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20話 これからも2人で【本編完結】
しおりを挟む「ーーレイラっっ!!」
街へ帰ると、ノアの家族やレストランのオーナーであるレスティさん、パン屋のマスティンさん家族が街の入口で迎えてくれた。
ノアは私に気が付くと直ぐに駆け寄り、ギュッと抱きしめた。
よく見ると目元は赤く腫れ、沢山泣いたであろうことが伺える。
「レイラっ!ごめん、ごめんね…私があんなこと言わなければ……」
「もう何言ってるの?ノアが気に病むことなんて1つもないよ!ノアは私の背中を押してくれたでしょ?あれが無かったら私、今でもうじうじ考えてたと思うから……」
「だからありがとう」と言ってノアを見つめ笑う。
私が元気な姿を見せると、ノアもホッと息を吐き「おかえりなさい」と笑ってくれたのだ。
「……それにしても、ランセルがあんな酷い奴だったなんて……今まで私達を騙してたって事でしょ!マジで有り得ない!最悪!最低!!」
ノアはその後、ランセルに対して怒りを顕にした。
確かに2年間、ずっと仲のいいフリをして私達と接してたわけで、ノアが怒るのも分かる。
「でもノアに何もなくて良かった。ランセルと2人で出かけたことだってあるでしょ?」
私の言葉にノアはコクリと黙って頷く。
「アイツ、私と2人で出かける時いつもレイラの事聞いてきてたのよ、私はそれがただ純粋にレイラに好意を寄せてるからだと思ってて……正直2人が恋仲になればいいのにって思った事もあった」
「私はノアとランセルお似合いだなって思ってたよ」
「えぇ!?なんで!?」
私がそう言うと、ノアは目を見開き分かりやすく狼狽えた。
見た目と違って案外純粋な心を持っているノアに、クスリと笑う。
「まぁとにかく、無事で良かった……それよりもレイラ、おめでとう!」
「え?何が……?」
「何がって!!ジークス様と結ばれたんでしょ?」
ニヤニヤした表情で揶揄うノアに、今度は私が狼狽えた。
「え!?な、なんで分かったの!!」
「いや一目瞭然よ!!二人の纏う雰囲気とか全然違うもん。でも1番は、ジークス様がレイラを見る目!!こっちが恥ずかしくなるくらい熱いんだもん!今もほら!レイラの事見てるわよ」
「ふぇ!?」
そんなこと言われると、恥ずかしくて振り向けない。
頬に両手を当て真っ赤になった私をノアが笑う。
「レイラ、良かったね」
「うん、ありがとうノア」
いつも相談に乗ってくれたノア。
落ち込んでても励ましてくれた、大切な友達。
ーー私にとってノアに出会えたことは、グランと出会えたことと同じくらい、幸せな事なんだよ。
。。。。
グランと並んで2人の家のドアを開ける。
グランは王都へと向かった時から……。
私はグランを追いかけて行った時から……一度も帰っていなかった2人の家。
あの時の私は、不安に押し潰されそうだった。
この赤い瞳が憎かった。
ーー家の中の風景はその時のままだ。
でも、私の気持ちと、グランとの関係はその時とは違う。
グランを助けられた赤い瞳にも感謝しているし、私はグランと幸せになるためにこの瞳で生まれたのだと、今は思うことができる。
「グラン、おかえり」
家へと入り、くるりと後ろを向くとグランに伝える。
そんな私にグランも笑みを浮かべ、顬に優しいキスをくれる。
「あぁ、ただいま」
これまで何気なく交わしていた言葉が、こんなにも特別で幸せなものだったなんて……。
いつの間にか忘れていた、当たり前のようで当たり前では無いこと。
私は今この幸せがある事に、感謝をしたのだった。
「レイラ、ここから引っ越さないか?」
「ーーえ?」
夕食を軽く済ませると、唐突にグランが提案する。
私へと判断を委ねるような聞き方ではあるが、グランの表情を見るに、既にグランの中では決定しているように感じた。
「どこへ引っ越すの?」
「スワーロデ王国というところだ」
「スワローデ…王国…?」
聞いた事のない国名だ。
私が首を傾げると、グランが説明してくれた。
スワローデ王国。
それは赤い瞳を『魔女』ではなく『聖女』と呼ぶ国。
大昔、異能を持つ赤い瞳に助けられた人々が作った国だ。
スワローデ王国には馬車で二月程かけて行く。
この国に太陽が登る時、スワローデ王国には月が上がり、太陽が登る頃にはこの国には月が顔を出す。
時間の感覚が正反対になる程遠く離れた国。
「スワローデ王国はレイラにとって、この国や他の国よりも格段に住みやすいだろう」
魔女に纏わる噂は、国を通して少しづつ真実へと導いていくと言っていた。
だが、深く根付いた噂はそう簡単には良いように変わってはくれない。
きっと、私が生きている内はまだ、赤い瞳に対する偏見が多いだろう。
グランはそれを分かって私に提案してくれているのだ。
もう、危ない目に会うことのないように……。
「グランはいいの?……その、騎士団の事とか、家の事とか……」
私がグランを独り占めしていいのだろうか。
グランは獣騎士団の団長になるためにこれまで毎日欠かさず鍛錬に励み頑張っていた。
家の事だってきっと、私が知らないだけでお母様は勿論のこと、お父様やお兄様にだって反対されているだろう。
「そんなもの、俺にとっちゃ別にどうでもいいことだ。手放したとて惜しくない」
「ーーグラン?……っ!?」
グランは椅子から立ち上がり、私の後頭部へと手を回すと、私の唇を奪う。
パクリと食べられる様なキスに目を見開く私を、グランは楽しそうに目を細め、至近距離から見つめる。
「俺は、お前が傍に居てくれればなんだっていい。団長を目指したのだって全部お前を守るためだ。それにもしも、家族との縁を切ることになったって……お前が直ぐに、俺の家族になってくれるだろ?」
「っ…!!ぐらっ……ぅっ…うん!なる!……私が、グランの家族になるから!!!」
目頭が熱くなって視界が歪む。
ポロポロと涙が溢れると、グランが頬染めて笑った。
長いフサフサの尻尾は大きく揺れ、それを見ると心が癒される。
私はグランに勢いよく抱きついたのだった。
結局、グランが騎士団を辞めることは無かった。
……というのも、国王様が優秀なグランを手離したくないからと騎士団を辞職する事を必死に止めたのだ。
だが、護衛対象である隣国の姫君を守れなかったからと辞職を譲らなかったグランは引っ越しの事まで伝えていたようだった。
しかし国王様も譲らず、ならばとスワローデ王国へと便りを出し、グランを騎士団員として無期限で派遣するという判断を下したのだった。
その場合、書類上スワローデ王国にグランを貸し出しているという事になるため、この国とグランとの縁は切れていないということになる。
この国に何かがあった場合、グランの力を貸してほしいと頼まれた。
グランもそれで納得した。
本人が言うには半強制的だったと言っていたが、頷かないと国から出してもらえなさそうだったみたいだから、これで良かったと思う。
スワローデ王国も前々からグランの功績は耳にしていた様で、この提案を快く受け入れたのだ。
そして、そのお陰でグラニード家とも家族の縁を切らずに済んだ。
スワローデ王国へ行く事に家族の反対は無かったらしい。
グラン曰く、元々自分には興味が無いからと呆れ声だったが、後日グランのお父様とお兄様に会った時、「グランをよろしくね」と言われたのだ。
……きっとグランの家族は、みんなが不器用なだけで、ちゃんと家族ではあったんだと思う。
グランには内緒にしてくれとお父様とお兄様に言われたから、この話はもう少し生活に落ち着いたらグランに話そうと思う。
お母様と会う事は出来なかったけど、いつか私を認めてくれて、2人でお話できる日がくるといいな……。
そして、今日私達は長年住んでいた街を出る。
レストランの店長レスティさん、パン屋のマスティンさん家族、その他にも街で良くしてくれた人達が見送ってくれた。
もちろんノアとノア家族も。
でも、ノア一家にはまたすぐに会える。
なんと、ノア達も家族全員でスワローデ王国へ移住する事を決めたからだ。
なんでも、ノアと双子のユラとシノが両親に頼み込んだらしい。
「おーい!!こっちだ!!!」
「え!?ーーあ、あなた達は」
馬車の前に立っていた3人の男性に私は目を見開いた。
そこには、数ヶ月前にレストランに来てグランの噂をしていた3人の冒険者達。
「スワローデ王国まで、俺らが案内するよ」
「あの国は住み心地がいいから、嬢ちゃんもきっと気に入ると思うぜ!」
「あー!俺もこんな仕事辞めて帰ろうかな~」
呑気な3人の姿に目を丸くし、グランを見上げた。
「こいつらはスワローデ王国出身の冒険者らしい。獣騎士団の団員がこいつらと知り合いで紹介してもらったんだ」
「そうなんだ……あ!だから!!」
……あの時。
レストランで冒険者達が私の瞳を見て言った言葉。
『赤い瞳だ……』
『伝説の……』
特に恐れる様子もなく、どちらかと言えば珍しいものでも見るようなその瞳に不思議に思っていたのだが、3人がスワローデ王国出身ならば納得だ。
「いや~、まさかこんな小さな街で伝説の聖女様の象徴である赤い瞳が見れるなんて思わなくてな!」
「あん時はびっくりしたなぁ!!!」
ゲラゲラと笑う3人を見て、心が軽くなった気がした。
それは……今から行く国は、これまでの様に一方的に嫌われる事はないと分かったからか、周りに……大好きなグランに赤い瞳で迷惑をかけなくてよくなることへの安堵か……。
どちらにせよ、私はもう……自分のこの赤い瞳を恨んではいない。
魔女でも聖女でもどちらでもいい。
グランと一緒に居られるのであれば……。
私の大切な人達がこれから先も幸せならば……。
「ーーもうすぐで準備ができるぞ!!!」
冒険者達はそう言いながら馬車へと荷物を積みに作業へ戻っていく。
ふわりと風が吹く。
ブラウンの髪が揺れ、私は髪が乱れないように耳元を押さえた。
「ーーレイラ」
バイトンの声に呼ばれ私は見上げる。
そこには優しく微笑む大好きな人。
ダークグレーの3角の耳をピクピクさせて、長い尻尾を左右に揺らす。
「ん?どうしたの?」
「……手を出せ」
私は首を傾げながら差し出されたグランの大きな手に、自身の手を重ねた。
「……レイラ。愛してる……これから先も、俺と共に歩んでくれ」
「ーーっっ!!これ……」
左手の薬指にはめられた指輪。
グレーの宝石が小さく付いた、グランの瞳にそっくりな宝石。
「俺の番である印だ。ブレスレットはボロボロになってしまったから……受け取ってくれるか?」
私は、指にはめられた指輪を見つめる。
それは、陽の光にキラキラと輝いて、とてもとても…綺麗だった。
じわりと目頭後熱くなる。
ーーこれからもずっと、私はグランと歩んでいきたい。
「うん…うん!大好きだよ、グラン!」
グランを見上げ、涙が滲んだ瞳で笑みを浮かべる。
ーーそして私も、差し出された指輪をグランの指にはめる。私の瞳にそっくりな赤い宝石のついた指輪だ。
「ねぇグラン……ちょっとしゃがんで」
「ん?なんだ」
私の目線までしゃがんでくれたグランの耳に私は両掌と口元を寄せる。
「……これからも、私の事たくさん食べてね?」
「ーーっっ!!!」
不意の耳打ちに驚き顔を赤くするグラン。
その様子にクスクスと笑いをこぼすと、次の瞬間勢いよく抱き上げられた。
「ーーっわぁ!!」
驚き声を上げたと同時に、グランの唇が、チュッと私の唇へと寄せられた。
「ぇ…グラン!?」
「ふっ……当たり前だ。これまでの分もまとめて食ってやるから覚悟しておけよ」
耳打ちされた後に、またもチュッと音を立てて耳にキスが降かかる。
「ふぇ!?……あ、う…うん」
やっぱりまだまだ大人なグランには適わないなと胸の中で感じながら、私は耳を押え頬を真っ赤に染めたのだった。
ーーこれからも、私達は2人で未来を歩んでいく。
たとえ何があっても、私のこの思いは永遠に変わらないから。
身体を震わすほどに寒かった季節が通り過ぎ、暖かな季節がやってくる。
周りを見回すと、既に一面が緑に染まり、色とりどりの花々、冬眠から覚めた小動物や虫たちが元気よく走り、飛び回っていた。
「よし、レイラ…行くぞ」
差し伸べられた手を私は迷いなくとる。
「うん!」
私は、グランの大きな手に、自身の手を絡めた。
end.
✼••┈┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈┈••✼
ここまでお読み頂きまして、誠にありがとうございます!
20話で本編完結です。
今後はちょくちょくその後のお話書ければと思います!(とりあえず、2人の蜜月とか……笑)
今後公開予定の新作と並行して書いていくので暫くお待ちください!
ありがとうございました!
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