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第二章
20.仕事探し(3)
しおりを挟む「──単刀直入に言います。
スミレ様、うちの診療所で働きませんか」
……予想外の速さで仕事が見つかった。
話によると、マーシュ先生の診療所で是非ナースとして働いて欲しいとのことだった。
「しかし私は治癒魔法が使えませんが……」
マーシュ先生が経営する診療所に看護師として身を置かせてもらうという考えがなかった訳ではない。
この世界のナースは最低でも初級治癒魔法を使える者が殆どとだと聞いたので、魔法が使えない私は論外だと思いこの世界でナースとして働くことは考えていなかったのだ。
「問題ありません。確かに、初級クラスの治癒魔法を使えるナースが殆どではありますが、診療所の管理や私の補助をしていただければ良いのです。
また、私は経鼻経管栄養法を王女様の様な治癒魔法では治癒できず、栄養素の投入で容態を改善できそうな一般患者様に自宅へ訪問して処置を行っていけたらと考えていました。
その為、スミレ様に是非お願いしたく本日はこちらへ参りました」
「……それなら働かせて頂きたいとは思いますが、迷惑にはなりませんか?」
「ええ、もちろんです。
寧ろ、様々な経験や知識をお持ちである貴女であれば即戦力になると思っています。
報酬も沢山出させていただきます」
ニコッと微笑み、契約書を差し出すマーシュ先生。
差し出された1枚の用紙には雇用条件と思われる内容が記されており、1番気になる賃金は月給3500ゴールドと記載してある。
まだこの世界の通過の価値についてはそこまで学んでないので、以前街で買い物した際の感覚からの予測にはなるのだけど、この世界の通貨は大体ゼロを2つ足したら現代日本と同じぐらいの価値になると思われる。
1ゴールド=100円。
つまり月給35万。
友人で美容クリニックで働いてる看護師がいたがこれぐらい貰っていた。
……悪くないのでは?
「スミレ様の看護師としての知識と経験を買ってのこの給料ですが、ご不満があればお申し付けください。
また、経管栄養法はスミレ様あっての技術ですので需要が伴えば別途報酬金を払わせていただきます」
この世界の平均給与は分からないが、街中で見かける物価からして明らかに好条件だ。
しかも契約書をよく読んでいくと、マーシュ先生は経管栄養法の技術による利益の独占をするつもりは無いらしい。また、需要がなく赤字になったとしても私が損することはないような事が書いてある。
上手い話すぎて恐ろしいが、この1ヶ月でマーシュ先生という人物は、知識も技術も高い魔力もあって国内で随一の医者であるとも言われていて立場的に上に行こうと思えば上に行けるのに、あえて町医者という立場を貫いているところも好感度が高いし、
何より王宮御用達の医師ということで、私を騙して何かしたとして彼にとってはデメリットしかないはず。
契約書を読み終え、食い気味に「詳しく聞かせてください!!」と答えてしまった。
もし騙されていたら……と悪い考えが頭を少しだけ過ぎったが、その時は流石にダヴィッドさんに相談することにしよう。
「ありがとうございます。
そうしましたらまず、こちらに記載はしてありますが雇用条件から説明してもよろしいでしょうか? 」
マーシュ先生の提示した雇用条件はこうだ。
月給3500ゴールド。
業務内容、医師の診察の補助・事務受付・診療所の管理(掃除等)、経管栄養法の訪問指導
週休3日(月・木・日)、8時~17時(休憩1時間)、急患があった場合はその都度残業として賃金あり。
毎月10日に給与は手渡し。
結婚休暇等の特別休暇、産休育休制度あり。
“急患があった場合“というのは、どのくらいの残業になるのかが少し不安ではあるが、週休3日でここまで給料が貰えるなら中々いい感じだとは思う。
「……悪くはないでしょう?
後はスミレ様が気にされているであろう語学の教師も付けますよ」
「え、そこまでいいんですか?」
「私はスミレ様より沢山のことを学ばせて頂きました。これぐらい当然です。
スミレ様、是非うちに来てください」
微笑むマーシュ先生が神様に見えてきた……。
「是非ともよろしくお願いいたします!!!」
──こうして私のニート生活はたったの半日で終了したのだった。
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