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10さい
51話 落ち着かない気持ちsideラディアス
しおりを挟む「それじゃあ話も終わった事だし……ラディアス!リツちゃんを部屋に連れて行ってあげなさい」
沢山泣いたせいかリツの目は少し腫れている。
そんなリツを抱いていた母様は僕に向かってリツを差し出した。
「はい……分かりましーーーーーー」
リツを受け取ろうと手を伸ばすも、リツを見た瞬間身体が動かなくなる。
睫毛の長い目元を閉じ、艶やかな唇からは浅い寝息が聞こえる。
僕の幼少期に着ていた黒のスウェットから覗く白い肌はキメ細やかで、儚げな印象のリツを見ると何故か見てはいけない気がしてしまうのだ。
慣れない魔力を使い、沢山の涙を流し疲労の溜まったリツはとても小さくて、弱々しくて……触れたら壊れてしまいそうな程繊細なもののように感じた。
……目覚めた時、獣人化したリツは僕の目の前で泣いた。
その時は、意識もまだハッキリとはしていなかったし、何よりリツに安心して欲しくて、こんなにも変にソワソワしてしまう気持など微塵も感じなかった。
しかし体調が回復するにつれ、リツを見ると何故か今までに感じたことの無い緊張を感じ……身体全ての血脈が苦しいくらいに脈打つ。
師匠との剣術稽古も模擬戦になればその緊迫した雰囲気に緊張したりもする。
……だが、リツを見た時の緊張とは全くの別物だ。
「ラディアス?何してるの、早くベッドに連れてってあげて。まだ体調も万全じゃないのに、このままだと風邪を引いてしまうわ」
「はい……」
僕は母様の腕の中に居たリツを抱き上げる。
瞬間高鳴る胸に……顔に、血液が集中したかの様な熱さを覚えた。
でも、何故か安心する。リツが自分の腕に抱かれているのが凄く嬉しく感じたのだ。
……リツは、獣人化してもこんなに軽いのか。
腕の中の小さな存在は離さないとでも言う様に僕の服を掴み、頬を擦り寄せる。
愛おしい、傷つけたくない……大切にしたいーーーー。
その確実たる思いと同時に感じる……恐怖。
自分でも理解が追い付かない……でも、近くにいたら自分が抑えられず、壊してしまう様な気がするのだ。
……暫くはリツの傍にいない方がいいのかもしれない。
それがリツの為……ただでさえ今は魔力にも慣れず体調も崩しやすい。
精神的にも不安定になってしまうとハビー先生は言っていた。
だからこれは……リツの為……。
僕は、そう自分に言い聞かせた。
ーーーーーーーーーーーーー
sideハビー・ラエリス
「おかえりなさい、ラエリスさん」
グラニード家から魔導師ギルドへと移動魔法を唱え執務室へと到着すると、魔導師ギルド副長であるロアが待っていた。
「はぁ~い、ただいま」
「なんだか珍しくご機嫌ですね」
「かなりいい事があってね~、やっぱりあの子は面白いよ」
グラニード家に保護されたリス獣人……リツ。
僕の期待以上の神聖魔法の持ち主。
そしてやはりあのブロンドの瞳はーーーー。
リツちゃんは母親に育てられたらしく、父親の存在は知らないと言っていた。
リツちゃんの秘密は父親が関係しているのかもしれないと考えた僕はそれから様々な文献を再度調べてみたが、やっぱり得るものは無いに等しかった。
ある時、リツちゃんとラディアス君が倒れたと報告があった。
その後ガロウィからの話を聞いて、僕の考えていた疑念が確信へと変わった。
リツちゃんからの話を聞いてもその確信は揺らぐことは無く、想像以上の事を知ることが出来たと笑みを浮かべる。
やっぱりリツちゃんの魔力量は多く、魔法の才能もある。
念話を言葉で教えただけで使いこなせる人はそうそう居ない。
治癒魔法は発動出来なかったが、きっと僕が教えればそれも時間の問題だろう……。
浄化の力も強く、周りの魔獣の瘴気までも一瞬で浄化したという事を知った時は、ついつい興奮してしまったのも記憶に新しい。
だが、浄化魔法がかなり珍しいものであるため、この事が世間に広まった時、リツちゃんを狙う極悪非道な奴が現れてしまうのも確かな事だ。
リツちゃんは聖属性魔法持ちで魔力量も多いが、攻撃魔法は使えない。
リス獣人でまだ幼く身体も小さい。
力も弱く、もしも捕まる様な事があれば逃げる事などまず不可能だ。
カオン・グラニードとはこの件をオルビセリア国王に伝える方針で話し合い、外部に漏れないよう秘密裏に報告する旨を約束した。
国の明るい未来を象徴する存在になり得るリス獣人。
身体は小さな存在なのに内に秘めている力は僕の想像をも超えるアンバランスな存在。
なんだかそれがおかしくて「ふっ……」と息を洩した。
「あーあ、早く2日後にならないかなぁ~」
早く君の使う神聖な魔法が見たい。
元気で可愛い僕の教え子……。
高揚した気分の中で1人笑みを浮かべる僕は、怪しさを通り越して怖くもあるだろう。
……だが、そんな事は気にしない。
これから君を沢山観察して行くからね……リツちゃん。
この場には居ない可愛い教え子に、僕は胸の中でそう呟くのだった。
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