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それくらいで済んでよかったね@(まだ)健全 12
しおりを挟む着信を告げる音楽が大音量で流れた。意識を急浮上させられたハマルは、重い瞼を開きながら頭上近くへと片手をさまよわせる。指先が端末の冷たく薄いボディに触れた。
相手を確認せずに通話をオンにする。寝起きだからと横着したわけではない。連絡先を登録するほど親しい相手にはそれぞれに着信音を設定している。聞けばだれからなのか判別がつく、というだけだ。
『やっほーハマル! おっはよー!』
「……今何時だと思っているんだ、ルクバト」
耳にあてないうちから響く相棒の声。金切りのように高音ではないのが救いなほどよく通る声音だ。
眉根を寄せると両目もつられてぎゅっと閉じた。視覚を刺激する画面の明るさが瞼に遮られて半減する。
『朝の十時! 気づいてないみたいだけど、もう電話しても問題ない時間だからね?』
「十時?」
端末に表示された時刻を見てみればなるほど、嘘はつかれていない。外を照らす明かりも薄暗さがつきまとう街灯のものではなく、太陽によるすべてを浮き彫りにするような眩しい日差しだ。
『それに、今日はお仕事の日でしょ? 寝坊したら困るって言ってたから、いつものモーニングコール!』
「ああ、……助かる。礼を言う」
『えへへ、もっとほめてほめて!』
「これ以上なにをどうほめろと……?」
ギシ、とスプリングをきしませながら上半身を起こし、ふと疑問が生まれた。いつベッドに入った?
ハマルの記憶はソファーの上で途切れている。あのまま寝落ちしたらしいのは間違いないが、途中で起きて移動した覚えもない。これでも眠りと眠りの隙間にできた短い時間を夢と勘違いしないくらいには識別がある。忘却も珍しいくらいだ。
忘却といえば、なにかを忘れている気もする。なにか、いつもと違う、大事なようなそうでないようななにか──。
『そうそう。ついでに先に一つ、確認しとくけどさ』
はずむようだったルクバトの声が急に落ち着いて、ハマルの意識が思考の海からそちらに引っ張られた。こういうときに彼が口にするのは、だいたいが問題をふくむ。
『ハマル、知らない男たちとラブホに行ってハメ撮りエッチとかしてないよね? 昨日』
「は?」
なにを問われたのか。言葉の意味を理解し損ね、次いで耳を疑った。
「だれが、なんて?」
『だーかーらー、昨日ラブホで行きずりの男たちとあんあんらめらめパコハメセックスしてないよねキミ、って』
なんでわざわざ卑猥な方面に言い直した。聞き間違いではなかった内容に頭が痛む。
「どこからそんな話がわいてきたんだ。そんな面倒なこと、するわけないだろう」
『うん、ボクもするはずがないってわかってはいるんだけどさ。夜中から出回ってるんだよね、キミのハメ撮り写真』
ため息を吐く。嫌がらせなのかなんなのかは知らないが、加工したり切り貼りして卑猥な画像を作り出し、ネット上にそれっぽく流出させるのは特段珍しいことではなかった。歌手として、ランキング上位常連者として名と顔が広く知れわたっている以上は仕方のないこととも理解している。
ただ、女であればともかく、男の濡れ場の加工画像にいったいなんの需要があるのか、とは思う。ジオラマにいるのはほぼ全員が女に性愛を覚える異性愛者だ。性癖がねじ曲がったり性対象が幅広くなったならともかく、同性が犯されている性交場面に興奮を覚えるか、といわれたら答えは否だろう。
『念のために聞いておくけど、昨日はなにしてた? 外に出かけた?』
「ああ、外出はした……が、スピカの店で飯を食っただけだ。まっすぐ家に帰ったし、そのあとはあんたから電話がかかってくるまで寝ていた」
記憶をなぞるうちに思い出してくる。そういえばシャワーを浴びさせたズベンはどうなった?
『じゃあちゃんと家にいるんだね?』
「ああ。ここが俺の部屋そっくりに作られたラブホじゃなければな」
『あははっ、OK! 画像はボクの方でどうにかしておくよ。相棒になめた真似をしてくれたおバカさんにはキツ~イお灸を据えなくっちゃね!』
「ほどほどにな」
『善処しまーす!』
じゃ、またあとでね! 朗らかな声がしめくくるのとほぼ同時に通話が切れた。数秒後、ヴ、と端末が震える。
送られてきたのはルクバトからの画像データだ。コメントまでついている。記念に保存したからハマルにも送っとくね♡
「なんの記念だ……」
あきれながら削除を実行する。
服を一つもまとわない全裸。さらけ出した肌にべったりとはりつく、粘り気のありそうな白濁。恍惚の表情を浮かべて男の下腹部に跨り、モザイクがかかっていない男性器を口に両手に下孔にと淫らに咥えこむハマルの姿。
加工済みとは思えないほどよくできていた。大多数がこれを見て、本物に違いないと信じそうなくらいには。
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