上 下
23 / 66
第二章

20.仕事探し(3)

しおりを挟む


「──単刀直入に言います。
スミレ様、うちの診療所で働きませんか」


……予想外の速さで仕事が見つかった。
話によると、マーシュ先生の診療所で是非ナースとして働いて欲しいとのことだった。

「しかし私は治癒魔法が使えませんが……」

マーシュ先生が経営する診療所に看護師として身を置かせてもらうという考えがなかった訳ではない。

この世界のナースは最低でも初級治癒魔法を使える者が殆どとだと聞いたので、魔法が使えない私は論外だと思いこの世界でナースとして働くことは考えていなかったのだ。

「問題ありません。確かに、初級クラスの治癒魔法を使えるナースが殆どではありますが、診療所の管理や私の補助をしていただければ良いのです。
また、私は経鼻経管栄養法を王女様の様な治癒魔法では治癒できず、栄養素の投入で容態を改善できそうな一般患者様に自宅へ訪問して処置を行っていけたらと考えていました。
その為、スミレ様に是非お願いしたく本日はこちらへ参りました」
「……それなら働かせて頂きたいとは思いますが、迷惑にはなりませんか?」
「ええ、もちろんです。
寧ろ、様々な経験や知識をお持ちである貴女であれば即戦力になると思っています。
報酬も沢山出させていただきます」

ニコッと微笑み、契約書を差し出すマーシュ先生。

差し出された1枚の用紙には雇用条件と思われる内容が記されており、1番気になる賃金は月給3500ゴールドと記載してある。

まだこの世界の通過の価値についてはそこまで学んでないので、以前街で買い物した際の感覚からの予測にはなるのだけど、この世界の通貨は大体ゼロを2つ足したら現代日本と同じぐらいの価値になると思われる。

1ゴールド=100円。

つまり月給35万。
友人で美容クリニックで働いてる看護師がいたがこれぐらい貰っていた。

……悪くないのでは?


「スミレ様の看護師としての知識と経験を買ってのこの給料ですが、ご不満があればお申し付けください。
また、経管栄養法はスミレ様あっての技術ですので需要が伴えば別途報酬金を払わせていただきます」

この世界の平均給与は分からないが、街中で見かける物価からして明らかに好条件だ。

しかも契約書をよく読んでいくと、マーシュ先生は経管栄養法の技術による利益の独占をするつもりは無いらしい。また、需要がなく赤字になったとしても私が損することはないような事が書いてある。

上手い話すぎて恐ろしいが、この1ヶ月でマーシュ先生という人物は、知識も技術も高い魔力もあって国内で随一の医者であるとも言われていて立場的に上に行こうと思えば上に行けるのに、あえて町医者という立場を貫いているところも好感度が高いし、
何より王宮御用達の医師ということで、私を騙して何かしたとして彼にとってはデメリットしかないはず。

契約書を読み終え、食い気味に「詳しく聞かせてください!!」と答えてしまった。

もし騙されていたら……と悪い考えが頭を少しだけぎったが、その時は流石にダヴィッドさんに相談することにしよう。

「ありがとうございます。
そうしましたらまず、こちらに記載はしてありますが雇用条件から説明してもよろしいでしょうか? 」

マーシュ先生の提示した雇用条件はこうだ。

月給3500ゴールド。
業務内容、医師の診察の補助・事務受付・診療所の管理(掃除等)、経管栄養法の訪問指導
週休3日(月・木・日)、8時~17時(休憩1時間)、急患があった場合はその都度残業として賃金あり。
毎月10日に給与は手渡し。
結婚休暇等の特別休暇、産休育休制度あり。

“急患があった場合“というのは、どのくらいの残業になるのかが少し不安ではあるが、週休3日でここまで給料が貰えるなら中々いい感じだとは思う。

「……悪くはないでしょう?
後はスミレ様が気にされているであろう語学の教師も付けますよ」
「え、そこまでいいんですか?」
「私はスミレ様より沢山のことを学ばせて頂きました。これぐらい当然です。
スミレ様、是非うちに来てください」

微笑むマーシュ先生が神様に見えてきた……。

「是非ともよろしくお願いいたします!!!」



──こうして私のニート生活はたったの半日で終了したのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

なろう370000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑
ファンタジー
〜 報酬は未定・リスクは不明? のんきな雇われ勇者は旅の日々を送る 〜 魔獣や魔物を討伐する専門のハンター『破邪』として遍歴修行の旅を続けていた青年、ライノ・クライスは、ある日ふたりの大精霊と出会った。 大精霊は、この世界を支える力の源泉であり、止まること無く世界を巡り続けている『魔力の奔流』が徐々に乱れつつあることを彼に教え、同時に、そのバランスを補正すべく『勇者』の役割を請け負うよう求める。 それも破邪の役目の延長と考え、気軽に『勇者の仕事』を引き受けたライノは、エルフの少女として顕現した大精霊の一人と共に魔力の乱れの原因を辿って旅を続けていくうちに、そこに思いも寄らぬ背景が潜んでいることに気づく・・・ ひょんなことから勇者になった青年の、ちょっと冒険っぽい旅の日々。 < 小説家になろう・カクヨム・エブリスタでも同名義、同タイトルで連載中です >

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...