┌(┌^o^)┐ の箱庭

シュンコウ

文字の大きさ
上 下
7 / 40

それくらいで済んでよかったね@(まだ)健全 7

しおりを挟む


 白いマグカップの中でなみなみと満ちていた薄緑色のスープがぼんやりと浮かんだ。これだな。心あたりはあっさり見つかった。
 思い出してしまえば蜜のような甘さまでよみがえってくるようだ。口直しに水が欲しい。喉が渇いているので心底思う。
 スープを飲んですぐに寝落ちたので、睡眠薬に類ずるなにかが仕込まれていたのだろう。直前に目の下の隈を指摘されてもいる。まったく抜けない怠さが気になるが、死んでいないので毒は盛られていないはずだ。多分。

「先ほど貴方がお休みになられている間にも触れさせていただきましたが、やはり手触りがよく美しい髪ですね。思わず口づけたくなるようなこの輝き……ぜひとも私に毎日のお手入れをさせてほしいものです」

 などと思考を巡らせている間に髪を梳かれている。どこから取り出したのか、櫛で丁寧に、毛先から少しずつ。わずかでも歯に引っかからないように絡まりを解されていたため、気づくのが大分遅れた。
 勝手に触るな。にらみつけるように一瞥したが、効果はない。ハマルに見られていると気づくや、上機嫌に鼻歌まで奏でだす始末である。最近ハマルが投稿した動画の中で歌った新曲だった。
 こうなったズベンはかまえばかまうほど面倒だ。ハマルが折れてやった方が精神衛生的に楽になる。歯の浮くような世辞には鳥肌が止まらないが。
 くしけずるだけでなく、左側の一房も編みこんでいる。編み目はゆるい。こういう時、彼は下手なアレンジやこうしたいという己の欲を通さないので信頼は置ける。
 髪紐もスートジュエルもいつの間にか彼の手の中だ。もはやなにも言うまい。

「完成いたしました。いかがでしょうか」

 仕上げにスートジュエルを引っかけ、うなじを一なでしてズベンの手が離れていく。今なんで首を触った?
 鏡がないので出来栄えを見ようがない。結ったあとの違和感はないし、軽く触れてみてもいつも通りとしか思えなかった。

「悪くは……ないな」

 感想は素直に言うものである。それで相手の上機嫌が助長されることになっても、だ。
 布団とひざまで押しやられて申し訳程度に引っかかっていたブランケットをたたんで隅に置いた。たったそれだけの動作でも軽く息が上がる。本当になにを飲ませてくれたんだ、スピカは。

「エスコートはいかがですか?」

「不要だ」

 差し伸べられた手を邪魔だとはね退け、障子の手前にそろえて置かれていたブーツを履く。隣の高そうな黒の革靴はズベンのものだ。
 上から下まできっちり整った彼は、黙って立っていれば──否、ハマルにさえ関わらなければまさに優秀の具現化そのものなのに。なぜああも性格が残念なのか。腐れ縁のひいき目、からかうように世話を焼こうと手を出す言動への不快さを差し引いてなお、ハマルは彼の能力を高く評価していたりする。さすがにこれは絶対口にしないが。
 部屋を出た途端にひんやりとした冷たさがまとわりついてきて、ハマルはぶるりと身を震わせた。寒さよけの役割も持つロングコートは目覚めた時から肩にない。部屋にハンガーを吊るす場所がなかったので、スピカが別途保管しているのだろう。彼は自他問わず物の扱いにデリケートだ。かける場所がないからといって、そこらへんに放置するようなことは絶対にしない。
 廊下は左右一直線に伸びていて、閉じた障子がたがい違いにはさむよう並んでいる。どっちだ? 自分の足で部屋にたどり着いたわけではないので、どちらに向かえば正解なのか判断がつかない。
 ハマルに続いて廊下に出たズベンは、道順を知っていながらも助言を行わずに黙っている。ハマルの隣に控え、笑みをたたえて行動を見守る姿勢だ。……聞けば答えてはくれるだろうが、頼るという選択肢はない。

「……ん?」

 しゅるり。床板をこする音が左側の突きあたりから聞こえた。目を向けると、明るい緑色をした紐状のなにかがくねくねと這ってくる。
 ヘビかと思ったが、目や口、うろこはない。濃厚な草のにおい。蔓型の触手魔物だろうか。
 蔓はハマルたちから三歩分の距離を空けて止まった。そのうしろからもう一本、別の蔓が現れる。
 二本に増えた蔓の先が目線と同じ高さまで伸び上がったと思ったら、そのまままっすぐ傾いて交差した。バツ印。通行禁止、という意味だろうか。蔓はそのまま植物さながら動かなくなる。

「向こうへ進めばいいのか?」

 右側を指すと、頷くように揺れた。そうか。親切な道案内に従い、歩を進める。

「よろしいのですか?」

 揚々と半歩うしろをついてきながらズベンが楽しそうに問うた。

「もしかしたら魔物の巣に招かれているのかもしれませんよ」

「巣もなにも、ここはスピカの店……家の中だろう」

 店主スピカが得意とする属性は植物。店の周りを植物で囲っているくらいなのだから、使い魔にしている植物性魔物の一体や二体いてもおかしくはない。それに。

「こちらに害意を見せないものを、どうこうする気はない」

「……もし、害をなそうとしていたとしたら?」

 ハマルは鼻で笑った。ちらりと振り返った先で、役目は果たしたとばかりに引っこもうとしていた蔓がビクリと固まる。

「燃やして灰にするだけだ」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...