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第一章
14.リハビリと遠征
しおりを挟む──朝にルー様とリハビリチームを立ち上げて、早数時間。王女様へどのようにリハビリをしていくかを計画していく。
計画していく……といっても、私は身体トレーニングやリハビリの経験が全くないので、朝昼晩少しづつのリハビリが必要であることをルー様へ説明し、後は一任したのだった。
ルー様曰く、騎士団には10歳前後の子供も入団してくることも珍しくないそうで体の鍛え方なら任せろとのことで、
私の出来ることといえば、そのトレーニングによって急激な血圧変化等が起こらないか予測したり、トレーニング中に見守ることだけであった。
そして、ルー様の子供向けの身体トレーニングのノウハウは頭に入っているらしく、早速昼食後よりリハビリが開始された。
「アンジェ、今日から俺様が体を鍛えてやるぞ」
「…るぅのトレーニングなら、がんばるの。」
二カッと笑い犬歯が見えるルー様に、なんとも緩い雰囲気の王女様。
「じゃあまずは足だ。体は下半身から造られると言っても過言ではないからな」
「……えいえいおー、なの」
この2人は性格は似ていないかもしれないが、なんだか息はピッタリで前から仲良しだったのが直ぐにわかった。
ルー様は、ベッド上での王女様の足の訓練から始めた。
前の世界でもPT(理学療法士:リハビリの専門職)の先生が長期臥床の患者さんは足の曲げる運動からしていたっけ。
詳しい知識はないが、ルー様は前の世界で見たリハビリと似通っているメニューをしているようだ。
私はただ見守るだけで何もすることがないが、実の兄妹の様な2人の様子に癒されていた。
「……だいぶ、つかれたの」
「よし。30分は頑張ったな、偉いぞアンジェ。
俺様もそろそろ兵団に戻って様子を見てくる。夕方にはまた戻ってくるからな」
「わかった。まってるの」
昼の訓練が終わるとすぐさま兵舎へ向かうルー様を見て、
『今現在、第1騎士団が魔物の討伐に重きを置いてくれている為、私の率いる第2騎士団は少しゆとりが出ている』とのルー様の言葉を思い出した。
現在、第2騎士団の代わりに第1騎士団が討伐の重きを置いている……と。
詳しくは分からないけど、第2騎士団は遠征に行っていたと聞いたので怪我人も沢山でたのだろうか。
その為に第1騎士団が代わりに魔物の討伐に追われているとかなのかな。
……レイは魔物の討伐には慣れていると言っていたけど、最近活性化しているというし部下の怪我も増えてきてるとも言っていたので心配だ。
まあ、団長を務めてることや街での知名度から実力はあるだろうし、余計なお世話かもしれない。
「……えっ!?」
翌日、王宮の食堂で会ったダヴィッドさんから第1騎士団が国境付近まで遠征に行ったことを知った。
国境への距離感はイマイチ理解していないが、それなりの距離だそう。
そういえばあの出かけた日以来、経管栄養の一般運用に向けた内職や、王女様の回復に合わせて今後どのようにしていくかなどのスケジュール調整などで忙しくて庭園へ行けていなかった。
レイに会いたくて会いたくて震える…とまではいかないが、会いに行きたいのを堪えてしなければならない仕事を全うしていたのだ。
まさかこんなに当然遠征が決まるなんて……。
暫く会えなくなってしまうのであれば、少しでも時間を作って会いに行くべきだった。
昼のリハビリの時間となり、ルー様と合流する。
「…ルー様。風の噂で聞いたのですが、国境付近の魔物討伐へ向かった第1騎士団はいつ帰って来るのでしょうか。」
第2騎士団長であるルー様なら内情を知っているだろうから、さりげなく聞いてみる。
「……あぁ、レイのことか。
あいつの事なら心配いらないぞ。
認めたくないが、アイツは俺様より全然強いからな」
そうなんですね!強いから心配いらないんですね!!……じゃない。
なんでお前がそんな事を聞くんだ?知り合いでもいるのか?ぐらいの返事が帰ってくるかと思っていたがまさかの回答。
素直に、欲しい答えがすぐに返ってきてよかったーとはならないのですよ犬耳モフモフ騎士団長。
だってルー様は私とレイに親交があることは知らないはずだよね?
などと考えていると、
「俺様がお前らの親交を知らないと思ったのか?
レイからスミレの話はよく聞いてるぞ。お前の話をする時はアイツはよく笑うな。
この前、街に2人で行ったそうじゃないか。楽しかったか?」
ルー様はお構い無しに話を進めていく。
「まっ、待ってください。ルー様とレイは仲が良いと聞いてはいましたが……」
「なら、色恋の話の一つや二つ、年頃の男同志ならするものだろう?」
ニカッと笑い犬歯が見えるルー様。
耳はピンと張り、ズボンから出ているシッポは横に揺れているのが見える。
……い、色恋!?
レイの色恋の話に私が出てきてるということでよろしいでしょうか、ルー様。
しかし、期待しすぎて違った時の悲しさと羞恥心は私の心をもみくちゃにしてしまいそうで、私のことですか?だなんてストレートに聞けない。
なんとも複雑な気持ちになり黙ってしまったが、ルー様の腰の当たりからなにかがブンブンと激しく横揺れしてるのが見える。
……よく見ると手入れされているであろうフワフワなシッポが激しく横に揺れていた。
「む…。ルー様、からかっていますね?」
「ははーん、……バレたか。鋭いな」
バレたかって……。
シッポが激しく横揺れしているからです。だなんてまだ言えない。
王女様が元気になってきてからのルー様は少しお調子者で皆の頼れる兄貴分っていう感じがする。
きっとこれが本来の彼の姿であって、あの時は王女様が心配過ぎて思い詰めていたのだろう。
最近このようにからかわれることが増えてきて、これで彼が年下だったらどうしようかと思っていたが私よりも上の28歳らしい。
白金の髪の毛にモフモフの耳とシッポがついているとはいえ、彼の野性味溢れる造形美とボタンを広めに開けたシャツから見える胸筋が色気満開で、度々、侍女さんを(病でなく健康な意味での)卒倒させている。
……彼の色気と美しさも人類にとって目に毒だと思う。
「……で、第1騎士団はいつ帰ってくるんでしょうか」
「今回の遠征はそこまで長期的ではないと聞いている。第2騎士団が長期遠征で討伐に当たっていたが怪我人が多くて帰還し、再度第1騎士団が行くことになったんだ。まあ1週間、長くて2週間程度だろう。まあレイがいるからそんなに長期間にはならないと思うが……。というか、直接聞いていなかったのか?」
「いつも夜に庭園で会えたら会うみたいな感じになっていたのですが、最近忙しくて行けてなくて」
「……ふーん、なるほどな。まあそんなこともあるだう。
しかしだな、レイの心配は要らないぞ。さっきも言ったがアイツは俺様より強い。
魔物なんてアイツの魔法で瞬殺だからな」
ルー様曰く、レイは騎士団最高戦力なのだとか。
彼の使用する魔法は圧倒的で1面の敵を一瞬のうちに壊滅させるほどの威力らしい。
そして、とても強力な氷魔法を使用することからついた異名は『氷の騎士』。
こちらを見る街の人々が氷の騎士様だとか言っているのが聞こえたのを思い出した。
……優しいだけではなく強いだなんて凄いなレイは。そして、あの大きな手のひらにある剣だこから、努力も惜しまない人なんだろう。
……彼の魅力にどんどん惹かれていく自分が怖い。
レイの存在はこの世界に来てからの私の精神安定剤ぐらいの役割を果たしてしまっていて、この想いを告げて叶わず彼との関係を失った時、私は立ち直れるのだろうか。
にしても、騎士団最高戦力を遠征に行かせるなんてよっぽど魔物の活性化が酷いのだろうか。
「そうですか……」
「そう心配するな。レイなら大丈夫さ。第1騎士団が帰還したらすぐ会いにいってくれないか。あいつも喜ぶだろう」
「……え、よろこ……」
自身の顔が赤くなっていくのがわかる。
同時に期待してしまう自分に恥ずかしくなる。
しかし顔を上げると、そこにら満面の笑みのルー様。
真に受けている私をからかっているのだろう。
「……は、早くお昼のリハビリを開始してください!!!」
「…ふはは!
分かった分かった、……よしアンジェ、朝の続きを始めるぞー!」
「はーい…なの」
……しばらくレイに会えないのは寂しいが、ルー様の話しぶりから彼なら大丈夫だそうなので、私は自分に出来ることを頑張ろう。
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