リス獣人の溺愛物語

天羽

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10さい

46話 感じる温もりsideラディアス

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……あれは、リツ?


真っ白な空間に佇む僕の目の前には小柄なリスの小さな背が見える。



……リツ、リツ!!僕だよ…こっちへおいで。



声を掛けるもリスは振り向かず、そのまま何も無いまっすぐな道を走っていく。



ーーーーっっ!待って、待ってよリツ!!!



小柄なリスのスピードに僕は直ぐに追い付き、優しく両手で包み込み、持ち上げる。

だが触れた直後、それは砂の様に儚く崩れてのひらからサラサラと落ちてゆくーーーーー。
……その光景に絶望を覚えた。



……あぁ、嫌だ……リツ、リツ……僕も一緒に……。




僕の前から居なくならないで……。
離れるくらいなら僕も一緒に連れて行ってくれ。
君を……失いたくない。



リツ……リツ…。
君とずっと居たいんだ……。






「…………」




なにか聞こえる……。
鈴のように軽くて綺麗な……透き通る声。
何処か儚さもあるその声は泣いている様な気がして、胸が苦しくなる。

早く、早くその声に応えないと……。
理由の分からない焦りと不安。
でも早くしないと一生後悔しそうで、僕は身体に力を入れるーーーーーーー。





ふっ……と意識が浮上し、ゆっくりと瞼を開ける。



起き抜けで目の前が霞んで見える意識の中で、僕のベッドに居るもう1人の存在に気がつく。


……ん……誰?


窓から差し込む薄明かりにその小さな存在が照らされる。

何も身にまとって居ない存在は、何処か儚く……直ぐに消えてしまう様な気がした。
僕の元から永遠に居なくなってしまうような気がした。


……いかないでーーー。


掠れる声の中、僕は咄嗟に目の前の存在に告げると、振り返る。




その瞬間ーーーーー僕はその存在に目を奪われた。




色素の薄い艶やかな茶色の髪に、毛並みのいい丸い耳と尻尾。大きなブロンドの瞳には涙が溜まり、形のいい鼻にピンク色の小さな唇は可愛らしくも妖艶ささえ感じられる。
何も身につけていない真っ白な純粋の肌は薄明かりに照らされ言葉にならない程美しかった。


……天使、妖精。


愛らしく尊いその名前はこの存在の為にあるのだと強く感じ、ドクドクと心臓が早くなる。
こんな気持ちは初めてで、理解の追い付かない感情が僕の身体全体を伝った。



「あ、い……?う、うぁ……」


そんな僕を心配したのだろうか、目の前の存在が僕へと近寄り顔を覗き込む。

上手く喋れないのか、それでも必死に鈴の音の様な心地いい声で僕に話しかける様子はとても可愛くてその光景に微笑んだ。

するとその存在は、僕を見つめながら目元いっぱいに涙を溜め、ポタポタと涙を零しながら嗚咽を漏らした。


その様子に僕は確信する。
小さい身体にふわふわな耳と尻尾、可愛い顔……それに、我慢するように堪えて、静かに泣くこの子を。



……リツ、なの?



そう問いかけると、可愛い存在はコクコクと頷く。


あぁやっぱり……僕の大好きな存在だった。

手離したくない、ずっと一緒にいたい存在。




怪我は無い?




そう聞くと、リツは自分の事より僕の事を心配しているようだった。
だから少しでもリツを落ち着かせたくて、僕も平気だと伝える。

だから、泣かないで……そう思い、キメ細かく柔らかい頬を伝う涙を拭う。



「うぅ……ひっく…うぁぅぅ……」



リツは静かに涙を流しながら、僕の腕を抱きしめた。



……なんでかな?嬉しいのに……。
いや、嬉しくて……凄く泣きたくなった。



あぁ、良かった。まだ僕の傍に……一緒に居てくれるんだ……そう思ったら湧き上がる感情が抑えられない。



もっとリツの傍に行きたい、もっともっと深くまで。



ねぇリツ……あの約束覚えてる?

獣人化したら可愛いその姿を僕に一番に見せてくれるって言う約束。
あの約束、守ってくれてありがとう。



リツ……もっと君を見たい、感じたい。
嬉しい時も悲しい時も怒る時も、全部隣に居るのは僕がいい。

そう気持ちを込めてリツに伝えると、初めてリツは声を上げて泣いた。


僕の胸に飛び込んで僕を離さないとでも言う様にガッシリ掴んで、小さな身体を震わせるリツは大きな声で泣いた。


どれだけ、辛かっただろう。
どれだけ、不安だっただろう。


僕はリツをギュッと抱きしめる。


華奢な身体は強く力を入れると壊れてしまいそうで、僕はその身体を優しく包み込んだ。


リスだからか、獣人になっても小さいリツ。


僕はこれからも、この小さくて可愛いくて愛おしい存在を近くで守っていこうと……強く強くーーーーー誓った。



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