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第二章
25.【番外編 宮廷魔術師の視点】(1)
しおりを挟む「──王女様が……死ぬ?」
この青ざめた顔をして動揺している中年男性……私はダヴィッドといいます。
私に苗字はありません。シャルム王国では苗字は王族様や貴族様特有の物になります。
シャルム王国の辺境の田舎街から魔法の才を買われて上京してきて結婚もせずに我武者羅に働くこと早40年、国有数の魔法使いが所属する第3騎士団の団長を引退して4年が経過し、今年で56歳という人生の折り返し地点に来ています。
……そして今現在、私が青ざめている原因としては、魔法の教師として関わらせて頂いて、口に出すことは許されませんが娘のように大切に思っているこの国の王女様、アンジェリカ様に命の危機が迫っていたからです。
「王女様はとても衰弱している状態で、上級の治癒魔法をかけて一時的に回復しても直ぐに体調を崩されています。このままでは時間の問題かと……」
王妃様が事故で亡くなられて、王女様は気力をなくし食事を取らなくなってしまい、日に日に王女様の病状が悪化しているのは医療者でない私でも理解出来てしまうほどでした。認めたくはないですが、マーシュ殿程の医者が言うので間違いは無いでしょう。
「伝説と言われている治癒魔法……。“奇跡“でも使える聖女様でも存在すればいいのですが……」
“奇跡“と呼ばれるその治癒魔法は、おとぎ話や伝承でやんわり聞いたことがある程度で詳しくは知らなかったですし、知っている事と言えば、聖女“と呼ばれる異世界から召喚される人間が使うことが出来るかもしれない……という噂話程度でした。
「その、マーシュ殿。聖女様とやらを……召喚することは出来るのでしょうか?」
「……私も耳長族として長い時を生きていますが、出会ったことはありません。しかしいつの時代かに異世界より召喚されたという噂なら聞いたことがあります。確証はありませんが、王宮内の古い文献を漁れば出てくる可能性あるかもしれませんね。私も古い知り合いを当たってみましょう」
その言葉を聞いてから毎日私は王宮内の図書館に籠り、聖女様に関係する文献を漁り続けました。
「………これだ!!!!」
探し始めて2日が経過したところで、案外簡単に文献は見つかりました。
その本は聖女様のおとぎ話に関する本でしたが、読んでいくと聖女様の召喚方法について事細かく記載してあり、自身の知識と経験からこの本で聖女様は召喚できると確信しました。
「……しかしこの文章、読み解くのがとても難しいですね。ノア様ならこの魔法陣の展開をどうお考えになりますか?」
私が声をかけたのは現第3騎士団団長、ノア=アルジェルド様です。
私は彼が18歳の時に団長の座を譲り、現在は22歳のうら若き青年です。うら若き……とは本来女性に対して使われる言葉ではありますが、ノア様は女性と見間違われるほどの美貌の持ち主で氷の騎士と呼ばれる兄上のレイ様と同じ淡いライトブルーの瞳と少しだけ青みがかった夜空のような黒髪がとても艶やかで美しいのです。
「──……僕が思うに、この魔法式はただ重なっているだけではなくて計算された一定の形を保ってると思うんだ、だから──」
正直何年も第3騎士団の団長として魔法の研究を続けてきましたがノア様の言っていることはさっぱり理解できません。
……そう、彼は天才なのです。
100年に1人の逸材と言われるほどの。
膨大な魔力量だけではなく、天才的な発想でシャルム王国の魔法技術を数十年は早めたと言われています。
彼は透明でない物を透明にする魔法、濡れた髪を一瞬で乾かす温かい風がでる魔法、布団からダニを一瞬で除去する魔法、花を砂糖菓子にする魔法……などなど数え切れないほどに開発してきました。
「──で、ここを組み方を記載通りではなくこうやって組み替えて、聖属性の円陣を付け加えれば聖女とやらを異世界から召喚できる……かもね?」
「……は、はあ。さすがノア様でございます。私には少しばかり難しかったですが、この通りにやれば聖女様とやらを召喚できるということでしょうか」
「たぶん……だけど。一回やってみてダメならまた教えて、考えるから」
「ノア様、手伝っていただきありがとうございます。早速ですがやってみます」
ノア様に渡された魔法陣の書式を手に早速王宮内へ聖女様とやらを召喚してみることにしました。
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