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22話「ロレーヌ家の実態」

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「──昨日はすまなかった。帰りの馬車の中でも帰ってからも1人で考え込んでしまって君への配慮が足りなかった」



翌朝、朝食の準備が出来ているということでダイニングへ向かうとルタ様が扉の前に立っていた。

彼は私を待っていたようで昨日のことについて謝罪をしてきた。


「待ってください、何故ルタ様が謝罪されるのですか。謝らなければならないのは私の方です。家族の見苦しい所をお見せして申し訳ありませんでした」



昨日は本当にロレーヌ家の見苦しい所を見せた。
両家の顔合わせはロレーヌ家とクラレンス家が家族になる為の大切な場で、本来であれば侯爵家として位が上であるクラレンス家がロレーヌ家まで足を運び挨拶をするべきであるのに妹が心配だとクラレンス家に足を運ばせただけではなく、いつもの様にお構い無しにクラレンス家の花嫁となる私をさげすみ、しまいには顔合わせには参加しなくてもいい立場のラインハルト様がダイニングに足を組んで座り、ルタ様を挑発する始末。

この時点でロレーヌ家はクラレンス家に婚約を解消されても仕方がない程の無礼を働いている。

帰路でもルタ様やご両親にロレーヌ家に対する文句どころか質問すらされずに気を使われてしまうくらいで、クラレンス家の寛大さが身に染みる程であった。


彼のご両親にも謝罪をしたい所ではあるのだが、優しい彼らのことだから私が謝罪したところで余計に気を使わせてしまうと思い何もこちらからは伝えていない。


「……ケイ。こっちへ来てくれ」
「はっ、はい。……──きゃっ」

ルタ様にそう言われて歩み寄ると、突然抱きしめられた。

「何故もっと早く君を見つけ出さなかったのだろう。人の婚約者であろうと、手段を選ばなければ無理やりにでも奪い取ることだって出来たのに」

私の頭を優しく撫でながら呟く彼に私の鼓動は高鳴っていく。


──君が愛しい。


彼が口に出さなくても心でそう思ってくれているような気がした。

ルタ様に身も心も溶けてしまいそうであったが、周囲には使用人が何人かおり、その中にアンもいてこちらを見て頬を赤く染めているのがチラリと見えた。

「るっ……ルタ様、使用人などの人の目がありますので……」
「そんなもの構わない。……嫌か?」

切れ長で真っ赤なルビーのように美しい瞳は子犬のように潤んでいる。

「い、嫌では無いです……」
「よかった。ならもう少しこうさせてくれ」


人の目を気にしない大胆な彼に困惑しつつも、彼の温もりと優しさは私の傷ついた心を少しずつ癒していた。



***



「──ケイ。こんな事言いたくは無いのだけれど、今まで大変だったでしょう」


朝食の席で昨日のことについて話を切り出したのはルタ様の母親であるミリーゼ夫人だった。


「……昨日はわざわざ御足労頂いた上に、大変お見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ありませんでした。私にとってあれは日常でありましたので特に私自身は気にはしておりませんが、クラレンス家の皆様にご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ないです」
「いえ、私たちは全然構いませんのよ。しかし、ケイ。 あの扱いを常日頃からされていますの……??」

ロレーヌ家での私への扱いが日常的に行われていたことを伝えると、ミリーゼ夫人は目を丸くして驚く。

「貴女はロレーヌ家の長女ですのよ。あんな扱い、あっていいはずがないわ。今だから正直に申し上げますと、私たちは貴女の良くない噂を聞いていてどんなご令嬢か不安だったの。でもその不安は要らないものだった。貴女の噂は事実なんかじゃない。問題なのはロレーヌ家の方よ」
「……ミリーゼ、言葉がすぎるぞ」
「……そうですわね、ごめんなさい。でも、これだけは言わせて。あの時の怒りが爆発しそうだったのはルタだけではなく私もだったわ。ケイ、謝らないで、貴女は何も悪くないのよ」


ミリーゼ夫人は本気で私の事を心配してくれている。夫であるクラレンス侯は、私の家を悪く言ってはいけないと彼女を咎めたが、昨日は悪く言わない方が難しい状況だった。


「……ケイ。ミリーゼの行き過ぎた言動を許して欲しい。しかしな、私も同感なのだよ。ロレーヌ家の君への態度は大切な娘への扱いとは思えない。ロレーヌ家とはこれから親戚として関わっていくことになるだろうし、このまま君への態度が変わらないとなれば、クラレンス家の大切な家族となる貴女を守る為に私達は黙ってはおけない状況にはなるだろう」

クラレンス家は侯爵家の中でも最高位の位を持ち、騎士として王からの信頼も厚い。

そんな彼らがロレーヌ家に介入すれば、私のお父様や継母は社会的粛清を受けさせることだって容易いのだろう。


「……しかし、ロレーヌ家は君の家族だ。あまり強行的な手段は取るべきではないし、出来るだけ穏便に済ませたいのだ」
「……お気持ちは嬉しいのですが、今の父や継母が私への態度を改めることは難しいと思います。私は慣れていますし気にしていませんが、彼らが昨日のようにクラレンス家の方々に失礼に当たる行為をしないかが心配です」
「……ケイは自分の事をもっと大切にしてほしい。クラレンス家のことは気にしなくていい」

黙って話を聞いていたルタ様が口を開いた。


「……ありがとうございます。しかし、皆様に心配して頂いて申し訳ないです」
「何を言ってるの、当然でしょう?  私達はもう家族なのだから」
「そうだ。君はやっとルタが連れてきた婚約者だ。最初は正直不安ではあったのだが、流石私の息子だ。見る目があるよ。君が来てくれて本当によかったよ」
「いつも婚約話を断るものだから、結婚したくないのだと思っていたの。ルタは生涯独身かと思ってたのよ、うふふ」
「……お母様、ケイの前ではそのような話はやめてください」


暗い話をしてきたはずなのに自然と笑みがこぼれる団欒。

ルタ様とそのご両親の優しさが私の固まった心を少しずつ溶かしていく。

彼らに甘えてばかりで申し訳なくなってくる。

地味で何も出来ない令嬢と言われている私にも、彼らの為に何か出来ることはないのだろうか。

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