65 / 120
15さい
61話 人気者
しおりを挟む「リツ、大丈夫?」
「う……うん」
先程まで王城の大きさにテンションが上がっていた俺だが、いざ中のエントランスホールへ通されると緊張して身体が強ばる。
カオン様とパール様を先頭にして一際大きなドアの前へ足を進めると、中から沢山の人の声が聞こえて来る。
グラニード家で暮らしてきて10年……。
俺はラディやライオネルの様に頻繁に王城へ出向いたこともなければ、屋敷の人以外と話した経験だって数少ない。
……だから、こんなにも沢山の人達の居る場所へ行くのなんて人生で初めての事なんだーーー。
「大丈夫だよリツ……僕が着いてるから。絶対に傍を離れてはダメだよ?」
「そうだよリツ!お菓子も沢山あるから全種類食べような!」
「う、うん!……2人ともありがとう」
ラディとライオネルを見上げて微笑むと同じタイミングで顔を赤らめた2人は「……絶対に目を離さないようにしよう……」と呟いた。
「グラニード公爵家御一行様ご到着でございます!!」
大きな声量でそう伝えられたと共に開く大きなドア。
少しずつ開かれると、沢山のシャンデリアに照らされる大きく煌びやかなメインホールが現れ、俺はゴクリと息を飲む。
貴族のパーティーは爵位の低い者から会場へ入るという決まりがあり、公爵家であるグラニード家が到着する頃には既に殆どの貴族がホールに集まっていた。
「グラニード公爵様……素敵ですわ」
「奥様もとても綺麗で、流石社交界の華ですわね……」
「御子息のラディアス様とライオネル様も凛々しくなられて……はぁ、家の子をもらってくれないだろうか……」
小声で呟く周りの人達の言葉は、きっと人間であるラディ達には聞こえていないが、獣人の俺の耳にはハッキリと聞こえる。
それは、俺の存在を不思議がる声も聞こえてーーーー。
「あの子はどこの子なんだ……?」
「グラニード家の正装を着ているのだから……公爵家の子なのよね?」
「でも獣人だぞ?」
ヒソヒソと俺の事に対して話し合う声は居心地が悪い。
俺は繋いでいたラディの手をギュッと握った。
カオン様やパール様はホールへ入るなり俺達に一声掛けて離れると、沢山の貴族の大人達に囲まれ挨拶を交わしていった。
その様子を唖然と眺めていると、ラディやライオネルの所にも同じ年頃の貴族の子供達がゾロゾロと挨拶の為に押し寄せ周りを囲んだ。
それはラディと手を繋いでいる俺も一緒に囲まれているわけで……。
「うぅ……ぐるじ……」
ずっと屋敷に居た俺は、ラディやライオネルがこんなにも人気だったなんて知らなかった……まぁ、イケメンだし、いい身体してるし公爵様だしイケメンだし!!当たり前か……。
そんな事を思いながらも、みんな俺の事なんか見えていないかの様にギュウギュウと押し寄せてきて、小さい俺は直ぐに飲み込まれそうになる。
「リツ、おいでーーーーー」
「むぐぅぅぅ……へ?ーーーーうわぁっ!!」
ラディの優しい声が聞こえたと共にふわっと身体が持ち上がる。
いきなりの事で咄嗟にギュッと首に掴まると目の前には優しく微笑むラディが俺を見つめていた。
「え?……ラディアス様が、笑った?」
「そ、そんなはず……だって」
「ラディアス様はーーー」
ラディの様子に周りの子供達は状況を飲み込めないのか、皆が呆気にとられながらもヒソヒソと話し始めた。
その様子に俺は悟る。
ーーーあぁ、ラディは外でも無表情なのか……と。
「リツ、痛かったよね」
「え?あぁ…ぜ、 全然大丈夫」
周りの様子など気にせず俺を心配するラディ。
その光景にも過敏に反応する貴族の子供達は俺をじぃーと見つめてきて居心地が悪い。
そして、所々睨んでる子も居てちょっと怖い……。
「挨拶が済んだのでこれで失礼する」
無機質にそう告げると俺を抱いたままスタスタとその場を去るラディ。
呆然とする貴族の子供達に、ライオネルが人のいい笑みを浮かべてお礼を言うと足早に俺達に着いてくる。
「ラディ、あんなに素っ気なくして大丈夫?」
「あんな奴らに興味無い……それよりリツお菓子全種類食べるんだろ?後で何を食べるか今の内に選びに行こうか」
「お菓子!!うん!ラディも後で一緒に食べよ!」
そう言って微笑むと、ラディも笑った。
「はぁ、もう兄さんは……」
その様子にライオネルが呆れた声を出す。
……皆ラディが笑うと不思議がるけど、俺にとってはこれが普通なんだよな。
そう思うと俺だけがラディの特別である様な気がして、嬉しくなるのだった。
それからスイーツの並べられるテーブルへと行くと、ラディに降ろしてもらい、キラキラと輝く美味しそうなスイーツに俺も目を輝かせる。
「わぁ~!!どれも美味しそー!」
「リツの好きなピーナッツマフィンがあるね」
「なぁ、これなんかどうだ?リツいちごも好きだろ?」
「おぉ!あれもそれも美味しーーーーーーーーーーー」
「ラディアスさまぁ~~ーーーーーーーー!!!!」
ライオネルが指さすケーキやクッキー、マカロンを色々見ていると、不意に背後から大くて甲高い声が聞こえて俺たちは振り返った。
32
お気に入りに追加
2,464
あなたにおすすめの小説
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる