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第二章

22.魔力の器(3)

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……実を言うと、ファンタジーのような世界への転移で魔法が使えない事はかなりショックだった。漫画や映画のように異世界へ転移したら、大体は自分には特異な力が秘められている物だというのに初歩的な魔法ですら使えなかったのだから。


しかし、今の私は魔法を使うことが出来る。


例え使用できる魔法が初級止まりだとしても、人より秀でた能力でなかったとしても、この事実は私の中で気持ちを大きく高ぶらせた。


「今回、スミレ様は魔法が使えることが判明しましたので暫くは治癒魔法の訓練を行い、慣れてから患者さんに実践して頂きます。経管栄養法は必要とされる方が現れた場合私と一緒に実施や観察、その家族への手技指導ををお願いします。後はソフィア、スミレ様にこの世界の文字や文法を教えて頂けますか?」
「え、そんな悪いで──」
「任せて!!文字も魔法も私がとことん教えてあげるわよ!!!」

……とても有難い話ではあるが、雇われの身でありながら治癒魔法と文字まで教えて貰うだなんて私は何にも仕事をしていない事になる。

……魔法の練習や文字の勉強は優先すべきことだと考えているが、さすがにこれではお金は貰えないので、契約書に記載している掃除や雑務をさせてほしいとお願いした。が、

「その時間があれば、練習や勉強ができるわよ!!そんな掃除も雑務も時間かかることじゃないし、まずはそっちを優先していいのよ!!!」
「ええ、ソフィアの言う通りです。スミレ様はまず勉強して魔法を練習することが仕事ですよ。研修期間……と言えば納得していただけますか?」

この通り全くやらせてくれる様子は無いためお言葉に甘えさせて頂き、時間がある時は掃除や雑務を手伝わせてもらおうと思う。

しかし研修期間っていい言葉だな。
感じていた罪悪感が一気に軽くなった。
二人の優しさに、感謝だ。


時計を見ると、診療時間をとっくに終えている時間だった。


「スミレ!もう身体は大丈夫なのかしら!!」
「ええ、大丈夫です。初日からご迷惑をお掛けしてすみませんでした」
「謝らないで!!スミレはなんも悪くないのよ!
……いきなり呼び出して詠唱させる先生が無計画すぎたのよ」

最後の方は小声にしているつもりなのだろうが、小声が小声じゃないため後ろにいるマーシュ先生には丸聞こえな気がする。

「無計画ですみせんでした。まさかあそこま魔力を使用するとは思っていなくて」

微笑みながらマーシュ先生が言う。
やはり、ソフィアさんの小声(とはいわない小声)は聞こえていたようだ。

「……うげ!聞こえてたの!!別に悪口じゃないのよ!!!」
「今日だけじゃなくていつも全部聞こえてますよ」

ニコニコしながら答えるマーシュの笑顔には少し威圧感があって怖かった。

普段どんなことを言ってるんだろうソフィアさんは……。


こうして、診療所での初日が終了したのだった。

明日から文字と魔法の勉強が始まり、理解をして実際に使いこなせるかが不安だけど、やれるだけやってみよう。
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