど、そうなるね」
淡々と答える駿ちゃんは、本当に悪いと思っているのだろうか。私には、そんな風には見えない。
「私は……そんな所に行って、浮気をするような人の妻では……いたくありません」
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