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序章 桜子
プロローグ
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最後にもう一度、今日の「起きた出来事」をスケジュール帳で確認し、頭にしっかりと刻み込む。練りに練った台詞を諳んじて、ルーズリーフと答え合わせをした。
――よし、大丈夫。完璧だ。
ふうっと息を吐き、二冊のスケジュール帳を鍵付きの箱にしまう。お守り代わりのルーズリーフは小さく畳んで、ポケットの中に入れておいた。
寂しいひとり暮らしの日々とも、これでお別れか、と。だだっ広い部屋を見回す。
のびのびと暮らせる大きな家なのに、ときどき、まるで鳥籠に閉じ込められているようにも感じた我が家。窓から見える景色は高く、引き籠もっていても街を見下ろせる。
この頑丈な家が、俺は窮屈で仕方なかった。
――さてと、
と向かった廊下の壁には、全身を映せる鏡が掛かっている。
この鏡の前で〝彼女〟が軽やかにくるりと回って、スカートを膨らませて、はにかむのが。俺とのデートを楽しみにしてくれる彼女を見るのが好きだった。
今の姿見に映るのは、桜色の髪に、桜のヘアピンをした風変わりな男、ただひとり。
世の人は、俺の顔を美しいと評する。今も、昔も。
俺が愛した彼女は、桜色の俺しか知らない。
彼女の記憶に、黒髪や白髪をした俺は存在しない。彼女の中に〝彼〟はいない。
彼女は、並行世界の俺を――、お話だとか、お手紙だとか、そういうのから知るだけだ。
「いってきます」
写真の彼女にキスをして、俺は玄関扉をガチャリと開ける。
彼女との再会を待ち望んでいた。用意は周到なはずだ。大丈夫、絶対に間違えない。
曇りがちな空の下、覚悟を胸に染み込ませるように深呼吸する。
――もっと、早く、きみのもとへ飛んでいきたかった。
天から覗く青色は、まばらで薄い。今度こそ幸せにしてやると、この空に何度も誓った。
彼女が生きていた日々が脳裏をめぐり、情けなくも視界がにじむ。
『あいしてるよ、薫くん』
満開の花の笑みを見せ、記憶の中の想い人は少女のまま、消えた。
さあ、もう一度、きみと最後の恋を始めよう。
【花泥棒は
四月一日の桜子を
知りたい。】
著:幽八花あかね
イラスト:知
0
桜子は、桜色の髪をした先輩しか知らない。
彼が黒髪だった時のことも、白髪だった時のことも、なんにも知らない。
某月某日。また女といちゃついてら、と桜子は心の中で呟いた。高校のお昼休み中。
ガラス張りの壁をした渡り廊下で立ち止まった彼女は、屋外にいる想い人に目を留めた。
――先輩、また、違う女の子と一緒に。
後輩の嫉妬交じりの瞳に捕まった罪な男は、隣に女を連れてベンチに腰掛けていた。
愉快な中庭デート、とでも言ったところか。羨ましい。
ガラス窓の向こうでおひさまに照らされる彼の髪は、もう可愛らしいピンク色をしている。それが桜子は、ほんのちょっとだけ気に食わなかった。
桜子は、この色の先輩しか知らないから。
――今日も、きれいな桜色。……カノジョさんの色。
小さい頃の先輩の写真を、彼のお姉さんから、こっそり見せてもらったことならある。病院で、中学生の頃の写真を見たことも。彼の担当医の〝先生〟がうっかり落とした一葉を、偶然に、桜子が拾い上げたのだ。
写真の中でだけ見た彼は、子どもの彼も、中学生の彼も、みんなみんな愛おしかった。まだ桜色じゃない、今の桜子より年下のかわいい先輩。
――ねえ、先輩、
ここからじゃ声は届かない。わかっていながら、彼女は窓へと近づいた。ほう、と息を吐くと、ガラスはほんのり曇って半透明になる。向こうの先輩がほわほわとぼやけてしまう。まだ今日の桜子は泣いていないのに。
二年A組の、花泥棒、先輩。
彼は桜子の想い人であり、契約相手だ。
女遊びの達人だと女子生徒からも咲われ、学校一の美男子だと男子生徒からも謳われる。愛され、恐れられる、綺麗なひと。この先輩のおかげで、桜子も、学校のひとからちょっと怖がられている。これも一因となってか、やっぱり桜子に仲良しのお友だちはいない。
――あなたの、本当のカノジョになりたい……って、こんな契約違反の欲――
一年F組の、紫月桜子。
彼女は一種の雇用契約により、学校では彼の〝義妹〟を、家では彼の〝恋人〟を演じている。義妹も恋人も虚構だ。どちらも、本当は、どこにもいないひと。
先輩にはお姉さんはいても、妹はいない。ご両親はラブラブで、再婚云々で義理の妹ができたなんて嘘っぱちの設定だ。そして彼に、恋人は、いない。セフレはいるけど。
先輩の求めるカノジョさんは、もう、この世界のどこにもいない。
――身のほど知らずで、ごめんなさい。言えないけど、でも、好きです。先輩のこと。
先輩は、お母さんやお姉さんと同じ黒の髪で生まれて、ある事件に巻き込まれてから真っ白な髪になって、今は桜色の髪染めをして生きている。――らしい。そう、聞いただけ。
桜子は、桜色の髪をした先輩しか、知らない。
――もっと、早く、あなたと出会いたかったです。先輩。
桜色。それは、彼の好きなひとの好きな色。彼の大好きな名前の一文字の色。
桜子も、ママからもらった名前に〝桜〟がつくから、桜色は昔から好き。パパからもらった桜モチーフのヘアピンも、可愛くって大好き。お気に入り。先輩も、いつも桜のヘアピンをしている。彼の花びらは一枚きりだけど。食べ物の桜餅も好きで、春の桜フレーバーのケーキも好き。桜のチーズケーキをごちそうしてもらったのは、彼と出会った入学式の日の思い出だ。あの日から、桜子は〝桜〟をもっと好きになった。
「――あっ」
先輩が、隣の女とキスをした。長いから、きっと、おとなのキスだ。経験はない桜子も、なんとなくわかる。ぽろり。と桜子の目から涙がこぼれた。
先輩にしなだれるのは、桜子とはぜんぜん違う、茶髪メッシュにピアスの女だった。
ブラウスのボタンを大胆にいくつも開けていて、黒のブラ紐とレースがこちらからでも見えたくらい。今は、涙でにじんで見えないけど。ぼやけてるけど。
――先輩は、あの子とも、えっちするのかな。
桜子は廊下を走り、階段を駆けおりた。
いつも桜子の頭や頬を撫でてくれる先輩の手が、女の太ももに触れたから。
――先輩は、わたしの太ももには、触んないもん。触ってくんないもん……!
逃げて、遠回りをして、図書室へ向かう。ガラスを通ったおひさまが燦々と彼女を照らす。上履きの白が眩しく光る。
この学園の建物は、やたらとガラス張りのところが多かった。系列の大学校舎も、高校校舎も。今、桜子がおりている小さな廻り階段も、大きな窓に囲まれている。
――透明なのに、空が見えるのに、外には出れない。
まるで鳥籠だ、とひとりごちる脳裏、ガラスにまつわる記憶がぐらりと混ざった。先輩のお家に、総合病院、割れた窓、観覧車。彼との思い出と、家族の思い出が交差する。
――先輩も言ってたっけ。ガラス越しに見えた〝彼女〟が、とても綺麗でね、って……
愛しいひとが寝ぼけまなこに吐いたのは、きっと、消えた〝あのひと〟のことで。
図書室につくと、桜子は日本文学の棚に向かった。無意識だった。勝手に足が動いた。高村光太郎。梶井基次郎。夏目漱石。唇だけで呟いて、彼が好きだと言った本の背表紙をなぞる。懐かしいなんて、妄想だ。願望だ。紙上の詩や物語にさえ焦がれる嫉妬は醜い。
――ここで出会ったのは、わたしじゃない。この桜子じゃない。違う、桜子。わきまえろ。――恋を免罪符にしたって、記憶を捏造するのは悪だ。彼が夢に見たのは、別人だ。違う。――違う。わたしじゃない。先輩の好きなひとは、わたしじゃない。わたしは……
先輩の好きなひとは、詩を朗読してほしい、綺麗な声の女の子。レモン哀歌の似合う女の子。桜の季節に埋められた女の子。遺書をのこしてくれなかった女の子。
――それは、わたしじゃないよ、桜子。他人の空似だよ。
先輩は桜子を大切にしてくれる。いつも「好き」って言う。一緒に寝る。ごはんを食べる。毎日「死なないでね」って、切なげに言う。だけど彼の好きなひとは、桜子じゃない。
桜子は、先輩の元恋人の代行者だ。
これは、期間限定の契約恋愛。
四月一日に終わる恋。
1
「花くんは、心的外傷後ストレス障害――PTSDを抱えてるんです。彼の場合――」
学校で、よく耳にする呼び方。花くん。
そう、女子生徒みたいに彼を呼ぶのは、先輩の担当のお医者さん。彼女は黒髪ロングのナイスバディで、珍しい紅色の瞳をしている。髪は染めてるけど、瞳は生まれつき。と前にウインクしながら教えてくれた。白髪時代の先輩の写真を拾った時に。
ここは、精神神経科の診察室。
九月某日。彼の定期通院に付き添って、桜子は初めて訪れた。ちょっとドキドキ。先輩本人は今、他のお部屋で、カウンセラーさんとお話し中らしい。
うんうんと話を聞く桜子の瞳は、ちらちらり、先生の瞳と髪をたまに見る。不思議に惹かれる魅力のある先生なのだ。桜子の隣には、黒髪美人がもうひとり、先輩の実姉の雪美さんもいた。
桜子は、髪を染めたことがない。
瞳と同じ真っ黒な髪はパパ似で、前髪はセルフカットのぱっつん。後ろの髪は、切りにいくお金がもったいないからと伸ばしっぱなしのストレートロング。最後に切ったのは中学の入学前で、久しぶりに帰宅したママが切ってくれたのだ。
パパにも、ママにも、桜子はしばらく会っていない。ママが誰かさんと致した痕跡は、つい先日、実家の部屋で見たけれど。寝るなら事後処理くらい自分でしてほしいものだ。
桜子の母親は、若い男とお金をこよなく愛している。
そして先輩も、若くて、美しくって――……いや、ここから先は、もう止そう。
嫌な想像を振り払い、桜子は、病院の薬っぽい匂いをすんと嗅ぐ。
なぜか懐かしい感覚は、答えと結びつく前に溶けてった。
――花泥棒先輩。……大丈夫かな。
ママ似の可愛らしいその顔は、だんだん不安げな色を帯びていく。言葉の棘に刺されゆく痛みをこらえるように小さく歪み、娘を殴るときの母の顔と図らずも似てきてしまう。桜子本人に自覚はないけれど。
先生から聞かされる想い人の状況は、なるほど、桜子の思う以上に酷かった。
「今の花くんはね、」と続く宣告に、彼女の胸はズキリと痛む。
先輩は、桜子と元恋人の区別がつかないのだ、と。
――いつも、じゃないけど。一時的かも、だけど。やっぱり、どっちの桜子か、わかんないんだ……。先輩、わたしのこと、わかんなくなっちゃったんだ……。
桜子は現実を呑み込み、深呼吸してから、震える唇をゆっくり開いた。
今こそ踏み込みたいことがあった。
「あの、その方って、自殺、なさったんですか?」
ぼかされていた死因、彼の元恋人のこと。
先輩の髪が真っ白になった原因も、想い人に関するものだと薄っすら聞いている。先輩は、ストレスで毛髪の色素がやられてしまう体質なんだとか。
しかし黒髪の先生は、桜子の予想をまたも裏切り、ゆるく頭を振る。
「いいえ、事故よ。車のね」
「そ、そうですか……」
桜子は、おとなしく、唇をきゅっと引き結んだ。ひとりでぐるぐると考えた。
大人ふたりには黙ったまま、先日見たモノを思い返す。
彼の今年のスケジュール帳の九月一日の枠には、こんなメモ書きがされていた。
『飛び降り』
しかも、そのメモは、ひとつではなくて……
「――何かを思い出したの? 紫月さん」
「へっ、え?」
先生の声と紅い瞳の鋭さに、桜子はハッと我に返る。慌てふためき、へらっと誤魔化し笑いを浮かべる。隣の雪美さんが、訝しむように桜子を見た。
「桜子ちゃん? どした?」
「いえ、あの」
あれは、先輩の秘密の手帳だ。桜子が目撃したのも事故のようなものだった。
「わたしは、何も」
首を横に振る。ここでバラしてはいけない。彼が隠したいことなら、身勝手に暴いてはいけない。たとえ彼の様子がおかしくても、どんな疑念や不信感を抱いていても。
「そう」先生はあっさりした口調で返事して、話を再開する。「ともかくね――」
結局手帳のことは伏せたまま、桜子は、先生のお話を聞き終えた。
桜子は、先輩の秘密ごと守りたかったのだ。
――もしも、あなたが、本当に誰かを殺しても。
先輩のことが、好きだから。
2
「お待たせ、桜子ちゃん。あぁ、姉ちゃんもいたんだっけ」
「おい」
待合スペースで合流した先輩に、雪美さんがデコピンする。ぱちんっと小気味よい音。よく見る光景だ。わざとらしく「痛ぇっ」と額をさする先輩は、お姉さんの前だとすこし子どもっぽい。桜子はうふふと笑って、きょうだいっていいなとまた羨んだ。
先輩と桜子の仲は、先輩のご家族公認。雪美さんの名前で借りているマンションの一室で、先輩と桜子はふたり暮らしをしている。
――お嫁さんのように一緒に暮らすこと。
それも、彼と結んだ一年契約の条項のひとつだった。
「んじゃ、帰ろっか、桜子ちゃん」
先輩は慣れた様子で桜子の手をとり、指を絡めて繋ぎ合わせる。恋人つなぎってやつだ。
「はい、先輩」きっと元カノさんともしていたのだろうな、と桜子はぼんやり思う。
どうしても手が届かないカノジョさんへの嫉妬をおぼえたら、心を閉ざして無視をする。それが桜子の自己防衛だった。
100パーセントでうまくいくわけではないけれど、ある程度の痛みは軽くできている。どうか、別れの時には無痛でありたい。最後は笑ってさよならしたい。
――ずっと。が叶わないなら、あなたの枷にならないよう、きれいに消えてみせますね。
桜子ちゃんの笑顔は世界でいちばん可愛いよって、前に先輩が言ってくれたから。
3
「ただいま」
「ただいま」
ふたりで言って、靴を脱ぐ。ここが先輩と桜子の愛の巣だ。
と言っても、先輩は、桜子を抱いたことは一度もないんだけれど。彼は負の感情を紛らすようにいろんな女の子とセックスしても、桜子とはシない。なぜか頑なに。
苗字の〝花咲〟から、花くん。花先輩。学校のひとは彼をそう呼ぶ。
花を次々に手折る姿から〝花泥棒〟とも。桜子は、家では〝花泥棒先輩〟って呼ぶ決まり。学校では〝お兄ちゃん〟。これらも契約に織りこまれていたことだ。
桜子に名前を許さない彼も、さすがに契約書の上では本名を綴った。あとは、はじめましての時も名乗ってくれた。声に出してはいけない彼の名を、桜子は舌の上で飴玉を転がすように味わう。密かに、そっと。
はなさき、かおる。花咲薫。
桜子の好きなひとは、花咲薫という、ひとつ年上の男の子。
「いただきます」
「いただきます」
ふたりで言って、手を合わせる。桜子のつくった夜ごはんを一緒に食べる。
日常のこういった挨拶は、声を重ねて同時に言ったり、順番に言ったり。どっちの場合もあるけど、必ずふたりとも言う。契約から始めた先輩と桜子が、恋人や夫婦らしくあるために。契約生活に必要な儀式めいたものだ。
「今日も美味しいよ。ありがとう、桜子ちゃん」
「どういたしまして。花泥棒先輩」
家事はふたりで分担していて、桜子ひとりがやるわけじゃない。
食器洗いやお風呂掃除は先輩の担当で、桜子の担当は料理や洗濯。乾いた洗濯物を畳むのは彼。部屋の掃除はふたりで。話し合って決めたこの割り振りをベースに、桜子の体調や先輩の予定に合わせて、ふたりとも臨機応変に動く。
お嫁さんのように。新婚さんのように。
そう、仮初めだとわかっていながら、円満な生活を送っている。
「髪、伸びたね」
お風呂上がりの桜子の髪を乾かしながら、先輩が呟いた。
桜子は平気な声をつくって彼に問う。
「いつのわたしと比べて? どのくらい?」
どちらの桜子か知りたがった疑問符は、並べてみるとちょっぴりおかしい。
「……三月一日から、九センチくらいかな」
数字は平均値と計算から出せるので、問うたも答えたも大事なのは日時だ。
「半年で九センチなら、まあ、そうですね。伸びたと思います」
――ああ、これはわたしのことじゃない。わかってた。
だって桜子が先輩と出会ったのは四月のことで、桜子は三月の先輩なんて知らないから。
先輩も、入試のあった一月某日ならまだしも、三月一日の桜子なんて知るはずないのに。
――今の先輩は、わたしとカノジョさんとの区別がつかない、から。
「ねえ、花泥棒先輩」
「なぁに、桜子ちゃん」
「……んーん、なんでもない。呼んだだけ」
「ふふ、なにそれ可愛い~! 大好きっ」
――可愛いも、大好きも、きっとわたしのことじゃない。今は、そう。
それでも桜子は笑う。にこにこ笑う。可愛く笑う。大好きなひとを亡くして心を病んでしまった先輩が、また前向きに生きていけるように。彼の隣で笑って生きる。
それが桜子の仕事で、存在価値だ。
――先輩は、わたしの光になってくれたから。今度は、わたしが。今年は死別じゃなくて、笑って、幸せになってねってさよならするの。これは、彼のための、もう一度――
今は亡きカノジョさんとの思い出をなぞるように生き、最後だけは違う終わり方をする。
それで彼は、100パーセントに治るかは不透明でも、いくらか救われるはずなのだ。
桜子という他人の空似で、この恋をやり直せば、きっと。
――だから、本気になっちゃいけない。わたしは、治療に役立てるための偽物だから。雇われの身代わりだから。そう。わきまえろ、桜子。
「こうして、髪を触られるの、なんだか気持ちいいです」
先生だって、雪美さんだって、これが彼のためだと言っていたんだ。
「……そう? それにしても、桜子ちゃんの髪はさらさらツヤツヤで可愛いねぇ」
「ふふ、このお家のシャンプーが良いからじゃないですか?」
お互いの髪を乾かし合うのは、ふたりの日課のひとつ。
先輩は手先が器用で、デートの時には桜子のヘアメイクもしてくれる。ゴールデンウィークの水族館デートの時も、彼が桜子を可愛くしてくれた。
――そういえば。
ママに切ってもらった記憶はないのに、高校生になった桜子の毛先は、自然に綺麗だ。
まるで誰かに整えてもらったみたいに、中学の時より美しく伸びている。
「桜子ちゃん、大好き。死なないでね」
「はい、死にません」
先輩は、毎日桜子に「死なないで」と言う。
桜子も毎日「死にません」と返して、彼の腕の中で眠りにつく。
――大丈夫ですよ、先輩。大丈夫。明日も、わたしは、あなたの隣にいるよ。
これが一日の最後の儀式だ。
「おやすみ、桜子ちゃん」
「おやすみなさい、先輩」
桜子と先輩は、こんなふうに暮らしている。
切なくも愛おしく、終わりの迫る幸福に溺れ――
4
『――桜子ちゃん。大好き』
『わたしも……好き、です』
いつしか「好き」と伝えられるようになって、
『文化祭デート、やっと、できた……』
『うん――俺も、ずっと、したかった』
たくさん、たくさんデートして、
『やだ、置いてかないで、桜子ちゃん――』
『もう死なないから、大丈夫ですよ、先輩』
いくつもの夜と朝を一緒に過ごして、
『なにも思い出さないでいい』
たとえ困難に見舞われても、
『先輩は、死んじゃ駄目だよ』
『うん。俺は、絶対に――』
ひとりにしないよって、
『桜子ちゃんのことを』
ずっと、隣に、
『俺は、何度でも、きみと――……』
こんな日々が、四月一日まで続くと思っていたんだ。
5
――三月、一日。
桜子の十六歳のお誕生日に、彼と桜子は喧嘩をしてしまう。ふたりのベッドからこっそりと逃げ出した桜子は、どこまでも純粋に無知だった。この日に、この選択をすることの危うさを知らずに、想像もせずに、彼女は夜の町へと駆けていく。
そして――
「…………先輩」
数時間後、真っ白な寂しい病室で。
桜子は、先輩のスケジュール帳を胸に抱きこんだ。
彼女の手のひらには、ふたつの桜のヘアピンと古びた鍵ひとつが握られていた。
「先輩、……なんで」
ループ、ループ、ループ……その一単語がぐるぐるぐると脳みそを掻くように回っている。吐き気がするほどまわされる。知らない記憶に殺される。犯される。
9月1日 『飛び降り』『0』『中学』
9月1日 『飛び降り』『1』『大学』
9月1日 『飛び降り』『2』『高校』
12月24日 『他殺』『3』『家』
2月14日 『他殺』『4』『☆』
3月1日 『お別れ』『0』『駅』
そんな、悲しい言葉や数字、覚え書きがいくつも刻まれた、秘密のスケジュール帳。
これは、桜子を救うための記録だった。
守られていたのは、ずっと桜子の方だった。
ずっと、ずっと。先輩は、ずっと。
数分前――23時49分――……
桜子を守ってくれた先輩が、点滴の管やら何やらに繋がれてしまってから。
黒髪に紅い目の先生は、桜子に秘密のお話をしてくれた。
その話には、この契約恋愛の有り様をくるりとひっくり返す力があった。
『花くんは、あなたのために、十三ヶ月をやり直してきたのよ』と。
『ここは、彼にとって、もう五度目の世界でね』と。
『あなたは、繰り返し、何度も死んでいるの』と。
高度に発達した科学技術は魔法と区別がつかない――クラークの第三法則よ、と彼女は茶化すようにウインクしながら言い、まるで愛の奇跡よねとファンタジックかつロマンチックな風に囁いた。不思議に惹かれる声だった。
過去改変、治療法。またの名を、やり直し療法。
黒髪紅眼の先生が唱えるそれは、現代の医学や科学のお話というよりは、ちゃちなSF小説の設定らしく聞こえる。彼女は、一般には病死とされない死――自殺、他殺、事故死など――に至る運命を病の一種と捉え、それを治す方法を模索していた。
来世の移植と、時間逆行。
これらが先生の編み出した治療法の鍵となる。
彼女が生んだ新技術は、次の人生、すなわち来世の存在を可視化・分離・保存できる。
さらに来世提供者と死者とを〝糸〟で繋ぎ、臓器移植のように来世を渡すと、生死の融合によって起きる反応から二者を取り巻く時間が逆向きに進み、もう一度――……来世提供者は、次の人生を犠牲に、死者と過去をやり直すことができる。
ふたりの場合は、来世提供者が先輩で、死者が桜子だったというわけだ。死の運命を変える〝治療〟をうけていたのは、彼ではなく、桜子。最初の桜子の死後、先生が彼に〝実験〟への参加を持ちかけたことで、ふたりの繰り返しは始まったという。また、これは、まだ世に出ていない不完全かつ秘密の方法なのだとか。
過去改変。ループ。やり直し。
ああ、なんて馬鹿げた話だろう、と。聞いて、桜子は乾いた笑いを浮かべた。
ついさっき自分を庇って先輩が刺されたとあって心身ともに疲れていた。それなのに自分がもう何度も死んでいるなんて、意味がわからなかった。ちゃんちゃらおかしい。
……けれど。
雪美さんから渡された秘密のスケジュール帳は、彼が何度も同じ時を生きていることを表すようで。ふたつの桜のヘアピンも、並行世界の存在を示唆するようで。ひとつ、ひとつ、思い出を振り返っていくと、彼の言動すべてが〝そう〟だったんじゃないかと桜子を疑わせて。寿命の話も聞いたら、ああ、だから、とさらにしっくりきてしまって。
現在――23時58分――……
先生はいなくなって、病室には先輩と桜子のふたりきり。
桜子はスケジュール帳と鍵とヘアピンを膝の上に置き、大好きな先輩の手をとった。
力なくとも、ちゃんと温かい。生きている温度が、そこにある。
「……先輩、起きて、先輩が、教えてくださいよ」
かち、かち、と秒針が時を刻む音がする。
「わたし、もう、先輩のカノジョでしょ……」
かち、かち、と秒針が時を刻む音がする。
「過去じゃなくて、並行世界じゃなくて、今の世界でも、わたし、頑張って――ほんとうのカノジョになったもん……不安にさせちゃ嫌です……早く起きて……?」
かち、かち、と秒針が時を刻む音がする。
「ねえ、先輩」
先輩の馬鹿。何が代行者だ。契約だ。
死んじゃった元恋人も、どのカノジョも、みんなみんな桜子だったって。
嘘だった。全部、全部が。
もしも桜子が望むなら、桜子の命を対価に、先生は先輩を目覚めさせられるって。
ほんとうに?
あなたは、来世を捧げて、寿命を賭けて、五度もわたしと生きてくれたんだって。
先輩ったら、あの怪しい先生のお話を信じたの?
ちゃちなSF小説みたいなお話に乗ってまで、あなたは桜子を救いたかった?
何度も、何度も、繰り返して。
わたしは――並行世界の紫月桜子は――あなたにとって、
「……先輩……好き、です…………ごめんね……」
なんだか眠たくなってきて、彼と手を繋いだまま、桜子はそっと目を瞑る。ああ、でも、うっかり手帳たちを落としたら悪いなと目を開けて、先輩の枕元に置き直した。
一冊のスケジュール帳。
一本の鍵。
ふたつの桜のヘアピン。
ゆるゆると椅子からおりて、ひざまずき、授業中の居眠りみたいにベッドを机代わりに顔を伏せる。目が覚めたら、先輩も起きてたらいいな。ずっと一緒に、いたかったな。
すごく、好きだな。わたし、このひとの、ことが、ずっと。
「……もしも、先輩が、死んじゃうような目に遭ったら……遭ってたら、わたし……」
瞼の裏に、いつか見た彼の写真が蘇る。
黒髪の子どもの彼。白髪の中学生の彼。可愛いかわいい年下の彼。
――あれ?
何か違和感が顔を出し、桜子は薄っすらと目を開ける。
頑張ってひらいた、重たい瞼の向こう。見えた年上の彼の美しい顔には傷痕があって、それも桜子を守ったせいで。あの日、あの時、彼は。
――ああ、そうだ……。そっか、先輩も。どうして、もっと早く……気づけなかったの。
もう眠ってしまいそうな、音も光も遠のいて消えゆく世界で。
桜子はひとつ誓いを立てた。
――今度は、わたしが、薫を見つける。
そして、なんにも知らなかった、桜子は。
忘れた馬鹿な桜子は。桜子は。
桜子は、心の中で叫ぶ。
祈る。
――知りたい。
あなたと生きた過去を、
あなたの嘘のすべてを――!
『花泥棒先輩?』
『薫くんっ!』
『薫先輩。』
『花咲先輩……』
『わたしはね、』
そう、桜子は――……
n
わたしには、やり直したい日が五日ある。
ひとつ、九月一日。学校の屋上から飛び降りるのをやめたい。
ふたつ、二月十四日。ふたり暮らしの家から出るのをやめたい。
みっつ、三月一日。無理やりにでも肌を重ねて、あなたを覚えてたい。
よっつ、四月七日。あなたを止めたい。もういいよ。って抱きしめたい。
いつつ、十二月二十四日。みんなで一緒に……ケーキを食べたい――……
…………でも、そんな〝もしも〟は、もう叶わない。
あなたのスケジュール帳。四月一日の四角い枠。
そこにあった言葉を、わたしは消せなかった。
『この世界は、やり直せない。』
わたしが消せたのは、■だけ。
わたしにできたのは、それだけ。
あなたのやさしい嘘を暴く言葉を、わたしは知らない。
――よし、大丈夫。完璧だ。
ふうっと息を吐き、二冊のスケジュール帳を鍵付きの箱にしまう。お守り代わりのルーズリーフは小さく畳んで、ポケットの中に入れておいた。
寂しいひとり暮らしの日々とも、これでお別れか、と。だだっ広い部屋を見回す。
のびのびと暮らせる大きな家なのに、ときどき、まるで鳥籠に閉じ込められているようにも感じた我が家。窓から見える景色は高く、引き籠もっていても街を見下ろせる。
この頑丈な家が、俺は窮屈で仕方なかった。
――さてと、
と向かった廊下の壁には、全身を映せる鏡が掛かっている。
この鏡の前で〝彼女〟が軽やかにくるりと回って、スカートを膨らませて、はにかむのが。俺とのデートを楽しみにしてくれる彼女を見るのが好きだった。
今の姿見に映るのは、桜色の髪に、桜のヘアピンをした風変わりな男、ただひとり。
世の人は、俺の顔を美しいと評する。今も、昔も。
俺が愛した彼女は、桜色の俺しか知らない。
彼女の記憶に、黒髪や白髪をした俺は存在しない。彼女の中に〝彼〟はいない。
彼女は、並行世界の俺を――、お話だとか、お手紙だとか、そういうのから知るだけだ。
「いってきます」
写真の彼女にキスをして、俺は玄関扉をガチャリと開ける。
彼女との再会を待ち望んでいた。用意は周到なはずだ。大丈夫、絶対に間違えない。
曇りがちな空の下、覚悟を胸に染み込ませるように深呼吸する。
――もっと、早く、きみのもとへ飛んでいきたかった。
天から覗く青色は、まばらで薄い。今度こそ幸せにしてやると、この空に何度も誓った。
彼女が生きていた日々が脳裏をめぐり、情けなくも視界がにじむ。
『あいしてるよ、薫くん』
満開の花の笑みを見せ、記憶の中の想い人は少女のまま、消えた。
さあ、もう一度、きみと最後の恋を始めよう。
【花泥棒は
四月一日の桜子を
知りたい。】
著:幽八花あかね
イラスト:知
0
桜子は、桜色の髪をした先輩しか知らない。
彼が黒髪だった時のことも、白髪だった時のことも、なんにも知らない。
某月某日。また女といちゃついてら、と桜子は心の中で呟いた。高校のお昼休み中。
ガラス張りの壁をした渡り廊下で立ち止まった彼女は、屋外にいる想い人に目を留めた。
――先輩、また、違う女の子と一緒に。
後輩の嫉妬交じりの瞳に捕まった罪な男は、隣に女を連れてベンチに腰掛けていた。
愉快な中庭デート、とでも言ったところか。羨ましい。
ガラス窓の向こうでおひさまに照らされる彼の髪は、もう可愛らしいピンク色をしている。それが桜子は、ほんのちょっとだけ気に食わなかった。
桜子は、この色の先輩しか知らないから。
――今日も、きれいな桜色。……カノジョさんの色。
小さい頃の先輩の写真を、彼のお姉さんから、こっそり見せてもらったことならある。病院で、中学生の頃の写真を見たことも。彼の担当医の〝先生〟がうっかり落とした一葉を、偶然に、桜子が拾い上げたのだ。
写真の中でだけ見た彼は、子どもの彼も、中学生の彼も、みんなみんな愛おしかった。まだ桜色じゃない、今の桜子より年下のかわいい先輩。
――ねえ、先輩、
ここからじゃ声は届かない。わかっていながら、彼女は窓へと近づいた。ほう、と息を吐くと、ガラスはほんのり曇って半透明になる。向こうの先輩がほわほわとぼやけてしまう。まだ今日の桜子は泣いていないのに。
二年A組の、花泥棒、先輩。
彼は桜子の想い人であり、契約相手だ。
女遊びの達人だと女子生徒からも咲われ、学校一の美男子だと男子生徒からも謳われる。愛され、恐れられる、綺麗なひと。この先輩のおかげで、桜子も、学校のひとからちょっと怖がられている。これも一因となってか、やっぱり桜子に仲良しのお友だちはいない。
――あなたの、本当のカノジョになりたい……って、こんな契約違反の欲――
一年F組の、紫月桜子。
彼女は一種の雇用契約により、学校では彼の〝義妹〟を、家では彼の〝恋人〟を演じている。義妹も恋人も虚構だ。どちらも、本当は、どこにもいないひと。
先輩にはお姉さんはいても、妹はいない。ご両親はラブラブで、再婚云々で義理の妹ができたなんて嘘っぱちの設定だ。そして彼に、恋人は、いない。セフレはいるけど。
先輩の求めるカノジョさんは、もう、この世界のどこにもいない。
――身のほど知らずで、ごめんなさい。言えないけど、でも、好きです。先輩のこと。
先輩は、お母さんやお姉さんと同じ黒の髪で生まれて、ある事件に巻き込まれてから真っ白な髪になって、今は桜色の髪染めをして生きている。――らしい。そう、聞いただけ。
桜子は、桜色の髪をした先輩しか、知らない。
――もっと、早く、あなたと出会いたかったです。先輩。
桜色。それは、彼の好きなひとの好きな色。彼の大好きな名前の一文字の色。
桜子も、ママからもらった名前に〝桜〟がつくから、桜色は昔から好き。パパからもらった桜モチーフのヘアピンも、可愛くって大好き。お気に入り。先輩も、いつも桜のヘアピンをしている。彼の花びらは一枚きりだけど。食べ物の桜餅も好きで、春の桜フレーバーのケーキも好き。桜のチーズケーキをごちそうしてもらったのは、彼と出会った入学式の日の思い出だ。あの日から、桜子は〝桜〟をもっと好きになった。
「――あっ」
先輩が、隣の女とキスをした。長いから、きっと、おとなのキスだ。経験はない桜子も、なんとなくわかる。ぽろり。と桜子の目から涙がこぼれた。
先輩にしなだれるのは、桜子とはぜんぜん違う、茶髪メッシュにピアスの女だった。
ブラウスのボタンを大胆にいくつも開けていて、黒のブラ紐とレースがこちらからでも見えたくらい。今は、涙でにじんで見えないけど。ぼやけてるけど。
――先輩は、あの子とも、えっちするのかな。
桜子は廊下を走り、階段を駆けおりた。
いつも桜子の頭や頬を撫でてくれる先輩の手が、女の太ももに触れたから。
――先輩は、わたしの太ももには、触んないもん。触ってくんないもん……!
逃げて、遠回りをして、図書室へ向かう。ガラスを通ったおひさまが燦々と彼女を照らす。上履きの白が眩しく光る。
この学園の建物は、やたらとガラス張りのところが多かった。系列の大学校舎も、高校校舎も。今、桜子がおりている小さな廻り階段も、大きな窓に囲まれている。
――透明なのに、空が見えるのに、外には出れない。
まるで鳥籠だ、とひとりごちる脳裏、ガラスにまつわる記憶がぐらりと混ざった。先輩のお家に、総合病院、割れた窓、観覧車。彼との思い出と、家族の思い出が交差する。
――先輩も言ってたっけ。ガラス越しに見えた〝彼女〟が、とても綺麗でね、って……
愛しいひとが寝ぼけまなこに吐いたのは、きっと、消えた〝あのひと〟のことで。
図書室につくと、桜子は日本文学の棚に向かった。無意識だった。勝手に足が動いた。高村光太郎。梶井基次郎。夏目漱石。唇だけで呟いて、彼が好きだと言った本の背表紙をなぞる。懐かしいなんて、妄想だ。願望だ。紙上の詩や物語にさえ焦がれる嫉妬は醜い。
――ここで出会ったのは、わたしじゃない。この桜子じゃない。違う、桜子。わきまえろ。――恋を免罪符にしたって、記憶を捏造するのは悪だ。彼が夢に見たのは、別人だ。違う。――違う。わたしじゃない。先輩の好きなひとは、わたしじゃない。わたしは……
先輩の好きなひとは、詩を朗読してほしい、綺麗な声の女の子。レモン哀歌の似合う女の子。桜の季節に埋められた女の子。遺書をのこしてくれなかった女の子。
――それは、わたしじゃないよ、桜子。他人の空似だよ。
先輩は桜子を大切にしてくれる。いつも「好き」って言う。一緒に寝る。ごはんを食べる。毎日「死なないでね」って、切なげに言う。だけど彼の好きなひとは、桜子じゃない。
桜子は、先輩の元恋人の代行者だ。
これは、期間限定の契約恋愛。
四月一日に終わる恋。
1
「花くんは、心的外傷後ストレス障害――PTSDを抱えてるんです。彼の場合――」
学校で、よく耳にする呼び方。花くん。
そう、女子生徒みたいに彼を呼ぶのは、先輩の担当のお医者さん。彼女は黒髪ロングのナイスバディで、珍しい紅色の瞳をしている。髪は染めてるけど、瞳は生まれつき。と前にウインクしながら教えてくれた。白髪時代の先輩の写真を拾った時に。
ここは、精神神経科の診察室。
九月某日。彼の定期通院に付き添って、桜子は初めて訪れた。ちょっとドキドキ。先輩本人は今、他のお部屋で、カウンセラーさんとお話し中らしい。
うんうんと話を聞く桜子の瞳は、ちらちらり、先生の瞳と髪をたまに見る。不思議に惹かれる魅力のある先生なのだ。桜子の隣には、黒髪美人がもうひとり、先輩の実姉の雪美さんもいた。
桜子は、髪を染めたことがない。
瞳と同じ真っ黒な髪はパパ似で、前髪はセルフカットのぱっつん。後ろの髪は、切りにいくお金がもったいないからと伸ばしっぱなしのストレートロング。最後に切ったのは中学の入学前で、久しぶりに帰宅したママが切ってくれたのだ。
パパにも、ママにも、桜子はしばらく会っていない。ママが誰かさんと致した痕跡は、つい先日、実家の部屋で見たけれど。寝るなら事後処理くらい自分でしてほしいものだ。
桜子の母親は、若い男とお金をこよなく愛している。
そして先輩も、若くて、美しくって――……いや、ここから先は、もう止そう。
嫌な想像を振り払い、桜子は、病院の薬っぽい匂いをすんと嗅ぐ。
なぜか懐かしい感覚は、答えと結びつく前に溶けてった。
――花泥棒先輩。……大丈夫かな。
ママ似の可愛らしいその顔は、だんだん不安げな色を帯びていく。言葉の棘に刺されゆく痛みをこらえるように小さく歪み、娘を殴るときの母の顔と図らずも似てきてしまう。桜子本人に自覚はないけれど。
先生から聞かされる想い人の状況は、なるほど、桜子の思う以上に酷かった。
「今の花くんはね、」と続く宣告に、彼女の胸はズキリと痛む。
先輩は、桜子と元恋人の区別がつかないのだ、と。
――いつも、じゃないけど。一時的かも、だけど。やっぱり、どっちの桜子か、わかんないんだ……。先輩、わたしのこと、わかんなくなっちゃったんだ……。
桜子は現実を呑み込み、深呼吸してから、震える唇をゆっくり開いた。
今こそ踏み込みたいことがあった。
「あの、その方って、自殺、なさったんですか?」
ぼかされていた死因、彼の元恋人のこと。
先輩の髪が真っ白になった原因も、想い人に関するものだと薄っすら聞いている。先輩は、ストレスで毛髪の色素がやられてしまう体質なんだとか。
しかし黒髪の先生は、桜子の予想をまたも裏切り、ゆるく頭を振る。
「いいえ、事故よ。車のね」
「そ、そうですか……」
桜子は、おとなしく、唇をきゅっと引き結んだ。ひとりでぐるぐると考えた。
大人ふたりには黙ったまま、先日見たモノを思い返す。
彼の今年のスケジュール帳の九月一日の枠には、こんなメモ書きがされていた。
『飛び降り』
しかも、そのメモは、ひとつではなくて……
「――何かを思い出したの? 紫月さん」
「へっ、え?」
先生の声と紅い瞳の鋭さに、桜子はハッと我に返る。慌てふためき、へらっと誤魔化し笑いを浮かべる。隣の雪美さんが、訝しむように桜子を見た。
「桜子ちゃん? どした?」
「いえ、あの」
あれは、先輩の秘密の手帳だ。桜子が目撃したのも事故のようなものだった。
「わたしは、何も」
首を横に振る。ここでバラしてはいけない。彼が隠したいことなら、身勝手に暴いてはいけない。たとえ彼の様子がおかしくても、どんな疑念や不信感を抱いていても。
「そう」先生はあっさりした口調で返事して、話を再開する。「ともかくね――」
結局手帳のことは伏せたまま、桜子は、先生のお話を聞き終えた。
桜子は、先輩の秘密ごと守りたかったのだ。
――もしも、あなたが、本当に誰かを殺しても。
先輩のことが、好きだから。
2
「お待たせ、桜子ちゃん。あぁ、姉ちゃんもいたんだっけ」
「おい」
待合スペースで合流した先輩に、雪美さんがデコピンする。ぱちんっと小気味よい音。よく見る光景だ。わざとらしく「痛ぇっ」と額をさする先輩は、お姉さんの前だとすこし子どもっぽい。桜子はうふふと笑って、きょうだいっていいなとまた羨んだ。
先輩と桜子の仲は、先輩のご家族公認。雪美さんの名前で借りているマンションの一室で、先輩と桜子はふたり暮らしをしている。
――お嫁さんのように一緒に暮らすこと。
それも、彼と結んだ一年契約の条項のひとつだった。
「んじゃ、帰ろっか、桜子ちゃん」
先輩は慣れた様子で桜子の手をとり、指を絡めて繋ぎ合わせる。恋人つなぎってやつだ。
「はい、先輩」きっと元カノさんともしていたのだろうな、と桜子はぼんやり思う。
どうしても手が届かないカノジョさんへの嫉妬をおぼえたら、心を閉ざして無視をする。それが桜子の自己防衛だった。
100パーセントでうまくいくわけではないけれど、ある程度の痛みは軽くできている。どうか、別れの時には無痛でありたい。最後は笑ってさよならしたい。
――ずっと。が叶わないなら、あなたの枷にならないよう、きれいに消えてみせますね。
桜子ちゃんの笑顔は世界でいちばん可愛いよって、前に先輩が言ってくれたから。
3
「ただいま」
「ただいま」
ふたりで言って、靴を脱ぐ。ここが先輩と桜子の愛の巣だ。
と言っても、先輩は、桜子を抱いたことは一度もないんだけれど。彼は負の感情を紛らすようにいろんな女の子とセックスしても、桜子とはシない。なぜか頑なに。
苗字の〝花咲〟から、花くん。花先輩。学校のひとは彼をそう呼ぶ。
花を次々に手折る姿から〝花泥棒〟とも。桜子は、家では〝花泥棒先輩〟って呼ぶ決まり。学校では〝お兄ちゃん〟。これらも契約に織りこまれていたことだ。
桜子に名前を許さない彼も、さすがに契約書の上では本名を綴った。あとは、はじめましての時も名乗ってくれた。声に出してはいけない彼の名を、桜子は舌の上で飴玉を転がすように味わう。密かに、そっと。
はなさき、かおる。花咲薫。
桜子の好きなひとは、花咲薫という、ひとつ年上の男の子。
「いただきます」
「いただきます」
ふたりで言って、手を合わせる。桜子のつくった夜ごはんを一緒に食べる。
日常のこういった挨拶は、声を重ねて同時に言ったり、順番に言ったり。どっちの場合もあるけど、必ずふたりとも言う。契約から始めた先輩と桜子が、恋人や夫婦らしくあるために。契約生活に必要な儀式めいたものだ。
「今日も美味しいよ。ありがとう、桜子ちゃん」
「どういたしまして。花泥棒先輩」
家事はふたりで分担していて、桜子ひとりがやるわけじゃない。
食器洗いやお風呂掃除は先輩の担当で、桜子の担当は料理や洗濯。乾いた洗濯物を畳むのは彼。部屋の掃除はふたりで。話し合って決めたこの割り振りをベースに、桜子の体調や先輩の予定に合わせて、ふたりとも臨機応変に動く。
お嫁さんのように。新婚さんのように。
そう、仮初めだとわかっていながら、円満な生活を送っている。
「髪、伸びたね」
お風呂上がりの桜子の髪を乾かしながら、先輩が呟いた。
桜子は平気な声をつくって彼に問う。
「いつのわたしと比べて? どのくらい?」
どちらの桜子か知りたがった疑問符は、並べてみるとちょっぴりおかしい。
「……三月一日から、九センチくらいかな」
数字は平均値と計算から出せるので、問うたも答えたも大事なのは日時だ。
「半年で九センチなら、まあ、そうですね。伸びたと思います」
――ああ、これはわたしのことじゃない。わかってた。
だって桜子が先輩と出会ったのは四月のことで、桜子は三月の先輩なんて知らないから。
先輩も、入試のあった一月某日ならまだしも、三月一日の桜子なんて知るはずないのに。
――今の先輩は、わたしとカノジョさんとの区別がつかない、から。
「ねえ、花泥棒先輩」
「なぁに、桜子ちゃん」
「……んーん、なんでもない。呼んだだけ」
「ふふ、なにそれ可愛い~! 大好きっ」
――可愛いも、大好きも、きっとわたしのことじゃない。今は、そう。
それでも桜子は笑う。にこにこ笑う。可愛く笑う。大好きなひとを亡くして心を病んでしまった先輩が、また前向きに生きていけるように。彼の隣で笑って生きる。
それが桜子の仕事で、存在価値だ。
――先輩は、わたしの光になってくれたから。今度は、わたしが。今年は死別じゃなくて、笑って、幸せになってねってさよならするの。これは、彼のための、もう一度――
今は亡きカノジョさんとの思い出をなぞるように生き、最後だけは違う終わり方をする。
それで彼は、100パーセントに治るかは不透明でも、いくらか救われるはずなのだ。
桜子という他人の空似で、この恋をやり直せば、きっと。
――だから、本気になっちゃいけない。わたしは、治療に役立てるための偽物だから。雇われの身代わりだから。そう。わきまえろ、桜子。
「こうして、髪を触られるの、なんだか気持ちいいです」
先生だって、雪美さんだって、これが彼のためだと言っていたんだ。
「……そう? それにしても、桜子ちゃんの髪はさらさらツヤツヤで可愛いねぇ」
「ふふ、このお家のシャンプーが良いからじゃないですか?」
お互いの髪を乾かし合うのは、ふたりの日課のひとつ。
先輩は手先が器用で、デートの時には桜子のヘアメイクもしてくれる。ゴールデンウィークの水族館デートの時も、彼が桜子を可愛くしてくれた。
――そういえば。
ママに切ってもらった記憶はないのに、高校生になった桜子の毛先は、自然に綺麗だ。
まるで誰かに整えてもらったみたいに、中学の時より美しく伸びている。
「桜子ちゃん、大好き。死なないでね」
「はい、死にません」
先輩は、毎日桜子に「死なないで」と言う。
桜子も毎日「死にません」と返して、彼の腕の中で眠りにつく。
――大丈夫ですよ、先輩。大丈夫。明日も、わたしは、あなたの隣にいるよ。
これが一日の最後の儀式だ。
「おやすみ、桜子ちゃん」
「おやすみなさい、先輩」
桜子と先輩は、こんなふうに暮らしている。
切なくも愛おしく、終わりの迫る幸福に溺れ――
4
『――桜子ちゃん。大好き』
『わたしも……好き、です』
いつしか「好き」と伝えられるようになって、
『文化祭デート、やっと、できた……』
『うん――俺も、ずっと、したかった』
たくさん、たくさんデートして、
『やだ、置いてかないで、桜子ちゃん――』
『もう死なないから、大丈夫ですよ、先輩』
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『なにも思い出さないでいい』
たとえ困難に見舞われても、
『先輩は、死んじゃ駄目だよ』
『うん。俺は、絶対に――』
ひとりにしないよって、
『桜子ちゃんのことを』
ずっと、隣に、
『俺は、何度でも、きみと――……』
こんな日々が、四月一日まで続くと思っていたんだ。
5
――三月、一日。
桜子の十六歳のお誕生日に、彼と桜子は喧嘩をしてしまう。ふたりのベッドからこっそりと逃げ出した桜子は、どこまでも純粋に無知だった。この日に、この選択をすることの危うさを知らずに、想像もせずに、彼女は夜の町へと駆けていく。
そして――
「…………先輩」
数時間後、真っ白な寂しい病室で。
桜子は、先輩のスケジュール帳を胸に抱きこんだ。
彼女の手のひらには、ふたつの桜のヘアピンと古びた鍵ひとつが握られていた。
「先輩、……なんで」
ループ、ループ、ループ……その一単語がぐるぐるぐると脳みそを掻くように回っている。吐き気がするほどまわされる。知らない記憶に殺される。犯される。
9月1日 『飛び降り』『0』『中学』
9月1日 『飛び降り』『1』『大学』
9月1日 『飛び降り』『2』『高校』
12月24日 『他殺』『3』『家』
2月14日 『他殺』『4』『☆』
3月1日 『お別れ』『0』『駅』
そんな、悲しい言葉や数字、覚え書きがいくつも刻まれた、秘密のスケジュール帳。
これは、桜子を救うための記録だった。
守られていたのは、ずっと桜子の方だった。
ずっと、ずっと。先輩は、ずっと。
数分前――23時49分――……
桜子を守ってくれた先輩が、点滴の管やら何やらに繋がれてしまってから。
黒髪に紅い目の先生は、桜子に秘密のお話をしてくれた。
その話には、この契約恋愛の有り様をくるりとひっくり返す力があった。
『花くんは、あなたのために、十三ヶ月をやり直してきたのよ』と。
『ここは、彼にとって、もう五度目の世界でね』と。
『あなたは、繰り返し、何度も死んでいるの』と。
高度に発達した科学技術は魔法と区別がつかない――クラークの第三法則よ、と彼女は茶化すようにウインクしながら言い、まるで愛の奇跡よねとファンタジックかつロマンチックな風に囁いた。不思議に惹かれる声だった。
過去改変、治療法。またの名を、やり直し療法。
黒髪紅眼の先生が唱えるそれは、現代の医学や科学のお話というよりは、ちゃちなSF小説の設定らしく聞こえる。彼女は、一般には病死とされない死――自殺、他殺、事故死など――に至る運命を病の一種と捉え、それを治す方法を模索していた。
来世の移植と、時間逆行。
これらが先生の編み出した治療法の鍵となる。
彼女が生んだ新技術は、次の人生、すなわち来世の存在を可視化・分離・保存できる。
さらに来世提供者と死者とを〝糸〟で繋ぎ、臓器移植のように来世を渡すと、生死の融合によって起きる反応から二者を取り巻く時間が逆向きに進み、もう一度――……来世提供者は、次の人生を犠牲に、死者と過去をやり直すことができる。
ふたりの場合は、来世提供者が先輩で、死者が桜子だったというわけだ。死の運命を変える〝治療〟をうけていたのは、彼ではなく、桜子。最初の桜子の死後、先生が彼に〝実験〟への参加を持ちかけたことで、ふたりの繰り返しは始まったという。また、これは、まだ世に出ていない不完全かつ秘密の方法なのだとか。
過去改変。ループ。やり直し。
ああ、なんて馬鹿げた話だろう、と。聞いて、桜子は乾いた笑いを浮かべた。
ついさっき自分を庇って先輩が刺されたとあって心身ともに疲れていた。それなのに自分がもう何度も死んでいるなんて、意味がわからなかった。ちゃんちゃらおかしい。
……けれど。
雪美さんから渡された秘密のスケジュール帳は、彼が何度も同じ時を生きていることを表すようで。ふたつの桜のヘアピンも、並行世界の存在を示唆するようで。ひとつ、ひとつ、思い出を振り返っていくと、彼の言動すべてが〝そう〟だったんじゃないかと桜子を疑わせて。寿命の話も聞いたら、ああ、だから、とさらにしっくりきてしまって。
現在――23時58分――……
先生はいなくなって、病室には先輩と桜子のふたりきり。
桜子はスケジュール帳と鍵とヘアピンを膝の上に置き、大好きな先輩の手をとった。
力なくとも、ちゃんと温かい。生きている温度が、そこにある。
「……先輩、起きて、先輩が、教えてくださいよ」
かち、かち、と秒針が時を刻む音がする。
「わたし、もう、先輩のカノジョでしょ……」
かち、かち、と秒針が時を刻む音がする。
「過去じゃなくて、並行世界じゃなくて、今の世界でも、わたし、頑張って――ほんとうのカノジョになったもん……不安にさせちゃ嫌です……早く起きて……?」
かち、かち、と秒針が時を刻む音がする。
「ねえ、先輩」
先輩の馬鹿。何が代行者だ。契約だ。
死んじゃった元恋人も、どのカノジョも、みんなみんな桜子だったって。
嘘だった。全部、全部が。
もしも桜子が望むなら、桜子の命を対価に、先生は先輩を目覚めさせられるって。
ほんとうに?
あなたは、来世を捧げて、寿命を賭けて、五度もわたしと生きてくれたんだって。
先輩ったら、あの怪しい先生のお話を信じたの?
ちゃちなSF小説みたいなお話に乗ってまで、あなたは桜子を救いたかった?
何度も、何度も、繰り返して。
わたしは――並行世界の紫月桜子は――あなたにとって、
「……先輩……好き、です…………ごめんね……」
なんだか眠たくなってきて、彼と手を繋いだまま、桜子はそっと目を瞑る。ああ、でも、うっかり手帳たちを落としたら悪いなと目を開けて、先輩の枕元に置き直した。
一冊のスケジュール帳。
一本の鍵。
ふたつの桜のヘアピン。
ゆるゆると椅子からおりて、ひざまずき、授業中の居眠りみたいにベッドを机代わりに顔を伏せる。目が覚めたら、先輩も起きてたらいいな。ずっと一緒に、いたかったな。
すごく、好きだな。わたし、このひとの、ことが、ずっと。
「……もしも、先輩が、死んじゃうような目に遭ったら……遭ってたら、わたし……」
瞼の裏に、いつか見た彼の写真が蘇る。
黒髪の子どもの彼。白髪の中学生の彼。可愛いかわいい年下の彼。
――あれ?
何か違和感が顔を出し、桜子は薄っすらと目を開ける。
頑張ってひらいた、重たい瞼の向こう。見えた年上の彼の美しい顔には傷痕があって、それも桜子を守ったせいで。あの日、あの時、彼は。
――ああ、そうだ……。そっか、先輩も。どうして、もっと早く……気づけなかったの。
もう眠ってしまいそうな、音も光も遠のいて消えゆく世界で。
桜子はひとつ誓いを立てた。
――今度は、わたしが、薫を見つける。
そして、なんにも知らなかった、桜子は。
忘れた馬鹿な桜子は。桜子は。
桜子は、心の中で叫ぶ。
祈る。
――知りたい。
あなたと生きた過去を、
あなたの嘘のすべてを――!
『花泥棒先輩?』
『薫くんっ!』
『薫先輩。』
『花咲先輩……』
『わたしはね、』
そう、桜子は――……
n
わたしには、やり直したい日が五日ある。
ひとつ、九月一日。学校の屋上から飛び降りるのをやめたい。
ふたつ、二月十四日。ふたり暮らしの家から出るのをやめたい。
みっつ、三月一日。無理やりにでも肌を重ねて、あなたを覚えてたい。
よっつ、四月七日。あなたを止めたい。もういいよ。って抱きしめたい。
いつつ、十二月二十四日。みんなで一緒に……ケーキを食べたい――……
…………でも、そんな〝もしも〟は、もう叶わない。
あなたのスケジュール帳。四月一日の四角い枠。
そこにあった言葉を、わたしは消せなかった。
『この世界は、やり直せない。』
わたしが消せたのは、■だけ。
わたしにできたのは、それだけ。
あなたのやさしい嘘を暴く言葉を、わたしは知らない。
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