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旦那様は笑う。

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遡ること2週間前のこと。

「さてと。困ったな。」

僕はある書類を見て、ぼやいた。北の老公より隣国に戦支度の気配があると聞き、調べた結果が来たのだ。

「旦那様。リューク様から伝言です。」

「なんだ。」

「『既に隣国は戦支度を終えたようだ、あと少しで攻めてくるぞ。』との事です。」

思わず笑ってしまった。

「まったく、愚かな事を。」

隣国とは23年前にメルリア王国の圧勝で終戦し、平和条約を結んでいる。だが、気が変わったらしい。

「さすがは好戦的・野心的な馬鹿ボンボン。一番厄介なタイプだ。王に即位して天狗になったのも拍車をかけたのかな。」

23年前に王として即位した者が数日前に急遽し、19歳の王子がその後を継いだらしい。あの王は非常に聡明だったが、息子を育てるのには失敗したようだ。

「嘆かわしいことだ。時間が経つと人間は、過去の教訓をドブに捨てるらしい…」

いつの間にか現れた、老いたお庭番が嘲笑う。その他にも使用人達が集まっていた。薄れない憎しみと怒りが陽炎のように立ち上る。

「23年振りの戦争だ。暴れてやれ。」

僕の言葉に真っ黒な微笑みを浮かべ、恭しくお辞儀をし…ふっと彼らは散った。


「シェリー…」

1人残された部屋で明るく笑う少女の姿を思い浮かべた。彼女は戦争が起きることをまだ知らない。でも、知らなくていい。

「こんなの、始まる前から勝敗が決まっている遊戯だ。」

隣国は負ける。今度は平和条約なんて生易しいものでは終わらない。二度と立ち上がれないように、徹底的に潰される。過去、何度も戦争を仕掛けられてきたが、僕達は一度も勝ちを譲ったことがない。次も譲らない。

「老公がシェリーを連れて行ってくれるはず。その間にケリをつけてやる。」

近いうちにやってくる侵略者…いや、道化を向かい打つために僕は準備を始めた。










そして、今。

「ふん。そこまでして見せたくないのか、血濡れの姿を。」

「あの子には綺麗な世界だけを見ていて欲しいのです。頼めますね?」

煙草をふかしながら、老公は暫く思案してから頷いた。

「よかろう。シェリーは私が守る。だが、いいのか?返さないかもしれないぞ。」

「その時は…ご覚悟を。」

シェリーは僕と結婚した、僕の奥さんだ。誰にも譲らない。

「はははは!!!いい顔をするようになったな。なんでもいいが、あの子を悲しませるような結果にはするなよ?相手は馬鹿だろうが、腐っても王族だ。油断していると足元をすくわれるぞ。」

「ご忠告いたみいります。そうならぬよう、全力で潰します。」

こうして全ての準備が整い、シェリーを老公が街へ出かけると誘い出し、南の公爵家へと旅立った後。


隣国が攻めてきた。
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