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第二章

21.診療所(3)

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「──まず今日は、私の一日の流れを見てみようか!」

本日はソフィアさんの業務の流れを後ろについて見て学ぶ、シャドー研修を行うことになった。

看護師は職場にもよるだろうが、常に動いている職種であり初日は基本的に先輩の後ろを影のように一日に付いて回るシャドー研修を行うことが多いがそれはこちらの世界でも同じのようだ。


「こんにちわ!アンナさん!
今日も腰かな???」

早速朝の診療がはじまる。
この診療所は医師1名看護師1名の計2名しかスタッフがいないため、受付業務も並行しておこなっているようだ。しかし現代日本のように診察券や予約制度などはなく、訪問した患者さんにどんどん治癒魔法をかけていくだけらしい。

「ええ、そうなのよ。腰がやっぱり痛くてね。今日もお願い」

アンナと呼ばれた高齢者の女性は腰の当たりを擦りながら椅子へと座る。

「分かったわ!!腰なら初級で十分ね!!
そしたら始めるわね!」

そしてどうやら、治癒魔法が存在するからなのか、医師の診察は行わずナースが主体的に治癒魔法にて治療していくらしい。
マーシュ先生が動くことは基本的にはなく、論文やら王宮の定期診察やらなんやらに出向いてることが多いらしい。確かに私が王宮にいる時も、殆ど毎日見かけた気がするな。日本の医師は指示出しや処方、医師しか実施出来ない処置を行う以外は病棟に居ないことが多い。診療所は常に診察をしているイメージがあるが、治癒魔法がある限り余程の事がなければ診察も要らないだろうし、ソフィアさん一人で回せてしまうのであれば医師が常駐している必要は無いのかもしれない。


ソフィアさんは、患者の腰の辺りへ手を翳(かざ)し唱える。

『──聖なる光よ、傷つき者に清き癒しを与えたまえ。  光の治癒ヒーラ!』

魔法が詠唱されるとソフィアさんの手の平に白い光が集まり、患者の腰部へと吸い込まれていく。

「あー効いた効いた。
大分楽になった、ありがとうねぇ。
やっぱソフィアちゃんの治癒魔法は良く効くわねぇ」
「いえいえ!こんなの朝飯だわ!」

また宜しくねぇ、と手を振りながら帰宅するアンナさん。

「凄い……今のが治癒魔法ですか?」
「そうよ!ポイントは、治癒魔法を掛けたいところに魔力を集中させて最低限の消費で治療することかな!!」
「なるほど……」

とは言ってみたが、熱く語ってくれるソフィアさんの言うことが魔法を使ったこともないのでさっぱり分からない。

ただ治癒魔法を詠唱するだけでは、対象全体を癒してしまって効率が悪いって事なのかな?一日に何人も治療するし、魔力を無駄に使わない為のコツだと考えるとそんな気がする。

その後もどんどんソフィアさんは、訪れる患者さんに治癒魔法をかけていき、午前中の8時から12時までの4時間で30人以上に治癒魔法を使用していた。

かなりのハイペースで治療は進んでいき、一人で簡単な受付を済ませ患者さんに魔法をかけどんどん捌いていく様からソフィアさんはかなりの手練な気がする。

……これ、私は治癒魔法使えないけどナースとして必要なのか?魔法が使えたらソフィアさんの負担も減るだろうけど使えないし、もしかして事務とかの仕事をすることになるのかな。あの条件はナースとしての給料だと思うんだけど大丈夫なのだろうか。

そしてやはり、治療の様子を見ていると患者さんの主訴のあるところにポイントで治癒魔法をかけているので、やはり極力魔力を無駄に使わないように調節しているようだった。
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