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ライゼン通りの錬金術師さん2 ~人情物語~
一章 新しいお仕事
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工房で開店の準備を終えたソフィア達が一服ついていると扉が開かれお客が入って来る。
「ソフィーさん、ポルト君。おはようございます」
「おはよう。朝早くからごめんなさいね」
部屋へと入ってきたのは商人のハンスと仕立て屋アイリスの店主ミラであった。
ソフィアは珍しい組み合わせだなと思いながら駆け寄る。
「おはようございます。お二人そろってどうしたんですか?」
「この前新しい商売のお仕事をお話したのを覚えておりますか? 本日はその件でお返事を聞きに来たのですよ」
彼女の言葉に彼がにこりと笑い答える。
「ねぇ、ねぇ。商売のお話って?」
「おや、ポルト君は聞いていなかったんだね。それじゃあもう一度説明しようかねぇ」
不思議そうな顔で問いかけるポルトの様子にミラが微笑み口を開く。
「前にソフィーちゃんに布や糸やアクセサリーなどを作ってもらったことがあるのを覚えているかしら。それで服を仕立てた事があったんだよ。そうしたら今まで使っていた素材よりもとても品質が良く納得のいくお仕事が出来てね。それでハンスさんに頼んで商売の交渉をお願いしたのよ」
「ミラさんから交渉は初めてで不安だから頼むと言われましてね。それで商談の得意な私に話が来たという事です」
彼女が説明するとハンスが得意げな顔で胸を張る。
「ふ~ん。つまりミラのお店に納品する布や糸やアクセサリーとかを工房で作ってくれないかってことだね」
「まぁ、そういうことです。で、どうですか? 貴女にとっても悪い話ではないと思いますが」
納得するポルトから視線をソフィアへと移して問いかけた。
「そうね。ミラさんからの頼みでもあるし、定期的に納品のお話を頂けるというのであればこちらとしても有り難い話でもあるので、その件お受けいたします」
「では、交渉成立という事で。よろしくお願い致します」
彼女は考えるそぶりを見せたがすぐににこりと笑うと返事をする。その言葉にハンスが締めるように言う。
「ふふっ。良かったわ。ソフィーちゃんこれからよろしくお願いしますね」
「こちらこそ。よろしくお願い致します」
ミラも嬉しそうに微笑むと頭を下げた。それにソフィアもお辞儀して答える。
こうして仕立て屋アイリスへと素材を納品できるようになり、在庫が必要な時にはミラかイクトが頼みに来るようになった。
商談した日から一週間が経過した頃。ソフィアは納品の品を届けに仕立て屋へと向かっていた。
「こんにちは。ご注文いただきましたお品お届けに参りました」
「いらっしゃい。ソフィーちゃん有難うね。そこに置いておいてもらえれば大丈夫よ」
大量の箱を台車に乗せて入って来た彼女にミラが声をかける。ソフィアは言われたとおり壁際に在庫の山を置く。
「では、ミラさん。こちらの品を頂いていくよ」
「えぇ。何時も有り難う御座います」
試着室から出てきたお客が品の良いグレーのジャケットとベスト、白のワイシャツに黒の絹で出来たズボン、フリルのついたリボンにアメジストのブローチをカウンターへと持って行きながら話す。
それにミラが柔和な笑みを浮かべて答えると商品を紙袋へと詰めていく。
「また、様子を見に伺うよ」
「えぇ。またいらして下さいね」
会計を済ませ紙袋を手に取りながら話すお客の言葉に彼女は優しく微笑み見送る。
「お嬢さん。待たせてすまなかったね」
「いいえ。私はお仕事ですから」
去り際に声をかけられ驚きながらもソフィアは答える。
「……あの、さっきのお客様は」
「あぁ、グラウィスのことかい。彼は私の古くからの友人でね。スターディス家の当主だよ」
「ご貴族様!?」
随分と親しい様子に思わず尋ねるとミラが答えてくれる。その言葉に更に驚いて目を見開いた。
「ふふ。貴族と言ってもそんなに偉ぶった感じの人じゃないでしょ。だから私も初めて会った時はそりゃあ大変失礼なことを言ってしまったものだよ」
「ミラさんが?」
いつも穏やかで優しくて礼儀を重んじている様子のミラが失礼な態度をとったことがあることが信じられなくて驚く。
「そりゃあ、私も昔は若かったからねぇ。そうだ、ソフィーちゃんお時間があれば一緒にお茶でもどうかしら」
「はい。大丈夫です」
彼女の言葉に承諾すると二人で簡易台所へと向かい納品の件についての話も交えながら雑談して過ごした。
「ソフィーさん、ポルト君。おはようございます」
「おはよう。朝早くからごめんなさいね」
部屋へと入ってきたのは商人のハンスと仕立て屋アイリスの店主ミラであった。
ソフィアは珍しい組み合わせだなと思いながら駆け寄る。
「おはようございます。お二人そろってどうしたんですか?」
「この前新しい商売のお仕事をお話したのを覚えておりますか? 本日はその件でお返事を聞きに来たのですよ」
彼女の言葉に彼がにこりと笑い答える。
「ねぇ、ねぇ。商売のお話って?」
「おや、ポルト君は聞いていなかったんだね。それじゃあもう一度説明しようかねぇ」
不思議そうな顔で問いかけるポルトの様子にミラが微笑み口を開く。
「前にソフィーちゃんに布や糸やアクセサリーなどを作ってもらったことがあるのを覚えているかしら。それで服を仕立てた事があったんだよ。そうしたら今まで使っていた素材よりもとても品質が良く納得のいくお仕事が出来てね。それでハンスさんに頼んで商売の交渉をお願いしたのよ」
「ミラさんから交渉は初めてで不安だから頼むと言われましてね。それで商談の得意な私に話が来たという事です」
彼女が説明するとハンスが得意げな顔で胸を張る。
「ふ~ん。つまりミラのお店に納品する布や糸やアクセサリーとかを工房で作ってくれないかってことだね」
「まぁ、そういうことです。で、どうですか? 貴女にとっても悪い話ではないと思いますが」
納得するポルトから視線をソフィアへと移して問いかけた。
「そうね。ミラさんからの頼みでもあるし、定期的に納品のお話を頂けるというのであればこちらとしても有り難い話でもあるので、その件お受けいたします」
「では、交渉成立という事で。よろしくお願い致します」
彼女は考えるそぶりを見せたがすぐににこりと笑うと返事をする。その言葉にハンスが締めるように言う。
「ふふっ。良かったわ。ソフィーちゃんこれからよろしくお願いしますね」
「こちらこそ。よろしくお願い致します」
ミラも嬉しそうに微笑むと頭を下げた。それにソフィアもお辞儀して答える。
こうして仕立て屋アイリスへと素材を納品できるようになり、在庫が必要な時にはミラかイクトが頼みに来るようになった。
商談した日から一週間が経過した頃。ソフィアは納品の品を届けに仕立て屋へと向かっていた。
「こんにちは。ご注文いただきましたお品お届けに参りました」
「いらっしゃい。ソフィーちゃん有難うね。そこに置いておいてもらえれば大丈夫よ」
大量の箱を台車に乗せて入って来た彼女にミラが声をかける。ソフィアは言われたとおり壁際に在庫の山を置く。
「では、ミラさん。こちらの品を頂いていくよ」
「えぇ。何時も有り難う御座います」
試着室から出てきたお客が品の良いグレーのジャケットとベスト、白のワイシャツに黒の絹で出来たズボン、フリルのついたリボンにアメジストのブローチをカウンターへと持って行きながら話す。
それにミラが柔和な笑みを浮かべて答えると商品を紙袋へと詰めていく。
「また、様子を見に伺うよ」
「えぇ。またいらして下さいね」
会計を済ませ紙袋を手に取りながら話すお客の言葉に彼女は優しく微笑み見送る。
「お嬢さん。待たせてすまなかったね」
「いいえ。私はお仕事ですから」
去り際に声をかけられ驚きながらもソフィアは答える。
「……あの、さっきのお客様は」
「あぁ、グラウィスのことかい。彼は私の古くからの友人でね。スターディス家の当主だよ」
「ご貴族様!?」
随分と親しい様子に思わず尋ねるとミラが答えてくれる。その言葉に更に驚いて目を見開いた。
「ふふ。貴族と言ってもそんなに偉ぶった感じの人じゃないでしょ。だから私も初めて会った時はそりゃあ大変失礼なことを言ってしまったものだよ」
「ミラさんが?」
いつも穏やかで優しくて礼儀を重んじている様子のミラが失礼な態度をとったことがあることが信じられなくて驚く。
「そりゃあ、私も昔は若かったからねぇ。そうだ、ソフィーちゃんお時間があれば一緒にお茶でもどうかしら」
「はい。大丈夫です」
彼女の言葉に承諾すると二人で簡易台所へと向かい納品の件についての話も交えながら雑談して過ごした。
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