13 / 16
ベクトル王国編
13 明るい仲間
しおりを挟む「ほら」
「だっ!大丈夫です……僕なんかに……むぐっ!」
「早く噛め…でもゆっくりな」
ヨルファスはいつものように、手ずから自身の食事をユラへ食べさせる。
ほとんど表情も変えず、言葉数も少ないヨルファスは、早く噛めと言ってきたり、ゆっくり食べるように言ってきたりと忙しなく、ユラはどちらの言葉に従えば良いのか分からなかった。
「ほら、次……」
「え、え…でもルーファもーー」
「ヨルファース!!お待たせー俺が居なくて寂しかっただろ!そうだよな!お前がこんな汚ぇとこ閉じ込められて……くふふふっあはははっ!あークッソおもしれぇーのなんのって……あれ?ーーーぅえ?」
入口の重く分厚いドアを軽々と蹴破る様にして入り、声を上げる人物にユラは目を見開いた。
それと同時に身体を震わせる。
目の前の長身の男性は、ベクトル王国に仕える衛兵が着用する制帽と軍服を着ていて、一目見ただけでその人物がベクトル王国の者であることが分かる。
そしてその人物の瞳に映るユラは今、自身が命じられた世話係の対象である罪人の膝の上に居るのだ。
この姿は誰がどう見ても、罪人がユラを世話している様にしか見えない。
オメガでひ弱で……ただでさえ仕事が出来ないと言われているのに、あろう事か自身の仕事をサボり、楽をしているのだ。
サーッと血の気が引いていく。
火照っていた頬は瞬時に色を無くし、青くした。
「ご……め、さ……」
「ユラ?」
変わらない低く優しい声をかけるヨルファスの声も、今のユラには聞こえていなかった。
震える手足を動かして膝から降りると、ユラは額を冷たい床へと擦り付けた。
「ーーユラっ!!」
「すみません、すみません……もうしません、ごめんなさい。しっ…しっかりお仕事します……何でもします…だ、だから…だからーー」
(……痛いことはしないでーー)
その言葉は暖かい体温と、逞しく硬い胸によって塞がれた。
気が付くと、涙をポロポロと零していたユラはヨルファスに抱き寄せられ、顔は苦しいくらいにヨルファスの胸へ埋まっていた。
「大丈夫だ…大丈夫。そんなことしなくていい」
ヨルファスの長細い尻尾がユラの腰に回り、優しく背中を撫でてくれる。
気が動転して軽く過呼吸を起こしたユラだったが、トントンと大きな手からの温もりを感じ、優しい声と、温かさと、柔らかいふわふわの尻尾が、ユラの気持ちを落ち着かせてくれた。
「ほぇ~、あのヨルファスが…。え、俺夢でも見てんのかな?……いてぇ!夢じゃない…え?え?現実?ヨルファスが?うわっ!なんか予想外すぎてついていけないんだけどぉ!!」
「ラガード煩い。少し静かにしてろ」
「あ、はい。すみません」
ラガードと言われた男性は怒られた子供のように姿勢を丸くする。
ユラから見れば、罪人であるヨルファスの言葉に落ち込む様子を見せるラガードの態度が不思議でならなかった。
「驚かせてすまない。コイツは俺の仲間だ」
「え、ルーファの…仲間?」
ヨルファスは無表情の顔を少しだけ崩して頷く。
「そそ!ヨルファスの仲間だよ!ラガードっていうんだ!よろしくね、え~っと」
「ゆ、ユラです!ぁの…よ、よろしくお願いします」
ユラは立ち上がり、ペコりと頭を下げた。
ヨルファスの仲間という事は、この人も罪人なのだろうか……。
見た感じヨルファスと同じで罪人の様には到底見えず、ユラは頭の中で考えを巡らせるも、直ぐに世話係という自分の立場を思い出し、考えを振り払った。
「うんうんよろしく~、しっかしヨルファスにもちゃんと人の心って言うか、感情があるって分かって俺安心しちゃった~。それもこれもユラちゃんのお陰かな?」
「え…僕のおかげってーーー」
何を言っているのかさっぱり分からず、聞き返した時……ユラは制帽を取ったラガードを見て目を丸くする。
「ぁ…みみ……」
無意識にユラは呟いた。
何故ならラガードには、ヨルファスと同様頭上に獣の耳が2つついていたからだ。
ヨルファスの耳や尻尾が黒いのに対して、ラガードの耳は金色。
髪色も綺麗な金髪で、陽の光でキラキラと輝いていた。
「ん?あーそう!俺もヨルファスと一緒!獣人なんだ。ここに潜り込むために尻尾を服の中に隠して来たんだけど、もぉ窮屈すぎ!!あー早くこれ脱ぎたぁーい!!」
ヨルファスの仲間であるラガードは、ヨルファスと違って感情も豊かで……何よりもよく喋る人だった。
初めこそユラはラガードが怖かったものの、ほんの数十分喋っただけで、優しいヨルファスの仲間だと分かっただけで……感じていた恐怖は見事に消え去ったのだ。
33
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜
N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間)
ハーレム要素あります。
苦手な方はご注意ください。
※タイトルの ◎ は視点が変わります
※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます
※ご都合主義です、あしからず
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱でちょっと不憫な第三王子が、寵愛を受けるはなし。
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
イラストを『しき』様(https://twitter.com/a20wa2fu12ji)に描いていただき、表紙にさせていただきました。
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
嫌われ者の僕が学園を去る話
おこげ茶
BL
嫌われ者の男の子が学園を去って生活していく話です。
一旦ものすごく不幸にしたかったのですがあんまなってないかもです…。
最終的にはハピエンの予定です。
Rは書けるかわからなくて入れるか迷っているので今のところなしにしておきます。
↓↓↓
微妙なやつのタイトルに※つけておくので苦手な方は自衛お願いします。
設定ガバガバです。なんでも許せる方向け。
不定期更新です。(目標週1)
勝手もわかっていない超初心者が書いた拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。
誤字などがありましたらふわふわ言葉で教えて欲しいです。爆速で修正します。
【R18】うさぎのオメガは銀狼のアルファの腕の中
夕日(夕日凪)
BL
レイラ・ハーネスは、しがないうさぎ獣人のオメガである。
ある日レイラが経営している花屋に気高き狼獣人の侯爵、そしてアルファであるリオネルが現れて……。
「毎日、花を届けて欲しいのだが」
そんな一言からはじまる、溺愛に満ちた恋のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる