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親と子の対談 三

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 だが、カルブンクルス国王はそうしなかった。それはサプフィール側からすると、言い分を聞く価値もない、聞くに値しない格下の存在であるとカルブンクルス側から言外に示されたようなものだ。


「この件は保留にしておく。判断情報がそろい次第、お前にも伝えよう」

「そうしてくれ」


 こういう時、母の慎重な性格をありがたく思う。突然の国交断絶は、両者に戦争を引き起こさせる原因になりかねない。
 こう見えてもサプフィールはカルブンクルスよりも大きな武力を持った大国家だ。かつ日々を生きるのに欠かせない川の水源をおさえ、支配する国でもある。敗戦する可能性はゼロではないが、極端に低い。
 しかし、故郷が戦火に巻かれるとキリエが知ってしまったら。今以上に心を痛め、大いに嘆き悲しむだろう。
 最悪、自分のせいだと思いつめて心を壊すか。もしくは、なにがなんでもカルブンクルスに戻ろうとし、サプフィールに牙を剥く敵兵となりかねない。
 それだけは阻止したい。否、しなければならない。
 腕を組んだ母が、小首を傾げながら問うてきた。


「次の質問だが。『光の乙女』が伴侶に選んだという王子に見覚えはあったか?」

「あれに?……いや、ないな」


 愛おしげにエメの腰に手を回していた、横恋慕の男を脳裏に描く。
 見た事はない、はずだ。どんな顔だったのかすぐには思い出せないし、名前にも聞き覚えはなかった。
 盟友国の貴族の中でも高位にある公爵、王族の顔は必ず覚えるように癖づけている。記憶にないということは、間違いなくあの時が初対面だ。


「それがなにか……、──!?」


 途中で重大な事に思い当たった。
 ハッと目を見開いたアルシュに、重い頷きが返る。


「気づいたか」

「ああ。……あれは、あいつは誰だ?」


 婚約パーティーに招待されていたのは、盟友国の王族、もしくは代理に指名された公爵の身分を持つ者だけだ。あくまで婚約の発表をするための場なので、結婚式のようにあらゆる貴族を呼び祝うような大がかりなものではない。
 つまりは、集まった者全員の名前と顔を知っていなければおかしいのだ。初対面の人間がいるはずがない。
 エメはあの男を王子と呼んでいた。しかし、彼の顔と名前をアルシュは知らない。


「キリエ王子はその男を知っていたか?」

「いや、知らない……はずだ。キリエから、そいつの話を聞いたことがない」


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