上 下
5 / 65

5話 「挨拶」

しおりを挟む



「──初めましてケイ殿。私は父親のロゼ=クラレンス、こちらは妻の……」
「ミリーゼと申します」


挨拶も兼ねて、とても美しいルタ様のご両親と食事をする事になった。

「しかし本当に君が婚約者として来てくれてよかった」
「ありがとうケイさん。私たちはあの子はもう誰とも結婚しないものだと思っていたのよ」

ルタ様は噂通り幾度なく各家の令嬢からの縁談を断り続けていたらしい。
それが突然、私と婚約すると言い出したものだからそれはそれはご両親も驚かれたとか。

「私も何故ルタ様に見初められたのかが分かりません……。私で宜しいのでしょうか……」
「あんなに拒否し続けたあの子が貴女がいいって言うのだから貴女じゃなきゃダメなんだわ。理由は分からないけど、あの子はとても誠実で真面目だからきっと大丈夫。少し不器用なところもあるから何かあったらいつでも相談して欲しいわ」
「ありがとうございます。これから……宜しく御願いします」

クラレンス夫婦はとても親切な方で、どうなることかと思った挨拶は無事終了した。後日両家で顔合わせもしたいとのことで、実家に
帰るタイミングがあればお父様と継母に伝えなければならない。



「──ちょっといいか」

クラレンス家で私に与えられた自室でお茶をしているとルタ様と思われる男性が扉をノックした。

「ええ、大丈夫です」
「入るぞ」

ガチャっと扉が開き、ルタ様が部屋へ入ってくる。

婚約を言い渡されてから、会うのはこれで2回目で彼とは数日ぶりの再開だ。

今日の彼は初対面の時のような畏まった感じはない。


……普段の彼はこういう感じなのだろうか?



「……部屋はどうだ?不自由はないか?」

黒い髪に血のように赤い瞳に彫刻のような美しい顔。
最初は少し怖いとも感じたが、今は彼が何を考えていて現在こうなったかの方が気になる。

「ええ。何も不自由がなく過ごすことが出来ています」
「そうか」
「……」

初対面の時とは違った空気感。
ルタ様は口数が少なくミステリアスで、何を考えているか分からない。

「……すまない。余り女性と話すことに慣れていなくて、だな」
「本当ですか?ルタ様は女性に慣れていそうですが」
「慣れては……いない。女性との関係が全くないという訳では無いが……」
「……ふふ。そこは少し見栄を張るんで……すみません失礼しました。今の発言は取り消させて下さい」

ルタ様にとても失礼なことを言ってしまった。冗談を言える間柄でもないのに。

「いや、取り消さなくていい。素のままのケイでいて欲しい」

……名前を呼ばれた。
いきなり呼び捨てにされたことに対して驚いたのではなく、ラインハルト様には“お前“としか呼ばれたことがなかったからだ。

「……ケイ?どうしたんだ?」
「名前……呼んでくださったと思いまして」
「……どうしてそんな事で涙が出る?」
「え?」

手で目元を拭うと濡れている。
全然悲しい気持ちではないし、泣いたつもりはなかったのだけれど。

「……こんなことを言いたくはないが、ラインハルト侯は横暴で自分勝手な騎士だ。突然婚約を破棄したと聞いたが何があったんだ?」

優しく私の零した涙を手で拭うルタ様。
ゴツゴツした男性らしい大きな手が私の両頬を包む。

「……るっ、ルタ様。私は大丈夫ですから……」
「じゃあ今目から溢れているこれはなんだ?」
「あ、汗です……」
「ふ。無理するな。私達はこれから夫婦になる間柄だぞ。私には何でも話して欲しい」

怖そうなのに優しいルタ様に心を開かれていく。でも何故か出会ったばかりのはずなのに彼といると妙に居心地がいい気がする。

彼になら話してもいいのかな。私が婚約破棄された理由。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

夫には愛する人がいるそうです。それで私が悪者ですか?

希猫 ゆうみ
恋愛
親の決めた相手と結婚したラヴィニアだったが初夜に残酷な事実を告げられる。 夫ヒューバートには長年愛し合っているローザという人妻がいるとのこと。 「子どもを産み義務を果たせ」 冷酷で身勝手な夫の支配下で泣き暮らすようなラヴィニアではなかった。 なんとかベッドを分け暮らしていたある日のこと、夫の愛人サモンズ伯爵夫人ローザの晩餐会に招かれる。 そこには恐ろしい罠と運命の相手が待ち受けていた。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

処理中です...