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15さい
86話 俺の作った料理には
しおりを挟むガオルグさんに料理を教えてもらい始めて早2週間ーー。
最近の俺は、いつもより早く起床して身支度を整えると先ず初めにガオルグさんの居る厨房へ行くのが日課となっている。
「ガオルグさん、おはよう!!」
「おうリツ、おはよう。今日も元気だな!早速なんだがそこにある野菜を切ってくれ」
「うん!任せて」
俺専用の黄色いエプロンを素早く着ると直ぐにキッチンに置かれてあるキャベツや玉ねぎ、人参を洗い始める。
1週間程前から俺は朝食作りの手伝いをさせてもらっている。
初めは授業の休憩時間にオムレツの練習をしてたんだけど、これが結構楽しくて…どうせならもっと色々な料理にも挑戦したいと思うようになった俺は、ガオルグさんにその事を伝えると、なんと朝食の手伝いをさせてもらえる事になったのだ。
「ガオルグさん人参の大きさこれくらい?」
「ああ、キャベツと玉ねぎもそんくらいで頼む」
「はぁーい」
俺が緩い返事をすると、ガオルグさんは感極まった様に目頭を押さえ口を開く。
「あぁ、なんだか俺……娘が出来たみてぇな心境だぜ。一緒に料理っていいな……リツ!!」
眦に涙を浮かべる強面のガオルグさんの頬は緩んでいて、ちょっと面白いーーーーー
「……って!俺女の子じゃない!!男!!」
「がははっ!!そうだったわ、すまんすまん!」
そんな冗談を言いつつ、朝食を作っていく。
ガオルグさんの大柄で陽気な性格は、不思議と居心地がよく、俺にも父ちゃんが居たらこんな感じなのだろうかと胸の奥底で思いを巡らせたのだった。
。。。。。。。
「まぁ、今日もリツちゃんが一緒に作ったの?」
「はいっ……と言っても殆どガオルグさんで、俺は野菜切ったりお鍋混ぜたりしたくらいですけど……」
俺は頭を掻きながら照れ笑いを浮かべる。
初めて俺の手伝った料理が朝食で出された時、カオン様やパール様、ライオネルにも料理をしてみたいと言うことを話した。
理由はガオルグさんに言った事と同じ様に、和食の事はやんわりとぼかして、ラディの為にーーーーーと伝えた。
俺のギラギラとした熱意にカオン様やパール様は優しく微笑んで、俺の事を応援してくれた。
ライオネルはちょっと不貞腐れてる感じだったけど、自分の方がラディよりも沢山俺の料理を食べられるからとか何とか言って、次の日には凄く美味しいとベタ褒していつもより沢山食べていたのだった。
「今日はどれを手伝ったんだ?」
カオン様が目の前の料理を見つめ問いかける。
「えっと、今日はポトフに入っている野菜を切りました!」
俺がそう伝えると、ふむ……と呟いてポトフを見つめるカオン様。
「うむ、良く切れている……頑張っているな」
いつも威厳があって、強くてかっこいいカオン様に褒められて……それが凄く嬉しくて俺もつられて笑った。
「ーーーーーで、どうして朝からハビー先生がここに居るんですか?」
俺はダイニングルームに入って一番初めに気になった事を口にする。
そんな俺に向かって、いつもと変わらずにこやかに笑うハビー先生が俺へと手を振った。
「いや~カオンから最近リツちゃんが料理を作ってるって聞いて、いても立ってもいられなくてさ!丁度今日は魔法の授業があったし、ついでに僕も食べに来た!」
そう言って無邪気に笑うハビー先生は本当に綺麗な容姿をしていて、時々カオン様よりも年上って事を忘れそうになる。
俺が席に着くと、皆で手を合わせて頂きますをする。
「おぉ~これがリツちゃんの作ったポトフか!!」
ハビー先生がキラキラと目を輝かせて料理を眺める様子に、俺は不思議に思い首を傾げる。
……別に、普通の美味しいポトフなのに…ハビー先生はなんでそんなに喜んでるんだろう。
……それに、俺は野菜切ってお鍋を混ぜていただけで味付けとか大切な部分は全部ガオルグさんがやってるんだけどなぁ。
そう心の中で思いながら、ハビー先生がポトフを口へ運び、もぐもぐと咀嚼し飲み込むのを俺はただ眺めていた。
「……ふふっ……やっぱりね」
一口食べ終わり少し間を置いてから、ハビー先生は小さく笑って興奮気味に呟いた。
「リツちゃん、やっぱり君の作る料理には……治癒効果があるようだねっっ!!!」
「え?……ち、治癒……効果?」
ハビー先生の予想だにしない言葉にダイニングルームに居た全員が唖然とする。
「ハビー、どういう事だ?」
カオン様が眉を寄せて尋ねるとハビー先生は楽しそうに話を続けた。
「まぁ珍しい事ではないよ。極端に魔力の強い子は無意識にその魔力を体外に出してしまう傾向があるからね。きっとリツちゃんも料理を作るのに集中し過ぎて無意識に魔力を流していたんだと思う」
人差し指をピンッと上に向けて得意げに話すハビーさんはもう一度ポトフに目を落とす。
「身体の損傷を癒し、体内の苦しみをも癒す優れものさ……それは、薬なんて要らなくなる程に。だからリツちゃん、君は誰かれ構わず料理を振舞ってはいけないよ」
その言葉に疑問を浮かべ「なぜですか?」と首を傾げる。
「神聖魔法持ちのリツちゃんは、ただでさえ他の国からしたら喉から手が出る程に欲しい存在なんだ。……傷を負っている者がリツちゃんの料理を口にすればそれは一瞬で癒えて、リツちゃんの稀有な能力を利用する悪い輩が現れる可能性も高くなる。
……もしそうなったらリツちゃん自身が危険に晒されてしまう……だから、君が料理を出していいのは君が信用した者だけにするんだ。これは先生との約束……いいね?」
真剣な表情でそう告げるハビー先生を俺も見つめ返す。
俺は、もっと自分の魔法について深く考えて、もっと慎重に行動しなければいけないのかもしれない……。
俺が危険に晒された時、きっとラディや皆が助けに来てくれる。
……でもそうなったら、俺だけじゃなくラディを……皆を危険に晒してしまうから。
……それは、絶対に嫌だ。
「分かりました……ハビー先生」
俺も真剣な顔つきでハビー先生を見て頷く。
実際俺が料理を始めたのだって、和食を食べたいって事と、ラディに食べて欲しいからって言う理由だったし……。
「うん、分かってくれてありがとうリツちゃん……あ!でも僕ならいつでも大歓迎だからね!むしろ毎日でもーーーーーーーーー」
陽気なテンションに戻ったハビー先生の言葉を華麗に聞き流す。
……俺の作った料理に治癒効果……か。
無意識に魔力を使っていた事は、正直凄く驚いた……でもそんな使い方もあるのだと新しい発見をした俺は、これまで以上に料理作りに興味が湧いたのだった。
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