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シーン12 〜本当の名前~
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「今朝、誰かが外を出歩いていたとか、、、そういう情報はないですか?」
ボンクラー警部補が、集まってきた使用人たちに聞き込みを始めた。
「そういえば、シン・ハンニン神父が雨の中、歩いているのを見ました! それと、何か段ボールをもっていたような、、、」
ボンクラー警部補の目がキラリと光った。
「ほう! 段ボールですか? これと同じような?」
「私もちらっとみただけで、よく見えなかったんですが、、、」
自信なさげに、口ごもった男性使用人の隣で、もう一人の女性使用人が声をあげた。
「それでしたら、私が説明できます! ちょっと待っていて下さい。」
女性使用人は、すたすたと歩いていくと、どこからか一つの段ボールを持ってきた。
「おや、これはまた、別の段ボール箱ですかな。」
不思議そうにしているボンクラー警部補の前で、箱をあける。なんだなんだ、、、と、フラグミールも近寄ってきた。
中に入っていたのは、三匹の子猫だった。まだ生まれたばかりのようで、つぶらな瞳をこちらに向けて力なく、みゃあみゃあと泣いている。
「かんわいー♪」
思わずフラグミールが、相好を崩す。
「中にはこんな紙も入っていました、ほら」
女性使用人が、トランプのようなサイズに折りたたまれた白い紙を取り出す。よく見ると、それはメッセージカードだった。
中には、ざっくりいうと以下のような内容が書かれていた。
「僕たちを拾ってくれた 親切な方へ
僕たちは、野良猫の三人兄弟です。お母さん猫は、車にひかれてしまいました。お世話をしてくれる方を探しています。
どうか、やさしくしてください。いい子にします」
「、、、神父さんったら、母猫の死を見て、いてもたっても、いられなくなったんでしょうね。この可愛い、三匹のおちびちゃんたちの魂を救済すべく、こうやって段ボールに入れて、雨の中大事に守りながら、拾い主を探していたんだと思いますよ。」
「しかし、何もこんな風にしなくても、おおっぴらに飼い主を探せばよいのでないのですかな。」
ボンクラー警部補が、首をひねりながら言った。
「それはですね、警部補さん。この島特有の、事情があるのですよ。」
女性使用人が、説明を始めた。
いわく、このゼッカイ島には昔から、絶滅危惧種に指定された鳥がいて、行政から慎重に保護されている。ところが最近では、不心得ものが捨てた猫が山で野生化し、絶滅危惧種の鳥を襲って食べてしまうことがあるというのだ。
行政としては当然、「猫よりも鳥が優先」となる。そこでなんと、この島では野生の猫は捕獲・駆除の対象であるということだった。ーー去勢されていない猫たちの、予期せぬ繁殖を防ぐためにも、公共施設や、教会などでは猫を飼うことが許されないのだという。
「だからこの三匹の猫ちゃんたちにしても、飼い主を探すなら、こっそりやらないといけないんです。『母猫が死んで、取り残された子猫が三匹いる』だなんて保健所に通報したら、これはもう、とたんに駆除されてしまいますからね。この島では、一般家庭で首輪をつけられて、誰かのペットであると役所に申請された飼い猫のみが、存在が許されるんです」
女性使用人は、やるせない表情をした。
「神父さんはそこが分かっているから、批判を覚悟でこっそりと、こんな風に野良猫のちびちゃんたちを段ボールに入れて目立つ場所においたんでしょうね、、、運よく優しい人に拾われて、飼い猫にしてもらえれば、この子たちは助かりますから。」
やはり、神父さんは善人だな、、、と、ボンクラー警部補は考えた。
「ところで、シン・ハンニンって、ちょっと変わった名前ですよね?」
ふと思い出したように、フラグミールが言った。
「ああ、ちなみにそれは、略称です」
屋敷の使用人が、妙なことを言う。
「というと?」
「これもこの島の、独特の風習なんですが、昔からこの島に住んでいる人間は名前が長いんです。個人名+母方の旧姓+祖父母の名前+守護聖人の名前みたいな、、、だから神父さんの本名は、たしか シン・プサンハモ・ハンニン・ゲンデス、という名前だったはずです。」
「確かに、長いですね。シン、、、なんでしたっけ。」
「シン・プサンハモ・ハンニン・ゲンデス。それにしても神父さんは本当に、模範的な人間、『模範人間』だと思いますよ」
「ーー神父さんは、模範人間です、か。」
ボンクラー警部補が、噛みしめるように言った。
「確かに、神父さんはいつも笑顔を絶やさず、無益な殺生を好まない人間のようですな。雨の中、段ボールを抱えて歩いていたのも、そういう理由があってのことか、いやよく分かりました。」
いつの間にか、メイタンテーヌもそばに来ていた。一連の会話を聞いていたらしい。
「まあ、神父さんが真犯人ってことは、ないですよ。」
誰にいうともなく、呟く。
「私とフラグミール君が犯人でないのと、同じくらい、、、可能性としては、ないと考えてもらって大丈夫です。」
ボンクラー警部補が、集まってきた使用人たちに聞き込みを始めた。
「そういえば、シン・ハンニン神父が雨の中、歩いているのを見ました! それと、何か段ボールをもっていたような、、、」
ボンクラー警部補の目がキラリと光った。
「ほう! 段ボールですか? これと同じような?」
「私もちらっとみただけで、よく見えなかったんですが、、、」
自信なさげに、口ごもった男性使用人の隣で、もう一人の女性使用人が声をあげた。
「それでしたら、私が説明できます! ちょっと待っていて下さい。」
女性使用人は、すたすたと歩いていくと、どこからか一つの段ボールを持ってきた。
「おや、これはまた、別の段ボール箱ですかな。」
不思議そうにしているボンクラー警部補の前で、箱をあける。なんだなんだ、、、と、フラグミールも近寄ってきた。
中に入っていたのは、三匹の子猫だった。まだ生まれたばかりのようで、つぶらな瞳をこちらに向けて力なく、みゃあみゃあと泣いている。
「かんわいー♪」
思わずフラグミールが、相好を崩す。
「中にはこんな紙も入っていました、ほら」
女性使用人が、トランプのようなサイズに折りたたまれた白い紙を取り出す。よく見ると、それはメッセージカードだった。
中には、ざっくりいうと以下のような内容が書かれていた。
「僕たちを拾ってくれた 親切な方へ
僕たちは、野良猫の三人兄弟です。お母さん猫は、車にひかれてしまいました。お世話をしてくれる方を探しています。
どうか、やさしくしてください。いい子にします」
「、、、神父さんったら、母猫の死を見て、いてもたっても、いられなくなったんでしょうね。この可愛い、三匹のおちびちゃんたちの魂を救済すべく、こうやって段ボールに入れて、雨の中大事に守りながら、拾い主を探していたんだと思いますよ。」
「しかし、何もこんな風にしなくても、おおっぴらに飼い主を探せばよいのでないのですかな。」
ボンクラー警部補が、首をひねりながら言った。
「それはですね、警部補さん。この島特有の、事情があるのですよ。」
女性使用人が、説明を始めた。
いわく、このゼッカイ島には昔から、絶滅危惧種に指定された鳥がいて、行政から慎重に保護されている。ところが最近では、不心得ものが捨てた猫が山で野生化し、絶滅危惧種の鳥を襲って食べてしまうことがあるというのだ。
行政としては当然、「猫よりも鳥が優先」となる。そこでなんと、この島では野生の猫は捕獲・駆除の対象であるということだった。ーー去勢されていない猫たちの、予期せぬ繁殖を防ぐためにも、公共施設や、教会などでは猫を飼うことが許されないのだという。
「だからこの三匹の猫ちゃんたちにしても、飼い主を探すなら、こっそりやらないといけないんです。『母猫が死んで、取り残された子猫が三匹いる』だなんて保健所に通報したら、これはもう、とたんに駆除されてしまいますからね。この島では、一般家庭で首輪をつけられて、誰かのペットであると役所に申請された飼い猫のみが、存在が許されるんです」
女性使用人は、やるせない表情をした。
「神父さんはそこが分かっているから、批判を覚悟でこっそりと、こんな風に野良猫のちびちゃんたちを段ボールに入れて目立つ場所においたんでしょうね、、、運よく優しい人に拾われて、飼い猫にしてもらえれば、この子たちは助かりますから。」
やはり、神父さんは善人だな、、、と、ボンクラー警部補は考えた。
「ところで、シン・ハンニンって、ちょっと変わった名前ですよね?」
ふと思い出したように、フラグミールが言った。
「ああ、ちなみにそれは、略称です」
屋敷の使用人が、妙なことを言う。
「というと?」
「これもこの島の、独特の風習なんですが、昔からこの島に住んでいる人間は名前が長いんです。個人名+母方の旧姓+祖父母の名前+守護聖人の名前みたいな、、、だから神父さんの本名は、たしか シン・プサンハモ・ハンニン・ゲンデス、という名前だったはずです。」
「確かに、長いですね。シン、、、なんでしたっけ。」
「シン・プサンハモ・ハンニン・ゲンデス。それにしても神父さんは本当に、模範的な人間、『模範人間』だと思いますよ」
「ーー神父さんは、模範人間です、か。」
ボンクラー警部補が、噛みしめるように言った。
「確かに、神父さんはいつも笑顔を絶やさず、無益な殺生を好まない人間のようですな。雨の中、段ボールを抱えて歩いていたのも、そういう理由があってのことか、いやよく分かりました。」
いつの間にか、メイタンテーヌもそばに来ていた。一連の会話を聞いていたらしい。
「まあ、神父さんが真犯人ってことは、ないですよ。」
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