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ライゼン通りのお針子さん7 ~幸せのシンフォニア~
六章 素敵な招待状
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この日アイリスとキースの姿は木こりの森の中にあった。
衣装を受け取ったミュゥリアムからいつものごとく招待状を貰ったので二人で観に来ているのである。
「是非、キースさんと二人で観にいらして下さいって言っていたけれど」
「如何して木こりの森の中なんだろうね?」
アイリスの疑問を受け継いでキースが首を傾げながら言う。
「森の中に舞台なんてあったっけ?」
「僕よりここでの暮らしが長いアイリスが知らないんじゃ僕では分からないよ」
考える彼女へと彼も苦笑して答える。
そうこうしているうちに目的の場所が見えて来た。
「ここよね?」
「ここ……のはずだけど」
チケットに書かれている地図は確かにこの場所を示しており間違ってはいないはずと思っていると茂みが揺れる。
「「!」」
この辺りには強い魔物はいないが出ないという保証はない。その為アイリスは冷や汗を流しキースは彼女を庇うように一歩前へと出た。
「森の舞台へようこそ。今日はアイリスさんとキースさんの為の特別な時間をプレゼントいたします」
「ミュゥさん?」
茂みから飛び出して来たのはミュゥリアムで驚くアイリスに彼女がにこりと微笑む。
「アイリスさん今回も素敵な衣装をありがとございます。今日はスペシャルゲストをお呼びしております」
「「スペシャルゲスト?」」
ミュゥリアムの言葉に二人は同時に素っ頓狂な声をあげる。
すると茂みの奥からヴァイオリンの音色が聞こえてきて凛々しい指笛の音が響く。
「まさか?」
その音色に聞き覚えのあったアイリスが驚いたところで動物達がぞろぞろと茂みの奥から出て来る。
「アイリスさんこんなにも着心地が良く動きやすい衣装をどうも有難う」
「俺からもお礼を言わせてください。こんなに素敵な衣装をどうも有難う御座います」
続いて茂みから姿を現したのはティナとアシスタントの男性だった。
「さあ、スペシャルなショーの開幕です」
ミュゥリアムが声高々に言うと腕を振り上げる。
それを合図に動物達へとティナが指示を出し。男性は曲を変えてヴァイオリンを奏でる。
「とりあえず、この辺りに座ろうか」
「そうだね」
立ったままでもいいがせっかくならゆっくり座って観たいと思ったキースの言葉にアイリスも頷く。
そうして草むらに座り込んだ二人を確認するとティナが動物達へと指示を出した。彼等はミュゥリアムとティナを囲むように輪になるとその周りで踊り出す。
「私達の踊り観て下さい」
「久々にあれをみせましょうか」
ミュゥリアムの言葉にティナが言うと二人はにこりと笑い頷き合う。そうして同じ師に習ったからこそできる息の合った優雅で激しくて優しい舞を踊り始める。
それに合わせてヴァイオリンの音色も激しさを増していく。
動物達も応えるように動きを早くしたり遅くしたりと二人の踊りに合わせて動きを変える。
さながら森のコンサートといった感じだろうか。動物達と息の合った踊りをするティナにその彼女に合せて舞うミュゥリアム。背後ではアシスタントの男性がヴァイオリンを奏でている。
そうして彼女達が纏う衣装は勿論アイリスが作ったものである。それを誇らしげに見せつけるように踊る二人に演奏をする動きに合わせて燕尾服を翻す男性。
「「……」」
アイリスとキースはこの空間にすっかりのめり込み魅了され言葉を失いただただ目の前の光景を観続けた。
ヴァイオリンの演奏が終わるとミュゥリアムとティナも動きを止めた。動物達も二人の動きに合わせて誇らしげにそれぞれポーズを決める。
暫く痺れる程の静寂が辺りを包む。と言っても遠くから鳥のさえずりや動物や魔物の息遣いは聞こえて来るのであるが、まるで時が止まってしまったかのようにこの空間だけ無音に包まれたように静かになった。
「す……」
誰かの声が零れる。その後溢れんばかりの拍手をアイリスとキースは送った。
「凄いです! 私感動しました」
「こんな凄い演技僕もうずっと忘れないですよ」
二人の拍手喝采を浴びながら三人と動物達は息を合わせて綺麗にお辞儀する。
暫くなり止まない拍手に三人は嬉しそうに微笑んだ。
「今日は特別な時間をどうも有難う御座いました」
「僕も……正直何もしていないのに招待して頂いて」
アイリスの言葉に続けて申し訳なさそうな顔でキースが言う。
「お二人に喜んでもらえて私も嬉しいです」
「キースさん。そんな事気にしないでください。だってアイリスさんの彼氏さんなんですから。アイリスさんを招待するという事はつまりキースさんを招待するという事なんです」
「いや、意味わからないからな……」
ティナが微笑み言う隣でミュゥリアムがにこりと笑い話す。その言葉に男性が溜息交じりに呟いた。
「アイリスさん、この衣装本当に気に入っているのよ。それで、これをどうぞ」
「これは?」
ティナがアイリスへと何かを差し出す。それを反射的に受け取りながら不思議そうな顔をした。
「公演のチケットよ。今度はちゃんとした舞台でやるの。良かったらキースさんと二人で観にいらしてね」
「はい。有難う御座います」
にこりと笑い話す彼女へとアイリスも笑顔でお礼を述べる。
「そんな。僕は何もしてないのにいいのですか?」
「この街で知り合えた人達に来てもらえたら私はそれだけでいいの。それに……」
戸惑うキースへとティナが言うと彼の耳元で何かを囁く。途端に顔を真っ赤にして硬直する様子にアイリスは不思議そうに目を瞬いた。
「ふふっ。頑張ってね」
「ま~た。何か吹き込んだな」
ウィンクを一つ落とす彼女の様子に男性が呟くが誰の耳にも届かなかったようだ。
「ミュゥもその舞台に立つのよね」
「はい。ティナさん達の公演の後に私が踊ります。良かったら私の踊りも観ていって下さいね」
「勿論です」
ティナの言葉にミュゥリアムが答える。アイリスは笑顔で頷いた。
「それじゃあ、また劇場でね」
「はい。今日は本当に素敵な時間を有難う御座いました」
彼女の言葉にアイリスは頭を下げる。
こうして素敵な時間を過ごした二人は街まで戻り仕立て屋へと帰って行った。
衣装を受け取ったミュゥリアムからいつものごとく招待状を貰ったので二人で観に来ているのである。
「是非、キースさんと二人で観にいらして下さいって言っていたけれど」
「如何して木こりの森の中なんだろうね?」
アイリスの疑問を受け継いでキースが首を傾げながら言う。
「森の中に舞台なんてあったっけ?」
「僕よりここでの暮らしが長いアイリスが知らないんじゃ僕では分からないよ」
考える彼女へと彼も苦笑して答える。
そうこうしているうちに目的の場所が見えて来た。
「ここよね?」
「ここ……のはずだけど」
チケットに書かれている地図は確かにこの場所を示しており間違ってはいないはずと思っていると茂みが揺れる。
「「!」」
この辺りには強い魔物はいないが出ないという保証はない。その為アイリスは冷や汗を流しキースは彼女を庇うように一歩前へと出た。
「森の舞台へようこそ。今日はアイリスさんとキースさんの為の特別な時間をプレゼントいたします」
「ミュゥさん?」
茂みから飛び出して来たのはミュゥリアムで驚くアイリスに彼女がにこりと微笑む。
「アイリスさん今回も素敵な衣装をありがとございます。今日はスペシャルゲストをお呼びしております」
「「スペシャルゲスト?」」
ミュゥリアムの言葉に二人は同時に素っ頓狂な声をあげる。
すると茂みの奥からヴァイオリンの音色が聞こえてきて凛々しい指笛の音が響く。
「まさか?」
その音色に聞き覚えのあったアイリスが驚いたところで動物達がぞろぞろと茂みの奥から出て来る。
「アイリスさんこんなにも着心地が良く動きやすい衣装をどうも有難う」
「俺からもお礼を言わせてください。こんなに素敵な衣装をどうも有難う御座います」
続いて茂みから姿を現したのはティナとアシスタントの男性だった。
「さあ、スペシャルなショーの開幕です」
ミュゥリアムが声高々に言うと腕を振り上げる。
それを合図に動物達へとティナが指示を出し。男性は曲を変えてヴァイオリンを奏でる。
「とりあえず、この辺りに座ろうか」
「そうだね」
立ったままでもいいがせっかくならゆっくり座って観たいと思ったキースの言葉にアイリスも頷く。
そうして草むらに座り込んだ二人を確認するとティナが動物達へと指示を出した。彼等はミュゥリアムとティナを囲むように輪になるとその周りで踊り出す。
「私達の踊り観て下さい」
「久々にあれをみせましょうか」
ミュゥリアムの言葉にティナが言うと二人はにこりと笑い頷き合う。そうして同じ師に習ったからこそできる息の合った優雅で激しくて優しい舞を踊り始める。
それに合わせてヴァイオリンの音色も激しさを増していく。
動物達も応えるように動きを早くしたり遅くしたりと二人の踊りに合わせて動きを変える。
さながら森のコンサートといった感じだろうか。動物達と息の合った踊りをするティナにその彼女に合せて舞うミュゥリアム。背後ではアシスタントの男性がヴァイオリンを奏でている。
そうして彼女達が纏う衣装は勿論アイリスが作ったものである。それを誇らしげに見せつけるように踊る二人に演奏をする動きに合わせて燕尾服を翻す男性。
「「……」」
アイリスとキースはこの空間にすっかりのめり込み魅了され言葉を失いただただ目の前の光景を観続けた。
ヴァイオリンの演奏が終わるとミュゥリアムとティナも動きを止めた。動物達も二人の動きに合わせて誇らしげにそれぞれポーズを決める。
暫く痺れる程の静寂が辺りを包む。と言っても遠くから鳥のさえずりや動物や魔物の息遣いは聞こえて来るのであるが、まるで時が止まってしまったかのようにこの空間だけ無音に包まれたように静かになった。
「す……」
誰かの声が零れる。その後溢れんばかりの拍手をアイリスとキースは送った。
「凄いです! 私感動しました」
「こんな凄い演技僕もうずっと忘れないですよ」
二人の拍手喝采を浴びながら三人と動物達は息を合わせて綺麗にお辞儀する。
暫くなり止まない拍手に三人は嬉しそうに微笑んだ。
「今日は特別な時間をどうも有難う御座いました」
「僕も……正直何もしていないのに招待して頂いて」
アイリスの言葉に続けて申し訳なさそうな顔でキースが言う。
「お二人に喜んでもらえて私も嬉しいです」
「キースさん。そんな事気にしないでください。だってアイリスさんの彼氏さんなんですから。アイリスさんを招待するという事はつまりキースさんを招待するという事なんです」
「いや、意味わからないからな……」
ティナが微笑み言う隣でミュゥリアムがにこりと笑い話す。その言葉に男性が溜息交じりに呟いた。
「アイリスさん、この衣装本当に気に入っているのよ。それで、これをどうぞ」
「これは?」
ティナがアイリスへと何かを差し出す。それを反射的に受け取りながら不思議そうな顔をした。
「公演のチケットよ。今度はちゃんとした舞台でやるの。良かったらキースさんと二人で観にいらしてね」
「はい。有難う御座います」
にこりと笑い話す彼女へとアイリスも笑顔でお礼を述べる。
「そんな。僕は何もしてないのにいいのですか?」
「この街で知り合えた人達に来てもらえたら私はそれだけでいいの。それに……」
戸惑うキースへとティナが言うと彼の耳元で何かを囁く。途端に顔を真っ赤にして硬直する様子にアイリスは不思議そうに目を瞬いた。
「ふふっ。頑張ってね」
「ま~た。何か吹き込んだな」
ウィンクを一つ落とす彼女の様子に男性が呟くが誰の耳にも届かなかったようだ。
「ミュゥもその舞台に立つのよね」
「はい。ティナさん達の公演の後に私が踊ります。良かったら私の踊りも観ていって下さいね」
「勿論です」
ティナの言葉にミュゥリアムが答える。アイリスは笑顔で頷いた。
「それじゃあ、また劇場でね」
「はい。今日は本当に素敵な時間を有難う御座いました」
彼女の言葉にアイリスは頭を下げる。
こうして素敵な時間を過ごした二人は街まで戻り仕立て屋へと帰って行った。
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