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ライゼン通りの錬金術師さん3 ~限界への挑戦~

三章 日常

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 長年研究を続け追い求めていた万能薬が完成した翌日。工房の扉が開かれお客がやって来る。

「こんにちは。ソフィーいるかしら?」

「あら、リーナさん。いらっしゃい」

「リーナ今日は如何したの?」

中年になっても美しく時の数だけ歳を重ねたリーナが入って来ると二人はそちらへと近寄った。

「聞いたわよ。ついに完成したんですってね。ずっと頑張っていたものね、おめでとう」

「有難う御座います」

笑顔で言われた言葉の意味に気付いたソフィアは嬉しそうに微笑む。

「もうリーナの耳にも入ったの?」

「えぇ。街中で噂になっているのよ。出所はハンスとレオ様かしら」

「ハンスさんと国王様が……そう」

ポルトの問いかけに彼女が答えるとソフィアは苦笑する。

「ハンスったら貴女の作った万能薬を世界に広めるんだって、商人の伝手を使って頑張ってるみたい」

「ハンスさんが」

「ハンスってばソフィーの事となると何でもやるよね。でも良かったね。商人の伝手だろ。そうなれば世界中にお姉さんの作ったミラの水が早く広まると思うよ」

リーナの言葉に彼女は目を丸くした。するとポルトがにこりと笑い話す。

「それでね、今日は貴女に依頼を頼みたくて。最近私も年をとったからかそこらじゅうが痛くてね。それで肩こりや腰痛に効く薬をお願いしに来たのよ」

「肩こりや腰痛に効く薬ね。分かったわ。今は在庫が切れているから明日取りにきてくれるかしら」

「えぇ。お願いね」

やり取りを終えるとお客がお店を出ていく。ソフィアは素材のチェックに入った。

「やっぱり今あるだけでは足りないみたいね」

「ローリエとユリアのお店にいくらなおいらがおつかいに行くよ」

素材のチェックを終えると呟く。その言葉にポルトが声をかけて来た。

「他にも買いたい物があるから私が行くわ。ポルトはお留守番お願いね」

「分かった。それじゃあソフィーが帰って来るまでに錬金術の準備をして待ってるよ」

ソフィアの言葉に彼が頷く。こうしてお店をポルトに任せて彼女は買い物へと出かけた。

「こんにちは」

「あっ、ソフィーさんいらっしゃいませ。本日は如何されましたか?」

ローリエのお店へとやって来るとソフィアに気付いた彼女が笑顔で出迎える。

「錬金術に使う素材の在庫が無くなってね。買いに来たのよ」

「そうですか。それでは用意いたしますので何が必要なのか教えてください」

「えぇ。薬草を十束とククルの花を五本。それからこれとこれとこれも」

彼女の言葉にローリエが尋ねるとメニュー表を見ながらソフィアが頼む。

「畏まりました。お包み致しますのでお待ちください」

全ての注文を聞き終えた彼女が商品を包む。

「お待たせいたしました。それよりソフィーさん聞きましたよ。例の万能薬ついに完成したんですよね。凄いです」

「有難う。ローリエのお店にもいろいろとお世話になったわね」

品物を差し出しながらローリエが言うと彼女は笑顔で頷く。

「いいえ、お手伝いが出来て嬉しいんです。それから、また街の外に行く時には私も連れて行って下さいね」

「えぇ、勿論よ。今度お願いするわね」

にこりと笑い彼女が言うとソフィアも分かっているといいたげに答えた。

「約束ですよ。それでは、またのご贔屓お待ちいたしております」

こうしてお店を後にした彼女は続けて教会へと向かう。

「こんにちは」

「ようこそいらっしゃいました。あら、ソフィーさん。本日はどのような御用でしょうか」

教会の奥にあるお店へと向かうとソフィアに気付いたユリアが微笑む。

「また錬金術に使う素材を買いに来たの」

「ふふ。何時も何時もお仕事お疲れ様です。それで、本日は何をお求めですか?」

「女神の像を十体とお守りのペンダント三個、それから聖水を五瓶。あとこれとこれとこれも」

「畏まりました。お包み致しますので少々お待ちください」

またまたメニュー表を見ながらソフィアが注文すると彼女が頷き品物を包む。

「ソフィーさんお話をお聞きしましたよ。ついに万能薬が完成したとか。おめでとうございます」

「有難う。ユリアのお店にも何度も助けられたわ」

商品を渡しながらユリアが言う。その言葉に彼女は有り難いといいたげに頭を下げた。

「いいえ、わたしは神の御心のままにお手伝いしただけにすぎません。本当に凄いのは遣り遂げたソフィーさんですよ」

「ふふ。ユリアらしいわね」

微笑み語る彼女へとソフィアはおかしそうに笑う。

「そうだ、最近体がなまってきているんです。また街の外に行くときはお誘いくださいね」

「えぇ。まさかユリアがこんなに強くなるとは思ってもみなかったわ。ゴースト系の魔物を払っちゃうんですもの。またそういう場所に行く時にはお願いするわね」

「えぇ、楽しみにお待ちいたしておりますよ」

ユリアの話を聞いて彼女は小さく頷き了承する。彼女は楽しみだと言わんばかりに微笑んだ。

「それではまたのご利用お待ちいたしております」

ユリアに見送られながら工房へと戻る。

「ただいま」

「お帰り。それで欲しい物は買えたの?」

玄関の扉を開けてソフィアが入って来るとポルトが駆け寄って出迎えた。

「バッチリよ。さぁ、早速作りましょう」

「うん」

彼女の言葉に彼が頷くと錬金術をするために準備に入る。

「薬草から緑の薬を作るね。準備できてるよ」

「お願いね。それじゃあ私は聖水から綺麗な水を作るわ」

二人は話し合うとフラスコへと向かう。黄金色の輝きが溢れるとあっという間にアイテムが出来上がった。

「出来たよ、はい。お姉さん」

「有難う。それじゃあ緑の薬と綺麗な水それからククルの花を混ぜて……癒しの力を最大限に引き出して根本的な所から治せる薬が出来ますように」

ポルトから薬を受け取ったソフィアはフラスコへと素材を投入する。瞳を閉ざし念を込めると黄金色の煌きが部屋の中を包んだ。

「出来たわ」

「これで納品分の薬は完成だね。だけどお姉さん他にも買ってきた素材があるよね?」

ほうっと息を吐き出すと出来たばかりの薬の入った小瓶を見詰める。そこにポルトが声をかけて来た。

「えぇ、依頼の品は作ったけれどお店に並べる在庫の品を増やしておこうと思ってね。色々と買ってきたのよ。最近は冒険者や騎士団から依頼が多く入ってくるから」

「それで女神の像やお守りのペンダントとか身代わりのコインとかがあるんだね」

「これで作るのは勿論」

「分かってるって。身を護るアイテムだろう。赤の薬はおいらに任せて」

二人はにこりと笑い合うと再びフラスコへと意識を向ける。

こうして錬金術でアイテムを作りまくって部屋には黄金色の光がひっきりなしに溢れた。

「傷薬に解毒剤。解熱剤に麻痺回復の薬……はぁ~一杯作ったぁ」

「身代わりのペンダントに守護の像、守りの指輪……これだけあれば大丈夫かしら」

フラスコと睨めっこしていたポルトが机に突っ伏すと盛大に溜息を吐き出す。

ソフィアも大量のアイテムを作り出して額には汗が滲むなか満足そうに微笑む。

「もう作りたくない」

「これだけあれば暫くの間は大丈夫よ」

作り続けて疲れてしまったのか彼がぼやく言葉に彼女は小さく笑い話す。

こうして出来上がった商品をお店の棚へと並べた。
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