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第一章

2.異世界転移?

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「巫女様ーー!!巫女様!!お目覚めですか!?」

やけにハリのある大きい声。
私を覗き込む凡そ50代、如何にもファンタジー世界の熟年魔法使いです!!!とばかりの格好をしたおじさんが私を巫女?と呼んでいる。

「……すみません、どちら様ですか?」

この状況に呆気に取られていたが、まずこの人は誰だ。

「失礼致しました。わたくしは、シャルム王国王宮魔術師のダヴィッドと申します。突然の事で驚かれるとは思いますが、貴女様は巫女召喚の義で本国シャルム王国へと召喚されました。」

「……異世界転生ってことですか?」

「いえ、言うなれば転移でございます。」


──ん?
言うなればこれは夢か。

よく前日にハマった漫画のキャラとかが夢にでてくることが多いが、最近異世界転生とか転移とかのネット小説を読みすぎてるせいで夢に出たのか。

……だとしてとも、とても鮮明なよく出来た夢だな。少し肌寒さを感じるし、床にはハッキリと魔法陣のような物が描かれていて夢でよくあるボヤボヤした感覚もない。

しかしどうみても異国の民と思われるおじさんとそ言葉が通じている様を見るとこれは夢なのかもしれない。

まあ、たまにハッキリとした夢を見ることもあるし、異世界転移とか1度味わってみたかったのもあるので目が覚めるまでこの夢を楽しむことにしよう。


「……で、私は何故なにゆえこちらへ召喚されたのでしょうか?」

「実は我が王国の姫君を病から救って欲しいのです。」

──ほぉ。
我が夢にしては中々ロマンのある夢ですね。
私には巫女として特別な能力が備わっていて王国の姫君を病から救い、そこで何人かのイケメン王子と出会い甘い恋愛を楽しむ訳だ。

看護師となってから職業柄なのかオンラインRPG等の職業は回復術士プリーストとかを選ぶことが多かったので凄いワクワクする。

最近特に疲れていて、夢にも職場の嫌な人達が出てきて落ち着かなかったな。

「我が国では魔法はとても発達しておりまして、多少の怪我や病であれば治癒魔法をかければ完治致します。
しかしながら、姫君はどんなに腕のいい治癒魔術師やこの間召喚された聖女様ですらも癒すことはできませんでした。」

……ふむふむ。どんな魔術師でも癒せず私の前に聖女様も召喚されていたが聖女様ですら癒すことが叶わなかったと……。

「しかし諦めきれない我らは東方の国に伝わる、あらゆる存在の穢れを祓い癒しを与えると伝えられる巫女様を召喚することにしたのです。」

「それで召喚されたのが私…という訳ですね。」

「左様でございます。」

なるほど……。
私はとても重要な役割を担っているようだ。
しかし、巫女として召喚されたは良いが穢れを祓い癒しを与える方法なんて知らない。
聖女なら適当にキュアとかヒールとか唱えておけば何とかなりそうだけど、巫女はなんだろうな?まあ何とかなるのかな、夢だし。

「では、巫女様。王女様の元へ参りましょう。」

ダヴィッドさんに連れられ、私は王女様の元へ向かうこととなった。


───────────



「こちらでございます。」

ダヴィッドさんが丁寧に装飾された二枚扉を開く。

まず目に入ったのは煌びやかなシャンデリア。そして白を基調とした華やかな色とりどりの花が描かれている壁。真っ白な大理石の床。明らかに高そうな家具。

そして複数人の侍女と思われるメイド服を来た女の人達がズラーっと並んでいた。

すごい光景だな。例えるならば、いつの日かテレビで見たヴェルサイユ宮殿のようだ。

そんな美しい部屋の真ん中に堂々と佇むプリンセスベッド。小窓が空いているのか、心地の良い風がふんわりと流れ込み、ベッドに装飾されているレースのカーテンがひらひらと揺らめいている。

(ここで眠ってみたい……)

王女様の寝室は、人類の女の8割は一度は憧れると思われるぐらい立派な物であった。

「では、巫女様。お願い致します。」

ダヴィッドさんがベッドのカーテンを開くとそこには、とてもとても美しい少女が眠っていた。

フランス人形の様な顔つき、ふわふわとくせのあるライトブルーの髪。ベッドサイドにある家族写真らしきものに同一人物であろう少女が写っており、その写真から儚いラベンダー色の瞳をしているのが分かる。年齢にしておおよそ10歳ぐらいだろうか、まだとても幼い。

とてつもない美少女。顔面国宝級美少女番付があったら堂々の第1位を飾るだろう。



──がしかし。
その顔色は不健康に青白く、精気をあまり感じることはできない。ブランケットから出ている手は骨ばっていて、唇も水分がなくカサカサしている。

王女様が病人である事は明らかであった。


「少し失礼します。」

私はすかさず、王女様の右手の橈骨動脈で脈を測る。
……リズムの不正はない。HRハートレートの値は若干早い程度。呼吸も早いな。血圧はある程度は保たれているようだ。

王女様に触れた時に直ぐに感じたが体がとてつもなく熱い。熱があるだろう。

最後に胸の音を聞く。聴診器はないので、直接肺に耳を当てて。

時折湿性咳嗽もある。



……うん。これは医師でない看護師の私でも診察することは出来ないがアセスメントで予測することは出来る。

「──ダヴィッドさん、王女様は肺炎なのでは?」

「ハイエン……とは何でしょうか巫女様」

──え、肺炎を知らないのか。
見た感じ、ダヴィッドさんはキチンとした教育を受けていそうな感じはするけど。
でも大体の怪我や病は治癒魔法でなんとかなるっていって言っていたから、もしかしたらこの世界では肺炎なんて珍しいのかもしれない。

「肺炎とは、ウイルスや細菌によって肺が炎症を起こし熱が出たり咳がでたりします。免疫力が下がっていたりするとなることがあります。重症化すると呼吸困難が生じたりして、最悪命を落とす場合があり、私のいた世界ではご年配の方の死因で多い病気であります。」

「う、ういるす……?じゅう……しょう???」

ダヴィッドさんは頭の上にハテナが浮かんでいる。この様子では本当に知らないらしい。

というか、これは夢なのか?キャラ設定細すぎないか?
しかも体感として窓からのやさしい風を感じるし、暖かい。
よく見たら私は裸足だ。大理石の床が冷たい。服装も昨日寝落ちしたままの格好をしている。お風呂に入ってない時のなんともいえない不快感も感じてきた。そして、なにより人のバイタルサインをしっかり測定していることでこれが現実リアルだと感じる。

……夢とは思えない。

「み、巫女様。肺炎とやらは分かりませんが、我が国では尽くせる手は尽くしました。 お願いです。王女様の穢れを祓い癒しをお与え下さい。」

そうだ。夢ならいきなりとてつもない魔法でもなんでも使えるだろう。

肺炎なんてすぐに治る。


「……わかりました。」

早速魔法を使うことになったが、正直魔力とかよく分からない。漫画だと、体内の力を手に集めてから魔法を使用していた気がする。

私は曖昧な知識を元に、王女様に向けて右手の手のひらを広げる。

身体中の意識を手のひらへ集め、
そして唱える。


「この者の穢れを祓い癒しを与えよ──

キュア!!!」



……。

何も起こらない。
ポカンとするダヴィッドさん。

それっぽい事を唱えてみたのに何も起こらない。

「ヒール!!!!」

「キュア!ヒール!キュア!ヒール!!!」

ーーその後、自身の記憶にあるゲームや漫画、映画等の知識をフル活用し呪文を唱えてみたが王女様が治るどころか何も術は発動しなかった。

「巫女様、もうおやめください。聖女様も不可能であったのです……。巫女様には申し訳ありませんが、他に手を探します……。」

酷く落胆した様子のダヴィッドさん。
そりゃそうだよね。
折角召喚したはずの巫女が、治せないだけじゃなくて何も術を使えないんだから。

そして時間が経過するに連れて感じるこの世界の現実リアル感。

──これは夢じゃないのかもしれない。私は本当に異世界転移したのかもしれない。

「何も出来ず、すみませんでした……。」

「いや、そもそも巫女様が謝ることではないのです。いきなり元の世界より召喚してしまい、こちらが謝罪すべきです。元の生活もあるでしょうに……もう帰ることは……。」

ダヴィッドさんの顔色が暗い。

「えっと……これ夢ですか?」
「はい?」

唐突に確認したくなった。
これは夢か現実か?

「これは現実ですか?異世界転移って本当ですか?」

「……突然のことで混乱なさっていると思いますが、現実でございます。貴女様は我らの世界から見た、異世界より転移させられました。」

ふーん、そうなんだ。
試しに自分の頬を思い切り抓ってみた。



「────ッたァ!?!!!」

「なっ、何をされてるのですか巫女様!!!!!!!」


確かに感じた痛み、痛覚。
体が脳が知っている感覚。

理解しないように頭で言い聞かせていたが、これは現実なのかもしれない。




──私は、異世界に転移してしまったようだった。
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