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第二章

22.魔力の器(2)

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──マーシュ先生から治癒魔法の呪文が記載されたメモを渡される。


─────────────────

聖なる光よ、傷つき者に清き癒しを与えたまえ   光の治癒ヒーラ

─────────────────



ソフィアさんが患者さんに向けて詠唱していた呪文が記載してある。覚えるのは少し難しいそうだけど、読み上げるだけなら簡単そうだ。

「さて、ご自身の胸に手を当ててやってみてください。魔力は両手に集めるイメージで」
「……はい」

魔力を集めるイメージと言われてもよくわからないが、とりあえずやってみよう。


自分の胸に両手を当てて、メモに書かれた呪文を詠唱する。



『……──聖なる光よ、

傷つき者に
清き癒しを与えたまえ。  

……光の治癒ヒーラ



すると、呪文を唱えた途端に身体中が熱くなり、両手へ何か暖かいものが流れていくのが分かる。

両手へと集まった暖かいものは、白い光へと姿を変えて私の身体全体を一気に包み込む。



「───ッ!!!」


激しい光が一瞬にして体全体を包み込む。

眩しくて目が開かない。

一気に全身の疲労感が取れたのが分かると同時に、身体の中の暖かいものがゴッソリと抜け出た落ちた感覚があり、


魔法が成功したかどうかを理解する前に、

意識が遠のいていった……───。










「──ミレ。───……スミレ!」



重たい瞼をゆっくりと開けると、そこには美しいエメラルドの様な瞳に自分の顔が映り込んでいた。

「スミレ!!!目が覚めたのね!!」
「……ソフィア……さん?」
「スミレ様、お目覚めになりましたか」

私は診療所のベットに寝さかれており、ソフィアさんの後ろにはマーシュ先生もいるようだ。

「私に……あの後何が起きたのでしょう?」
「結果からお伝えしますと、スミレ様は詠唱に成功しました。治癒魔法の適性もあるかと思われます」
「………魔法…使えたんですね」

なんと私は治癒魔法の詠唱に成功したらしい。

あれだけ使えないと思っていたものがこんなにあっさりと使えるとは。

本日一日仕事を見学していて、治癒魔法が使えないと私はここでナースとして働けないのでは……と内心不安であったので胸のつかえが下りた。

「ええ。ですが、初めてということもあったのか初級治癒魔法の魔力消費量としては莫大過ぎる魔力を使用し、体内の魔力を使い尽くして意識を失われたようです。倒れそうになり直ぐに支えたので怪我などはしていないと思いますが、私としたことが不覚でした」
「私も使い始めのころはよくフラフラしたりしてはいたけど、ここまでじゃなかったわね!」

話を聞くと私は2時間近く意識を失っていたらしい。詠唱した途端に身体が暖かくなり、その暖かいものがいきなりゴッソリと持っていかれた感覚。ダヴィッドさんも言っていたが、あれが魔力なのだろう。たぶん。

そして、ソフィアさんやマーシュ先生が言うには初めて魔法を使うと魔力のキャパが少ないことや消費魔力を調節ができず魔力を使いすぎてしまうことから気分不快を生じたりすることはよくあるらしい。

「しかし、いままで魔力なんてない世界で生きてきて魔力がなくても平気だったのに何故意識を失ったのでしょうか?」
「それは、この世界に身体が順応している……ということでしょう。この世界の空気を吸って水分と食事を摂取していれば、体内には魔力が蓄積し拒絶を起こさない限りは馴染んでいくかと思われます。
意識を失った理由としては、この世界において魔力は生命を維持するにあたって必要不可欠なものです。長期間の間に魔力が枯渇すれば生命活動ができなくなる場合もあります。魔力に馴染んだスミレ様の身体はもうこの世界の住民と同じようなものになっているのでしょうね」

この世界の物を摂取していくうちに自身の身体の細胞が馴染んでいく……と。

意識を失った理由としては、膨大な魔力を一気に消費し身体の魔力が空になってしまったのが原因だという。


「じゃあ最初に魔法が使えなかったのは、体内の魔力が空っぽだったからなんですね」
「その可能性が高いです」

こうして、あっさりと私が魔法を使えない理由が証明されたのであった。
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