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ライゼン通りのお針子さん5 ~店長就任以来の危機? 波乱を呼ぶ手紙~

六章 ジャスティンからの依頼

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 春も終り季節は夏に移り変わろうとしていた梅雨の月のある日。

「失礼する」

「いらっしゃいませ。あ、ジャスティンさん。如何されたのですか?」

相変わらず堅苦しい雰囲気のジャスティンがやって来るとアイリスはそちらに近寄った。

「あぁ、実は遺跡の調査に赴く事になってな。それで危険があるかもしれないので君の仕立ての腕を見込んで隊服を十五着と探検家の人達の服を十着作ってもらいたいと思ってきたのだ」

「遺跡の調査ですか。騎士団って本当に何でもやるのですね」

「国王の側近の第一部隊隊長レイヴィン殿の推薦で特別に我が部隊も供にすることになったのだ。普段は特殊部隊の務めだからな」

彼の言葉に彼女は驚く。それにジャスティンが淡泊に答えた。

「そうだったのですね。分かりました。皆さんの命を守る隊服と探検家の服承りました」

「よろしく頼む。期日は特に決めていないが三週間後には取りに来る」

「はい」

「では、失礼する」

ジャスティンとのやり取りを終えるとイクトの方へと顔を向ける。

「一気に沢山の服を作らないと行けなくなったね。俺も手伝うから一緒に頑張ろう」

「はい」

彼の言葉にアイリスは頷く。そうして二人で作業部屋へとやって来るとアイリスはデッサン画を書きあげる。

「長けと袖を短めにした動きやすくぴったりとフィットするコーティーに白地で無地のアイビー・シャツそれから伸縮自在なチノパンっと騎士団の服はこれで大丈夫ですよね」

「うん。良いと思うよ」

「それではこれで服を仕立てていきますね」

イクトに尋ねると同意を得れたのでこれで服を仕立てていく。

「ふぅ。意外と時間がかかりそうですね」

「百着の服を一週間で作り上げたアイリスならやれるよ。期日までまだ時間はあるからゆっくりやっていけばいいよ」

「そうですね」

騎士団の隊員の型紙全てを机の上へと置くとそれぞれの型に合わせて布を当てて裁断していくのだが以外に硬い布の為切るのに苦戦する。

ぼやくアイリスへとイクトが優しく励ました。

そうして作業を続けながら時折お店の様子を見たりしてこの日は仕事を終えた。

「さあ、今日も頑張って作るわよ」

「俺は店番をしているから手伝って欲しい事があったら呼ぶんだよ」

「はい」

この日イクトは午前中は店の方を見て午後はアイリスの手伝いをするという感じで予定を組んでくれたようである。

アイリスはいつも助けてくれる彼に感謝しながら作業部屋で自分の仕事と向き合う。

「騎士団の服はこれで最後っと……さあ、次は探検家の服ね」

「お疲れアイリス。お昼休憩にしようか」

お日様が高く上った正午頃服を仕立てていたアイリスは最後の隊服を縫い上げ一区切りつく。そこにタイミングよくイクトがやって来た。

「お腹すいているみたいだな」

「は、はい」

話を聞いた途端彼女のお腹が小さく鳴いて返事をする様子に小さく笑い彼が言う。

アイリスは恥ずかしくて頬を赤らめながら椅子から立ち上がり簡易台所へと向かった。

「午後はアイリスの手伝いをするから一緒に頑張ろうね」

「有難う御座います。次は探検家の人達の服を仕立てます。探検家なので動きやすくて機能的な服が良いかなと思うのでウェスタン・シャツとウェーダーかサロペットにしようかと思っているんです」

「うん。動きやすくて作業がしやすい良い組み合わせだと思うよ」

「では、これで作っていきます」

ご飯を食べながら仕事の話をするアイリスをいつも優しく見守るイクト。

熱心に語る彼女の言葉を嫌がらず何時も聞いてくれる彼との昼食の時間はアイリスにとって何よりも掛け替えのない時間であった。

「さあ、やるぞ」

「頑張りすぎないようにね」

昼休憩を終えて作業部屋へとやって来たアイリスは意気込む。その様子にイクトがやんわり忠告した。

「型紙は如何しましょう」

「それならこれを使うと良い」

「これは?」

彼が棚の上から取り出したのは大きな型紙と中くらいの型紙の二種類。それに不思議そうな顔で彼女は見詰める。

「お客様の身体のサイズが分らない時に使う型紙で、大体男性の平均身長で作られている。探検家の人は男性だけとは限らないから女性もいるだろうけれど。その場合にこの中くらいの型紙を使って作るんだ」

「こんな便利なものがあったんですね」

「先代が使っていた物だよ。お客さんの中には寸法を測れない人もいたから。そういう時にこれが活躍したんだ」

イクトの説明を聞いてアイリスは型紙を見詰めながら呟く。それに彼が微笑み答えた。

「さあ、早速これを使って布を当てて行こう」

「はい」

裁断する為に布を選び仕立て上げていく。そうして服を作り気が付いたら夜の帳が降り始めていてこの日は作業を終了した。

「出来た……」

「お疲れアイリス。よく頑張ったね」

一週間後アイリスは最後の服を縫い上げて達成感に浸る。その様子を優しく見つめながらイクトが労った。

「この服。気に入って頂けると良いですが」

「きっと気に入ってもらえるよ」

出来上がった服の山を見やり不安そうに呟く彼女へと彼が優しく声をかける。

それからジャスティンがお店に服を取りに来たのは期日だといった三週間後の事だった。

「失礼する。例の依頼の品出来上がっているだろうか」

「はい。こちらになります」

彼の言葉に袋に詰めた服を持って行く。

「有難う。ではこれを頂いて行く」

「中を確認しなくて大丈夫ですか?」

すぐに会計を済ませ持って帰ろうとするジャスティンへとアイリスは尋ねた。

「君が作ってくれた服に間違いはない。まぁ、着て見てダメだったら返すが、その心配はないと思っている」

「凄い自信……そんなに信頼されると逆に心配になります」

「アイリスとの付き合いも長いからな。長年の経験上大丈夫だと分かるようになったのだ。だから心配するな」

彼の言葉に彼女は不安で顔を曇らす。その様子ににこりと笑いジャスティンが話す。

それから後日素晴らしい服を仕立ててくれて有難うと感謝の言葉を貰ったそうである。
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