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第三章 遊び人との出会い

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 都へと向けて旅を続ける一行。境の町へと向けて森の中を歩いていた。

「この辺りで休憩にしましょう」

「そうだな。山越えで疲れてるだろうから少し休んだ方がいい」

神子の顔を見ていた文彦がそう提案すると伸介も同意して荷を下ろす。

「私は危険がないか調べてくる。お前達は神子様の護衛を頼むぞ」

「貴様誰に物を言っている。弥三郎様に命令など許さん」

隼人の言葉に亜人が苛立った顔で言い放つ。

「亜人。ぼく達は今神子様の旅の同行者なんだから、そういうことは言わないの。神子様の身を守ることがぼく達の役目なんだから」

「はい。それは分かってはおりますが、ですが弥三郎様に命令なんて許すことはできません」

それをやんわり止めるように弥三郎が言うが彼がそれでも許せないと言い張る。

「相変わらず面倒な奴だな……では命令ではなくお願いなら聞いてくれるのか」

「弥三郎様は由緒正しき領家の跡取り息子様であられる。そんな弥三郎様にお願いだろうが何だろうが指図すること自体許せない行為だ」

溜息交じりに隼人が尋ねると亜人が不機嫌そうな顔でそう答えた。

「ここは神子様に任せる」

「え、えっと……私からもお願いします。皆さんの言うこともちゃんと聞いてください」

「はい。神子様がそうおっしゃるのであれば承知いたしました」

やり取りするのも面倒になったのか彼がそうお願いすると、話しを振られた神子は苦笑しながら頼んだ。それを聞いた亜人が敬礼して一つ返事で答える。

「……では、少しここを離れるからな」

「こんなんでちゃんと旅なんかできるのかよ」

「ま、まあ。おいおい仲良くなっていけば宜しいのでは」

溜息交じりに隼人が言うと足早にその場を立ち去る。様子を見守っていた伸介が愚痴ると文彦が苦笑しながら答えた。

「弥三郎様、神子様お疲れではございませんか? こちらにお茶をご用意致しております」

「有難う亜人。亜人もちゃんと休んでね」

「何時の間に……亜人さんて何でもこなしちゃうんですね」

いつの間にか敷物を敷いてお茶の準備をしていた亜人が二人へと声をかける。

それにいつものことで慣れている弥三郎が礼を述べて敷物の上へと座った。神子は驚いたがその早業に感心して褒める。

「弥三郎様にお仕えしだしてから何でもこなせるようにと努めてまいりましたので」

「そうなのですね。あれ? でも亜人さんて護衛兵さんですよね。護衛兵さんってこういうこともするのですか」

「多分亜人だけだと思うよ」

嬉しそうに微笑み話す彼の言葉に彼女は不思議に思い尋ねた。それに弥三郎が苦笑して答える。

「神子様。おくつろいでいらっしゃるところ大変に失礼いたします。本日の検診のお時間です。これから町へと向かうので体調を診させて頂きます」

「はい。お願いします」

そっと近寄って来た文彦が声をかけると神子はお茶の入った湯飲みを置くと袖をあげて脈を診てもらう。

「脈は少し早いようですが、休憩すれば落ち着くと思いますので、一時間ほどこちらで休憩したのちに旅を再開しましょう。それにしても検診にもだいぶ慣れてきたようですね」

「そうですね。毎日行っていたら慣れてきたようです」

文彦がそう話すと彼女は笑顔で答える。それに彼も微笑むと次に体に異常がないかを調べ始めた。

「あ、足にまめができてしまってますね。神子様お薬を塗っておきますね」

「有難う御座います」

「……」

下駄を脱がせて診た足には長旅によりできてしまったまめが幾つもできていてい、これ以上無理をし続けるとつぶれて痛みが出るといった感じになっていて、それに気づいた文彦が薬草箱から薬草を取り出して薬を作ると足の裏へと塗る。それに礼を述べる神子の様子を伸介は何事か考える様子で見つめていた。

「この辺りには特に危険はないようだが、向こうの方で魔物の姿を見かけた。どうやらこの周辺は魔物が生息しているようだ」

「荒魂よりも厄介な存在だよね。悪鬼の姿はなかった?」

暫く周辺の様子を確認しに離れていた隼人が戻って来ると厳しい顔をしてそう告げる。それに弥三郎も険しい顔になり尋ねた。

「今のところ確認できなかった。だが魔物がいるという事は悪鬼もいる可能性はある。神子様の身を守る為に皆気を引き締めて旅を続けるようにしないとな」

「お前も俺達の側からあんまり離れるなよ」

「はい。皆さんに迷惑をかけないようしっかりとついていきます」

彼がそれに答えるように話すと伸介が神子へと言葉をかける。彼女はそれに返事をすると手に持つ弓矢を握りしめた。

「そう言えばその弓矢、いつの間にか持ち歩くようになったけど、それどうしたんだ?」

「実は治癒術が使えるようになった夜に破魔矢が輝き弓矢が出現したんです。これを使って荒魂や悪鬼や魔物を倒せって事なんだと思います」

「つまり悪しき存在を射貫くために、その弓矢で戦って力をつけろという神様からのお達しなのですね」

伸介がそれに疑問を抱き尋ねると神子は弓矢を見詰めて説明する。それを聞いた文彦が納得した様子で話す。

「悪しき存在をこの矢で射貫くこと。それが神子の役目なのならば、この弓矢を扱えるようにならなくてはならない。だからこの弓矢が私の前へと出現したのだと思います」

「神子様も戦わねばならぬとは……この信託の旅はそれほどまでに重い使命を受けているのですね」

彼女の言葉に亜人が考え深げな顔で呟く。

「今までは何もできなかった。ですがこうして弓矢を頂いた。ですからこれからは私も皆様と共に戦います。怪我をした時は治癒することもできます。ですから私も共に戦わせてください」

「それが神子様のやらなくてはならない事なのであれば、私達に止める権利などはない。ですが神子様。共に戦うことに異議は唱えませんが、危険だと思ったら身を引いてください。貴女の安全が第一なのだから」

「はい」

揺るぎない固い決意を示す神子へと隼人が了承するのと共に忠言する。それに大きく頷くと嬉しそうに微笑む。

「戦うことが神子の使命か……お前が戦うって言うんなら止めやしない。だけど絶対に俺達の後ろから前へと出るなよ。その弓だって扱えるようになるのに時間がかかるだろうからな。訓練が必要だ。俺が教えてやるからしっかり覚えろよ」

「伸介さん。有難う御座います」

伸介の言葉に彼女はとても嬉しそうに微笑み礼を述べる。こうして旅を続けながら弓矢の技術を覚えていく事となった。

そうして一行がやってきたのは港町。ここでは漁業が盛んのため各地から人が訪れ賑わいを見せていた。

「凄くにぎやかな町ですね。私海初めてみました」

「交易が盛んにおこなわれているので賑わいを見せているのでしょう」

華やいだ町の様子に興味津々の神子へと文彦が微笑み答える。

「海なんか興奮するようなもんでもないさ。ただの大きな湖みたいなものだからな」

「湖ってこの前見たあの大きな水たまりの事ですよね? 海も湖みたいな感じなのですか」

伸介がおかしそうに笑うとそう話す。その言葉に山越えする時に見た大きな湖の事を思い浮かべながら神子が尋ねる。

「伸介の話はまともな答えになってないから、真に受けてはならない。実際の湖と海とでは意味が違ってきます」

「勉強ができる奴等とおれ達庶民を一緒にすんなよ。そんなもん塩水か水かの違いなだけで、大きな湖も海も似たようなもんだろ」

溜息交じりに隼人が訂正すると彼が不機嫌そうに言い返した。

「湖は淡水で海は海水。川の水は淡水か軟水。それか炭酸水に分かれていて、一般的に飲み水として飲めるけど、海水は塩分を多く含んでいるため飲み水としては飲めない。つまり湖と海とでは大きく異なっていて――」

「もういい。頭痛くなってきた……」

その様子に弥三郎が湖と海との違いについてを説明しだすが伸介が頭を抱えてそうぼやく。

「弥三郎さんはいろんなことに詳しいんですね」

「領家の跡取り息子として小さいころから先生をつけられて勉強の毎日だったからね。おかげである程度の知識は覚えてるんだ」

感心する神子へと照れ臭そうに笑いながら彼が答えた。

そんなやりとりをしながら宿屋へと向けて歩いていると前方から着物を着崩し、キセルを加えた顔立ちの整った男が歩いてくる。

「おっと……んん?」

「な、何でしょうか」

そのまますれ違っていくのかと思ったが、男が立ち止まり神子の顔をまじまじと見てきて、彼女はたじろぎながら尋ねた。

「あんたが神子さん? ふ~ん……思っていたよりかわいいじゃん。なんなら俺と遊ばない?」

「え?」

満面の笑顔で言われた言葉に彼女は目を瞬き驚く。

「あんたいきなり何言ってるんだ」

「昼間っから女人を誘うとはなんと破廉恥な」

怒りに身を震わせながら伸介が叫ぶと、文彦も頬を赤らめそう言った。

「貴様神子様から離れろ! でなければ今すぐ斬り伏せてやる」

「亜人いきなり斬りかかっちゃだめだよ」

今にも斬りかからん勢いの亜人を抑え込み弥三郎が諭すように声をかける。

「貴様……見たところ遊び人の様だが、神子様に対していきなり無礼でではないか」

「おっと、これは失礼。この町には博打をしに来てたんだが……まさか今世間を騒がせている神子さんにお会いできるなんて思わなくてね。しかも噂以上にかわいこちゃんでつい声をかけちまった。俺の名は喜一ってんだ。見ての通りの自由気ままな気楽な遊び人さ。ねえ、ねえ。神子さん達は悪しき存在を倒すための旅をしてるんだろ。そんな面白そうな事あんたらだけでやるなんてずるいぜ。俺も一緒についていきたい」

隼人の言葉ににこりと笑い反省の色などみじんも感じない態度でそう話してきた。

「さっきから黙って聞いてれば……貴様の様な下劣な輩を神子様の側に置いておくとでも思うのか。神子様と弥三郎様の手前。先ほどの無礼は目をつぶってやるからさっさと目の前から消え失せろ」

「奇遇だな。俺もこんな奴仲間に入れる気はない。ただでさえ面倒な奴等が一緒にいるってのに、これ以上問題起こしそうな奴を増やしたくはないからな」

亜人が苛立ちで低くなった声でそう告げると伸介も同感だといった感じで言う。

「こんな遊び人の言葉など聞くことはありません。さっさと宿屋へと向かいましょう」

「え、は、はい……」

亜人の言葉に神子は戸惑いながらも返事をすると一行は歩き出す。

「ねー、ねー。神子さんいいだろ? こう見えても俺も戦えるんだ。あんたの身を守るくらいどうってことないさ。ってことでよろしく」

「だから、貴様を仲間に入れる気はみじんもない」

「勝手についてくんな。さっさと目の前から消えろ」

歩き出した彼女等の横について歩きながらにこやかな笑顔で頼むと勝手に仲間入りする喜一。そんな彼へと睨み付けると亜人と伸介が怒鳴る。

「このまま勝手についてきてしまいそうな勢いですね」

「放っておけばそのうち諦めてくれるんじゃない」

「う~ん……」

文彦の言葉に弥三郎が溜息交じりに答える。怒鳴りつける二人に勝手についてくる男。騒ぎの中心になっているせいか町行く人々がちらちらとこちらを見てくる。その様子に神子は困りどうしたものかと考えあぐねて溜息を零した。

結局喜一は勝手に付きまとってきて宿屋まで一緒に入って来る。翌朝目を覚ますと姿が見えなくなっていたのであきらめたものだと思いほっとして神子達は旅を再開した。

「おはよう神子さん。とその他お付きの皆さん」

「どうしてお前がここにいるんだよ」

町を出ようとするとその出入り口の前では荷物を抱えた喜一の姿があり笑顔で挨拶してくる。その様子に伸介が睨みやり尋ねた。

「どうしてって、俺も一緒に旅に同行するって昨日言っただろ。その為にいろいろと準備してここで神子さん達が来るのを待っていたのさ」

「貴様を同行させることに許可をした覚えはないが」

にやりと笑い言われた言葉に亜人が眉を跳ね上げ怒る。

「そんなの許可なんか必要ないさ。俺がついていくって決めたんだから、俺の勝手だろ。だから反対されようが何しようが俺が決めた事にあんた等の許しなんか必要ない。ってことで都まで行くんだろ? こう見えて俺顔が広くってね。都に悪しき存在の行方を知っているかもしれないやつがいるんだ。そいつのところまで案内してやるよ」

「だから勝手に……ちょっと待て。今なんつった?」

それに喜一が答えるとにこりと笑い話す。その言葉に伸介が驚いて聞き返した。

「だからあんた等からの許しなんか必要ないって――」

「そこじゃなくて、都に悪しき存在の行方をしているかもしれない人がいるってことですよ」

彼が聞かれたので答えるが聞きたいのはそこではないと神子が首を振って説明する。

「ああ、都のお城に仕えている俺の知り合いが預言書を読み解いたり未来を見る力とかがあってな。だからそいつなら悪しき存在の行方を知ってるかもしれないって思って。どうだ、興味がわいて来ただろ? 俺と一緒なら城の中で働いているそいつに直接会わせてあげられるぜ」

「喜一さん、お願いします。その人の所に連れていって下さい」

喜一が笑顔で答えると彼女はお願いして頭を下げた。

「お、神子さんいい返事だね。よっしゃ。そんじゃ都へと向けて張り切って旅をしようぜ」

「……おかしな奴が仲間になったもんだぜ」

「ですが喜一さんのおかげで、この旅の目的が少し見えてきたのではないでしょうか」

嬉しそうに笑顔になる彼の様子に伸介が小声で愚痴る。それを聞き拾った文彦が苦笑しながら言う。

「ま、たしかにその通りではあるが……」

「ん、どうしたの。難しい顔して。あの遊び人さんに見覚えでも?」

まじまじと喜一の顔を見詰めて呟く隼人の様子に弥三郎が気付き声をかけた。

「いや、どこかで会ったことがある顔だと思ったのだが、思い出せなくてな。なあ、喜一殿。私とお前、どこかで会ったことがあったか?」

「……さあ。俺は自由気ままな遊び人だからな。お城に仕えているあんたと出会った事なんかなかったと思うぜ。それともなに? 俺の顔そんなに有名なの。いや~有名人だなんて困るな~」

独り言を言うように呟くと彼へと問いかける。喜一がそれに答えると途端におちゃらけた調子で笑顔になる。

「……やはり勘違いだ。貴様のような遊び人知り合いにはいないからな」

「おいおい。冷たいじゃないか。つうかなんで睨むんだよ」

その言動に睨み付ける隼人へと彼が慌てて尋ねた。

「意味はない。貴様の顔を見ていると腹が立つだけだ。気にするな」

「はは~ん。あんた頭が固い真面目君なんだ。そんな眉間にしわなんか寄せちゃって、そんな顔してると女の子から嫌われるぞ。もっと俺みたいに笑顔で自由にだな――」

「あいにくと貴様の様に楽観的な性格はしていないのでな。それに貴様と違い私は使命を帯びてこの旅に同行している。神子様の身を守り悪しき存在を倒すまで気を抜けないのでな」

ムッとした顔で睨んでくる彼へともっと気楽に生きろと話す喜一の言葉を遮り隼人が語る。

「つまんないね。あんたつまんない性格してるよ。もっと砕けりゃいいのに……」

「でも最初のころと比べたらよく話をしてくださるようになったのですよ」

困った様子で彼が言うと神子がでもといった感じに話す。

「そうだな。任務遂行以外に割く時間はないとかなんとか堅物みたいな言葉言ってたっけ」

「必要最低限のこと以外話さない方でしたからね。今ではこうやっていろいろと話に付き合ってくださるようになりましたから」

それに同感だといった感じで伸介と文彦も口を開くと彼の顔を見やった。

「神子様達と一緒にいると私の心が乱されるからな。おかげで今ではすっかり神子様の速度に足並みをそろえてしまった」

「す、すみません。心を乱しているなんて思わなくて……」

それに真面目に回答する隼人の言葉に神子は慌てて謝る。

「いや、神子様達に振り回されるのも慣れてしまった。けっして嫌なわけではない」

「ふーん。あんた変わったんだ。……今の話を聞いていて余計に神子さんに興味わいちゃったな」

その様子に微笑して答えた彼を見詰めて喜一が独り言を呟くとにやりと笑った。

「貴様これ以上神子様に近づいたら斬る。参里先まで離れろ」

「ちょ、さすがにそれは遠すぎ! せめて参尺にして!」

神子に近寄った彼の間に亜人が割って入ると刀を突き付けそう言い放つ。それに慌てて手を振りながら喜一が抗議の声をあげた。

「それだと近すぎる。もっと離れろ」

「あんたら鬼か? 酷いだろ……」

それに伸介も離れろと言い放つと彼が冷や汗を流して喚く。

「ま、まあ。これから一緒に旅をする仲間なんですから、仲良くしてくださいね」

「……神子様がそうおっしゃるなら」

「お前が言うなら仕方ねえな」

神子の言葉に納得はしてないが引き下がる二人。新たに喜一が仲間に加わりさらにまとまりのない一行となった彼等の旅は続く。
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