リス獣人の溺愛物語

天羽

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【本編】5さい

19話 フラッシュバック

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「……リツちゃんはどうして子供1人で森に居たのかしら?」


力強い瞳で俺を見つめるラディの母ちゃん。

……きっと俺が何者なのか、この家にとって害のある奴か疑っているんだと本能で分かった。


「リツちゃんはまだ5歳の子供でしょ?お母様やお父様は?何故獣人にならないのか……何故森に居たのか。今のリツちゃんの言葉を全て理解する事は出来ないかもしれないけど教えて欲しいの」


ラディ母ちゃんのその言葉に、俺の中で、今まで体験した辛い記憶だけが瞬間的にフラッシュバックする。


村から邪魔者扱いされる俺と母ちゃん。

獣人化出来ず異様な目で見られる俺。

毎日暴言を吐かれる母ちゃん。

病気になっても誰にも助けて貰えなくて、弱っていく母ちゃんを見ていることしか出来なかった無能な俺。

冷たくなった母ちゃん。



……優しかった母ちゃん。誰よりも強かった母ちゃん。

大好きだった。本当は離れたくなんてなかった。

母ちゃんとの約束を守りたくて死に物狂いで森を抜け、ラディに助けてもらった。


「ピュッ、ピッュ、ピッュ……」


気付いた時には大粒の涙を流していた。

丸い耳と尻尾は力なく垂れ下がる。


「……っっ!リツちゃん……どうしたの?ごめんなさい……強く言いすぎてしまったわよね、決して怒った訳ではなくて……本当にごめんなさい……だから、泣かないで」


ラディ母ちゃんは少し焦った様な声音で自身のハンカチで俺の目元を拭う。


俺は首に巻かれている大切なスカーフをとってラディ母ちゃんに見せる。


「ピッ……ピュイ……」
(こ、これ……かあちゃんがつくってくれた。おれのたからもの……おれがもっとかあちゃんのちからになれていたら……)


きっとラディの母ちゃんに俺の気持ちは伝わらないだろう……。
そう思っていると、ラディの母ちゃんは俺の大切なスカーフに触れて「そうなのね……」と呟いた。


「……そうよね、良く考えれば少しは分かるはずなのに……子供のリツちゃんが好きで1人でいる訳ないもの。私の考えが足りなかったわ……本当にごめんなさい」


ラディの母ちゃんは眉を下げ今にも泣きそうな表情で俺に謝った。


「リツちゃんは何も悪くない……何もね。
今までよく頑張った……これからは此処を自分の家だと思って過ごしてね。リツちゃんには笑顔が似合うもの」


瞳に涙を浮かべて笑うラディの母ちゃんを見て、俺はまた静かに泣いた。






。。。。。。
sideパール・グラニード





最後の質問をしたら、言葉は理解出来ないながらも、表情や雰囲気でリツちゃんの本心がわかると思っていた。

一応これでも王国騎士の家系である公爵家に嫁いだ身の私は、人の善し悪しを見破る力だけは旦那のカオン・グラニードに勝ると自負している。

……まぁ、又の名を女の勘って言うのだけれど。


でも、私はその質問をしたことに大きく後悔をした。


質問を聞いたリツちゃんは、驚く事も、焦る様子も、怒る事だってなく、ただ静かに大きな目から涙を流して泣いたのだ。

その瞬間私は自分を恥い、そして確信した。

上流階級に位置する貴族に取り入ろうとする人達が多いこの社会で、その人達を相手に一瞬の警戒を解くことなく笑顔を取り繕ってその場を切り抜ける事に慣れてしまっていた私は、何も知らない幼いリツちゃんにも同じ様にしていた事を。

……そして、リツちゃんにはそんな汚い考え等どこにもなく、ただ居場所を探していたのだと言うことを。


自分が恥ずかしい……そんな事を聞く前に、もっと言ってあげられる事が沢山あった筈なのに。

そんな事を考えながら何度も謝った。


いつも大切に首に巻いていた白いスカーフには丁寧な刺繍で『リツ』と書いてあった。
私はそのスカーフを撫でる。

きっとリツちゃんは幼いながらも辛い経験を沢山して、それでも生きる事を諦めずにここへ来てくれたのだろう。


堪える様に静かに泣くリツちゃん。
それは過酷な状況にいた事を物語ってる様で次第に私の頬にも涙が伝う。


この子が安心して過ごせる場所を作ろう。

そう決意して、私はリツちゃんの頭を撫でた。



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