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RFO荘へようこそ(現代パロ)
不幸中の幸い 四
しおりを挟む「ありがとう、ございます。あの……助けてくれたお礼を、させてくれませんか?」
下げられた頭とともに申し出た謝礼には一度断りを入れ、辞退しようとした。……が、どうしても、と懇願する眼差しに負けた。涙目で言われてそれでもNOと言える人は、一度口にしたことは何があってもつらぬく硬派か、好意を邪険に感じるひねくれ者だ。
夕影、と名乗った青年と並んで公園を出る。彼の手には調味料で重いあのビニール袋が下げられていた。
思った通り、彼の荷物だったようだ。帰宅途中、公園を横切ろうとしたところで突然男に引きずりこまれたらしい。
携帯端末も返却している。ビニール袋とは反対の手で持ち、画面一覧に表示された地図を見ながらこっちです、と誘導を買って出てくれた。……なぜ自分の家に帰るだけなのに、道順ガイドが必要なのだろうか?
「恥ずかしながら、方向音痴で……。これがないと、お家に着くまで何時間もかかってしまうんです」
恥じらいながらされた告白は嘘ではなかった。
「それ、すごく大変そうですね……って、そっちは真逆ですよ!」
言った傍からちらりと見た目的地と彼が足を向けた方角が反対である。地図を見てさえこうならば、なおさら携帯端末を手放せないだろう。
道中、寒さと公衆トイレでの出来事をまぎらわせるように会話を交わす。進学に伴って上京したばかりであること。アパートの契約がなかったことにされていたこと。夕影からは、山瀬が通学する予定の学校の一年先輩だということと、荘での借り暮らしであることを聞いた。
「あ、ここです」
十字路を曲がった先、まっすぐ向こうに見えた建物が指差された。え。山瀬は目を瞠る。
荘、と聞いて思い描いていたのは、二階建ての小さなアパートだ。家賃が安い代わりに一部屋一部屋の面積が小さい、まさしく苦学生を主人公としたドラマによく使われるような。
違った。そこに広がっていたのは、豪邸だった。
侵入や防犯対策だろう、建物を一巡しているらしき高い外壁。外国でよく見るようなおしゃれな門扉。門から豪邸までの間には石畳が橋のように渡され、その両脇をよく手入れされた柔らかそうな芝生が覆っている。
豪邸は窓の数から見て五階建てだ。そして横にも多い。まるでちょっとした観光ホテルのような風体。
どう見ても家賃が高そうだ。思わず夕影と見比べてしまう。こんな場所の一室を借りるくらいなのだから、実はお金持ちのお坊ちゃんなのだろうか。
山瀬の内心など知る由もない夕影は、手慣れた様子で門扉を開け放った。入っていいものか。場違いではないのか。尻込みしつつ夕影の後に続き、よく見れば大理石である石畳に恐々足を乗せた。その時であった。
カサ、カサ。草を踏み分ける微かな音がする。豪邸の住人だろうか。挨拶はしておかないと。山瀬は音の出所へと顔を向け。
「ヒ……ッ!」
人は突発的恐怖に直面すると、声が音にならず、ただ息として喉から漏れることを知った。こんな場面でそんなことを体験したくはなかった。
のっそりと姿を現したのは、人ではなかった。
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