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10さい
52話 へんなラディ
しおりを挟む慌ただしいあの一件から一月が過ぎた。
あれからというもの、俺の体調がいい日には歩く練習や話す練習をして毎日を過ごした。
元々言葉は理解していたし、少しだが前世の記憶も残っている俺は感覚を掴むのも早く、歩くことに関しては既に走り回れるくらいにまで成長した。
話す事は口の動かし方が……まぁちょっと難しくて、もう10歳にも関わらず未だ拙い喋り方になってしまって少し恥ずかしい。
勿論並行して座学や魔法実技なんかもハビー先生に教えてもらっているけど、未だ魔法はあの時以来使えていない。
そして……俺は言葉をある程度話せるようになると、ラディとラディの家族に俺が今まで経験してきた事を1つ残らず話した。
母ちゃんの事……村の事……村での辛い境遇の事……そして、ラディに保護されるまでの事。
全てを話し終えた時には俺の目からは大きな雫がポタポタと溢れてきたけど、沢山の温かい温もりに包まれて、優しい言葉をかけられて……すごく安心したんだ。
あの時はすごく辛かったけど、母ちゃんとの思い出は俺の大切な宝物。
母ちゃんともう会えないのは寂しい……だけど俺は、ちゃんと前を向いて心配性な母ちゃんが安心できる様な……そんな生き方をしようと強く誓ったのだ。
そして……そう決意した俺は、今大きな悩み事に直面しているーーーーーーーー。
「はぁ……らでぃがさいきんなんかへんだ……」
俺は庭先で友人のボブを撫でながらポツリと呟く。
ヘレスは今日不在の様で庭師のアドルフさんに軽く挨拶をした後、邪魔をしない様にボブと散歩していた。
「ワフッ……クーン」
「ぼぶ、しんぱいしてくれてるのか?」
「ワンッ」
「あぁ~ぼぶはやさしいなぁ……さすがおれのともだちだ!」
俺はよしよしと自分と同じくらいの大きなボブを撫でる。
10歳にしては小さな身体のリス獣人の俺は、未だに獣人化しても仕舞うことが出来ない、胴体と同じくらいの大きな尻尾をユラユラと力なく揺らす。
ーーーー俺が獣人化した時からか……ラディの様子がおかしい。
初めこそまだ体調が全快していないのかと思っていたが、時間が経つにつれてその考えは薄れ、避けられているのかもしれないと最近の俺はずっとモヤモヤしていたのだった。
夜ラディのベッドで一緒に寝ようとしたら、ラディは驚き俺に背を向けて眠るか、部屋にあるソファで寝ようとしたり、ルーティンだった毎朝のキスもパタンと無くなった。
話す時は俺に目を合わせようとしないし、お風呂だってラディと一緒に入る事は無くなった。
……これって絶対避けられてるよね!!!
「……むぅ…おれ、なにかしたかな……ね、ぼぶぅぅ~」
俺はボブをギュッと抱きしめる。
確かに俺はラディに心配ばっかりかけるし、大きな傷も負わせてしまった。
迷惑かけている自覚が無いわけじゃないけど、それならそれで俺にちゃんと言って欲しい。
ボブと遊ぶのに夢中で帰る時間が遅くなった時は、心底心配した様子で探し回るラディだから、俺を嫌っている理由では無いと思うけど……。
「おれ、きらわれてるわけじゃない……よね?」
急に心配になって変な汗が出る。
そんな時、俺を遠くから呼ぶ声に頭上の丸い耳が反応する。
「リーツ!!!やっぱりここにいた!」
「んぉ?らお、どしたの?」
俺を呼んだのはライオネルだった。
獣人化しても小さい俺の身長はライオネルの鎖骨あたりまでしかない為、自然に見上げる形になる。
ーーーあれからライオネルは俺に愛称で呼んで欲しいと頼んで来た。
特に気にする事も無かったからそれからは愛称で呼んでいるけど、その時ラディが不機嫌になった気がするのは俺の勘違いだったかな?
「今から母様の所へ行くんだけど、リツもいかない?お菓子沢山用意してるみたいだからさ!」
「おかし!!!うん!いくいくすぐいこ!!!ぼぶも!!!」
「ワフッ!!!」
大きな瞳を輝かせてライオネルの手を握ると、屋敷へ足を進める。
「ちょ、リツ……手……って!そんなに急いだらまた転ぶよリツ!!」
少しだけ顔を赤く染めたライオネルは、慌てたように言った。
。。。。。。
「あら~、いらっしゃいラオ、リツちゃん!」
笑顔で迎えてくれるラディ母ちゃんーーーパール様は相変わらず美しい。
獣人化してから俺はラディの父ちゃんと母ちゃんの事をカオン様、パール様と呼ぶようにバセスさんから教わった。
……今まで父ちゃん母ちゃんって呼んでも気付かれ無かったから良かったけど、グラニード家は身分もかなり高いし失礼になるからな。
でも、ラディとライオネルはそのまま愛称で呼んで欲しいと凄い勢いで言われたので、そのままにしている。
まだ話す事に慣れていない俺からしたらとても有難かった。
「こんにちは!ぱーるさま!!」
「いやぁ~ん!こんにちはっ!!うふっ…もう本当に……かぁわいいわ!リツちゃんの為にお菓子たくさん用意したからゆっくりしていってね!」
頬を手に添えていつもの様に悶絶するパール様。
俺を見るとパール様はこうなるんだ。
「ありがとうございます!らお、おかしたべよ」
「うん!リツ、あ~んしてあげる」
ライオネルの最近のブームは俺を餌付けする事みたいで、これはラディには秘密ね!と言われた。
ラディ、ライオネルにちょっと厳しいんだよな……。
もぐもぐとお菓子を食べていると、パール様が俺に話しかける。
「ねぇ、リツちゃん。最近なんだか元気がない様に見えるのだけど、何か悩み事があるの?」
「なやみごと…?」
俺は感情が顔に出やすいとよく言われる。
それに追加して耳や尻尾にも感情が現れるからパール様は気付いたのだろう。
……正直1人で悩んでても何も解決策を見い出せないし、ラディに避けられるのは想像以上に寂しい。
俺は聡明なパール様に相談する事にした。
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