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ライゼン通りの錬金術師さん3 ~限界への挑戦~

五章 ハンスの力

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 翌朝、朝食を食べ終えたソフィアとポルトは待ち合わせ場所である噴水広場へと向かう。

「久しぶりに街の外に行くからおいら楽しみだ」

「はしゃぎすぎて転んだりしないようにね」

昨夜から遠足に行く子どものようにはしゃいでいたポルトの言葉に彼女は小さく笑い注意する。

「転ばないよ。おいらもう大人だよ」

「ふふ、そうね」

不服気に頬を膨らませて抗議するその姿は全く大人には見えないがソフィアは小さく頷くだけに留めた。

「この辺りで待ち合わせなんだよね」

「お~い。ソフィー、ポルト」

「お早う御座いますソフィー、ポルト君」

ポルトが言うのとほぼ同時に二人の声が聞こえてくる。

「レイヴィンさん、ハンスさんお早う御座います」

「おはよう。ってかハンスも一緒なんて聞いていないが」

二人の姿を見ると笑顔で声をかけるソフィアにレイヴィンが言う。

「ごめんなさいね、昨日の夜急に決まったものだから」

「私が一緒に行くことに不満でもあるのですか?」

「別に不満なんてないさ。さぁ、皆で仲良く張り切って行こう」

申し訳なさそうに謝る彼女と睨み付けるハンス。二人へとにこりと笑うと隊長が答え先を促した。

こうして街を出た一行は採取地であるサラル平原へとやって来る。

「ここなら錬金術に使える色々な素材があるのでここで集めましょう」

「それじゃあ、手分けして作業開始だね」

ソフィアの言葉にポルトが籠を用意しながら言う。

「俺は危険がないか見て回って来るから三人は採取してていいぞ」

「それでは、見張りは隊長に任せて私達は皆で仲良く採取しましょう」

レイヴィンの言葉にハンスが言うと彼を残し平原中に生えている植物の中から錬金術に使えそうな素材を集めて行く。

「皆お疲れ様。少し休憩しましょう」

「見て見てお姉さん。おいらこんなに一杯拾ったよ」

「私も頑張りましたよ」

お日様が天辺に上る頃にソフィアが声をかけると二人が籠の中の物を見せながら説明する。

「ポルトもハンスさんも有難う。さぁ、お昼休憩しましょう。レイヴィンさんも一緒に」

「ソフィーの手料理を食べ損ねるのはもったいないからな。俺もそっちに……っ!」

「隊長如何したの?」

ソフィアがレイヴィンを呼ぶと話しながら近づいてきていた彼が警戒した顔になった。

その様子にポルトが不思議そうに尋ねる。

「皆俺が合図したらそこから一斉に飛び退くんだ」

「え?」

険しい顔のままの隊長の言葉にソフィアは目を丸める。

「いいから、言う通りにしてくれ」

「わ、分った」

レイヴィンの迫力にポルトが生唾を飲み込みながら答えた。

「一、二、三……今だ!」

「「「っ」」」

隊長の声に三人は訳も分からないままそこを飛び退く。すると同時にさっきまで座っていた場所の木が真っ二つに割れて倒れた。

「な、何?」

「この辺り一帯に生息している雷鳴ウルフだ。奴等は遠くから雷を落として敵を倒す。もうすぐ本体がやってくるぜ」

急に倒れた木を見て呆気にとられるソフィアへとレイヴィンが説明しながら鞘から剣を抜き放ち構える。

「グルルルル」

「グゥゥウ」

「ウォ~ン!!」

現れたのは額に角が突き出た狼の姿をした魔物だった。

「雷鳴ウルフの群れだ。ソフィー、ポルト、ハンス俺の後ろに」

「は、はい」

「うん」

隊長の言葉に素直に従うソフィアとポルト。しかしここで動かない人物が一人。

「ふっふっふ。いよいよ私の力を試す時が来ましたね」

「ハンス何している。早く離れろ」

ズレてもいないモノクルをくいっとあげながら不敵に微笑むハンス。レイヴィンが離れろというが聞く耳を持たない。

「いいえ、ここは私にお任せください。隊長こそそこで見ていてくださいよ」

「はぁ? 一体何を……」

自信満々に雷鳴ウルフの群れの前へと立ちはだかり言い放つ言葉に隊長が意味が分からないと言った感じに呟く。

「まぁ、見ていてください。これが私の新しい力。はぁ~っ。食らいなさい」

「「「っ!?」」」

ハンスが言うと素早い動きで三体の魔物へと拳を打ち付ける。その様子にソフィア達は目を見開き驚く。

「グゥゥ」

「ギャア」

「キュゥ~」

「見て、雷鳴ウルフ達が」

短い悲鳴をあげて倒れていく雷鳴ウルフ達の様子にポルトが声を張る。

「ふふっ。如何です? これが私の新しい力です」

「す、凄いやハンス。おいらあんたの事見直しちゃった」

「ハンスさん凄いです。あっという間に三体も倒しちゃうなんて」

ズレてもいないモノクルを持ち上げて不敵に微笑む彼の様子にそちらへと駆け寄りポルトとソフィアが凄いと褒めた。

「ソフィー、ポルト君。私がいれば大丈夫です。これからも頼りにして頂いていいですよ」

「おぉ~。カッコイイ!!」

「えぇ、お願いするわ」

「……」

不敵に微笑んだままのハンスの言葉に二人がはやしたてる。そんな三人の様子を遠くから眺めながらレイヴィンが考え深げな顔で眉を寄せた。

「さあ、雷鳴ウルフの襲撃で遅くなってしまったけれどお昼ご飯を食べましょう」

「おいらお腹すいちゃった」

「えぇ、頂きます」

ソフィアが両手を叩き言うとポルトとハンスが反応する。

「レイヴィンさんもこちらに」

「隊長如何したの? 早く来ないと全部食べちゃうよ」

「今行くよ」

近くにいないレイヴィンの様子に気付いた彼女が言うとポルトがサンドウィッチを口に入れながら話す。笑顔になったレイヴィンが答えると皆の下へと向かって行った。

そうしてお昼ご飯を食べ終えると再び素材集めを開始する。

「皆有難う。これだけあればもう大丈夫よ」

「途中で熊や魔物に邪魔された時はどうなるかと思ったけどハンスのおかげで助かったよ」

「ふふふっ。このハンス。もう今までの非力なハンスではありません。大船に乗ったつもりで安心ください」

籠の中一杯に素材を集めたソフィアは言う。するとポルトがハンスを見やり話した。

彼が自信満々に答えモノクルをグイっとあげる。

「レイヴィンさんも見張りをしてくれて有り難う」

「いや、今回俺は何もできなかったな」

彼女の言葉にレイヴィンが苦笑して答えた。

「今回はハンスに持ってかれたもんね。あ~これってハンスの株があがっちゃうのかな? 隊長も頑張れ~」

「ポルトに励まされるなんて情けないな。だが、皆怪我もなく無事に終えれて良かったよ」

ポルトの言葉にレイヴィンが言うと小さく笑う。

「ふふふっ。私が力をつけたので焦っているのでしょう。分かりますよ。いままで何もできなかった人が急に実力がついたのですからね」

「今回はハンスに花を持たせてやるよ。さぁ、暗くなってくる前に野営の準備をしよう」

ライバルより上に立った者の顔で悦に入るハンスへと隊長が答え野営の準備に取り掛かかりソフィア達は体を休めた。
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