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第二話 天正三年蹴鞠の会の巻 その二

山科権大納言   清涼殿

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   山科権大納言
    
 天正三年(一五七五)六月。夏の陽射しが京人みやこびとの肌を漏れなく焦がした。
 同洞城の戦から十年の後に、信長は天下に指を掛けた。
 京の町を支配下に置き、御所のすぐ真北にある相国寺しょうこくじを宿所とし頻繁に顔を覗かせた。時の正親町おおぎまち天皇も気が気ではない。
 応仁の戦乱で疲弊した伽藍も信長からの多大な寄進で輝きを取り戻し、いたるところに白木の芳香が満ちていた。長廊下の先の書院から熱の籠った話し声が聞こえる。
「是非とも、東宮主催の蹴鞠けまりにお越しくださいませ、帝(正親町天皇)も切にお望みでございまする」
 山科言継ときつぐは嫡男の言経ときつねを伴って、信長に懸命の言上をしていた。
 向かいに座る信長は青筋を浮かべ、無表情で脇息にもたれている。周りには織田軍団の有力武将と織田家の重責を担う吏僚らがひしめき合い、奥の書院の空気を重くした。
 近習、馬廻りは、開け放たれた次の間に控えて客人の一挙一動を見守る強い視線を送っている。牛一も見逃すまいと得意の遠目を凝らし、必死に背筋を伸ばした。
「戦続きで疲れておるのじゃ、お屋形さまは。それをなんと力押しだわ、……大丈夫かな」
 清蔵が小声で、隣にいる牛一に囁いた。暢気に聞こえるが、心底言継を案じているのがよくわかった。
「なあに、そこが権大納言ごんだいなごん山科さまたる所以じゃ。まあ見ておれ、案ずることはない」
 牛一は微笑を浮かべて慰めの言葉を掛けた。
弾正忠だんじょうのじょうさま、堂上家とうしょうけの錚々たる顔ぶれが揃い、豪華絢爛たる装束で雅びな蹴鞠が行われます。これは見物でございますぞ」
 大きな張り声に眉を潜める柴田勝家らの武将は言継を睨んだ。対して吏僚の武井夕庵や村井貞勝は心配顔を向けた。京都を守る吏僚にとって織田家の衣紋道指南を任じる言継は禁裏への大切な足掛かりなのだ。
「そうか、見ものであるか」
 応えた信長の声音に抑揚がない。
 次の間の清蔵は「ほら」とばかりに牛一に顔を向けた。
「言わんこっちゃない。お屋形さまは全く興味がないぞ」
「いや、そうでもないぞ」
 応える牛一は、信長の鼻の穴が広がるのを見逃さなかった。
「雅びが、公家が、と声高に言ったとて我らに金も権勢もございませぬ。近年これほど大掛かりな蹴鞠ノ会などとんと開き申さぬところ。それを何ゆえ無理を押してまで催しまするか……」
 信長はその言葉に頷き、黙って言継を睨みつけた。座が水を打ったように静まった。
 若い言経は、半眼に動く信長の黒目に押さえつけられて身を反らしたが、言継は動じる風もない。
「――ひとえに、天下の権を握り奉るお屋形さまによしみを通じたきゆえにござりまする」
 家中でも剽軽者で通る秀吉が独り声を出して笑った。光秀がしわぶきを上げると、秀吉は慌てて誤魔化した。
「猿めが……」
 信長は呟くと、黒目だけがすうっと秀吉へ向かった。諸将のざわめきが聞こえる。
「あら~、言っちゃった。本音」
 隣の清蔵が思わず零した。牛一も深く頷き同意した。秀吉も言継も遠慮がない正直者なのだ。
 お上である正親町天皇は官位を与えたり、催しものに誘いを掛けたり、信長の取り込みに必死だ。並の武将であれば歓喜して動くところだが、信長には通じない。
「しばらくほっぽといたら織田家衣紋道指南役のご老体を引っ張り出しおった訳だ」
「とっつぁんはもう六十八ではないか、お労しや。正親町天皇もお屋形さまには気を使っていなさる」
「これ、声が大きい」
 清蔵は大袈裟に口を閉じた。
「先年、尾張下向げこうの折、先代の萬松寺(織田信秀)さまをはじめ、権六(勝家)さまにも蹴鞠の手ほどきを致したもの……」
 言継は目敏く勝家を見つけて微笑んだ。初めての尾張訪問は天文二年(一五三三)の話だ。勝家は元服したか、しないくらいの鼻たれ小僧だ。
髭面の勝家は、ばつ悪そうに下を向いた。
 信長とて生まれる前の話だが、勝家の顔を見て、扇子で口を押さえて「ふっ」と笑いを漏らした。
「したが、弾正忠さま、もはやいけませぬ。それがしは歳でござる。足腰が立ちませぬ。かつての華麗な足捌きお見せできませぬ……ううう」
 言継は態とらしく涙ぐんだ。笑みを零した信長も今さら威厳を取り繕う様子は見せなかった。言継の流れに吸い寄せられた。
「それは残念至極」
 信長の顔に赤みが戻り、声に張りが出ていた。
透かさず言継は顔を上げ、信長を睨みつける。
「だが、ご懸念には及びませぬ。ここにいる我が嫡男、参議の長松ちょうまつ(言経)が、山科流直伝の蹴鞠を習得しておりますゆえ、何卒、何卒ご照覧下さりませ~」
 声を張り上げ、親子揃って平伏した。見事な話の流れだ。小川の急流を笹舟が軽やかに乗り切った感がある。やんごとなき古狸はなかなかの役者だった。牛一は顔を伏せて頬を綻ばした。
 言継の二度目の下向が永禄十二年だ。六年前になる。織田家二代に亘る永の交誼があった。信長も心なしか頬が緩んでいる。
「相わかった。――又助! 又助はあるか」
 信長は突然顎を上げた。何ゆえ呼ばれたのかわからない。
 次の間に控えていた牛一は慌てて立ち上がった。
「は、これに」
「蹴鞠ノ会の記録を取れ。出席者、装束、陣形のすべてを……。見物だそうじゃ。権大納言とよく図って準備を致せ」
 話を終えた信長は、言継らの接待を貞勝に命じて席を立った。
 奥廊下に下がる信長の後に牛一は足早に従った。薄暗い廊下を歩む信長は牛一へ振り向くとつぶやいた。
「権大納言の頼みでは断れぬわ」
  牛一を見たまま、何かを思い出したように信長は微笑んだ。


   
   清涼殿

 ――ポーン、ポーン。
 乾いた音が牛一の耳に心地よく響いた。
 鹿革の鞠が気持ちよさそうに青空に吸い込まれていく。京都御所清涼殿のいらかは陽射しを跳ね返し白く光っていた。
 蹴鞠ノ会は雲ひとつない七月三日、巳ノ正刻(午前九時頃)に催された。
 信長は馬廻りと小姓の六名の供だけで参内し、孫廂まごびさしの濡れ縁に設えた座より掛け声のする庭を見ていた。牛一は南角のおち板敷いたじきに言継と座って全体を見渡していた。
(な、なにゆえ清蔵がおるのだ?)
 供揃えの中に厳つい顔の清蔵がいる。風雅とは縁もゆかりもない猪武者の代表だ。
 一回目は黒戸の御所の北庇きたひさしの庭で行われた。黒戸の御所とは清涼殿北側の、滝口の戸の西にあった細長い部屋で、かまどしつらえてたきぎすすで黒くなった故事に由来する。
 庭に設えたかかり(競技場)の四隅に一丈五尺(四・五メートル)の柳、桜、松、楓が植えてある。蹴り上げる鞠の高さの目安にするためのものである。その四方に二人ずつ八人の鞠足まりあし(選手)が鞠を蹴る。
「今いる鞠足が左手より、庭田重道、三条西さんじょうにし公明きんあきら……」
 その都度、陣形、鞠足を言継が牛一に教えてくれた。
 牛一は、黙って頷き、瞼を緞帳のように閉じては眼窩の奥に刻みこむように覚えている。
「御所清涼殿においては墨硯の用意は出来かねますぞ」と心配する言継に、「なに、大丈夫でございます。記憶して後ほど書き留めますゆえ」と応えていた。
 ましてや風雅に憧憬を持つ牛一は、飛ぶ鳥の一羽さえ見逃すまいぞと意気込んだ。
 鞠足を変え、その都度競技が行われた。
「風向きが変わり、強くなりましたゆえ、東庇の庭に御移動願い奉ります」
 審判役公卿の声が響いた。
 信長をはじめ一同の顔が一斉に向きを変えた。
 新たな鞠足八人が一座を作っての蹴鞠を始めた。手慣れたものである。風向きに会わせる繊細さに牛一は感心した。
 ポーンとよい音が響くと、鞠は軽やかに舞い上がる。すると均等な間隔で音が続く。雅楽を聞き、舞を見るような心地になった。
「蹴鞠道とは、鹿革の鞠を足で蹴って地に落とさず、さりとて手を使わずに蹴り続ける。雅な装束を軽やかに纏い楽しむもの。むろん勝ち負けは無い。相手に蹴りやすい鞠を蹴り渡す者が良い鞠足とされております」
 言継は牛一を覗き込むように話しかけてきた。
 上手の鞠足が蹴る。言継は透かさず名を告げた。
 飛鳥井流の名手、飛鳥井あすかい雅敦まさあつと記憶した。
「うむ、美しい……良い鞠足は、一座(八人)の調和を作る統率者の趣を見せますね」
 見惚れて呟く牛一の顔を見て、言継は白い歯を見せた。
「ほう~、わかりますか? ……又助どのは武将顔と言うよりも公家顔じゃな。雅びの心がようおわかりじゃ」
「滅相ものうござる。殿上人の優美、気品、風雅……何一つとっても、人として足元にも及びませぬ」
「人として? ふふ、何一つ変わるところなどござらぬよ」
 庭の懸から歓声が立ち上がった。
 華麗な足さばきを見せる一座の『あり』『やっ』『おう』の掛け声が凛々しく響き、観覧者の拍手と歓声を引き起こす。
 一座の何人かの鞠足が変わるたびに、
「今、代わられたのは甘露寺経元。あの者の心根や善し。次は高倉永相ながすけ
牛一は古式に則った蹴鞠にただただ見惚れ、唸るばかりだった。
 蹴鞠をする美しい若者の姿が目についた。まさに蒔絵から飛び出した煌びやかさを纏っていた。 
 色白く切れ長な目に、細い面差しの貴公子は、雅な装束を風に靡かせている。細いうなじは女子に見間違うほどだ。
 耳元に言継の声が聞こえた。
「水干、色は紫、染色、葛袴くずばかま中院なかのいん夜叉松麿やしゃまつまろいみなは通勝。昨年参議に昇進したばかりの若者です。なにせ家格が大臣家ですからねぇ~」
 次々と牛一の眼下に映る情景が入れ替わる。
 言継は顔を懸に向けたままに、蹴鞠の様子に頷きつつ論評した。
「よしよし。……巧みなり。気配り上手じゃ……」
 と、中には明らかに流れを断ち切る鞠足がいた。が、それも束の間。牛一は特に気にせず、蹴鞠を楽しんだ。
「未熟者め!」
 舌打ちを含んだ言継の呟きに、牛一の背筋がピクッと伸びた。
 何事かと言継を覗きこんだが、別段変わらぬ言継の横顔を見ただけだ。
 牛一は風雅に満ちた只中にいた。
(これはお屋形さまからのご褒美じゃな)
 先月、突然名を呼ばれて訝しんだ己を鼻息と共に吹き消した。
 蹴鞠は続き、雅趣に富む風を運んだ。
 盛り上がる観衆の中で信長は、澄まし顔でも真剣な眼差しを送った。御小姓頭、万見千千代は必死に目を凝らすが、他の近習はみな退屈そうな顔している。その一人清蔵は、目をしょぼつかせて欠伸をした。目にした牛一は、「なんじゃ、あの無礼者が……」と声にならない言葉を発した。すぐ、見なかったものとして視線を逸らした。
 ――ポンッ、と鞠音が響く。
「ほう、さすがは権大納言さま直伝だけございますな」
 牛一の逸らした目の先に、見知りの顔があった。嫡男の言経は思いの外上手に鞠を蹴る。
「なんの、まだまだ未熟でございますよ」
「ご謙遜を、ここで見ておりましても、五指の上手に入りましょうか……」
「なかなかの目利きですな。まあ奴は真面目だけが取り柄。いまひとつ覇気がないのが心配の種……」
 牛一の言葉に、言継は満更でもない顔をした。牛一は意外に思った。照れ笑いする言継は、下世話で目にする父御の顔と変わらなかった。
 そうかと思えば、蹴り損なう鞠足もいた。勝手に下がって、鞠足を代わっている。
「装束も束帯、衣冠、直衣のうし狩衣かりぎぬ直垂ひたたれ、僧服の鈍色どんじき水干すいかんと様々とありますが、最近は動きやすい水干が多ございます。それに色合いも重要なのです。年頃がわかりますから。……が、まあ追々お伝えしましょう」
 言継が、衣紋道の溢れる知識を口にした。
 事前の打ち合わせの時に、「当世の流行はやりは水干だ……」水洗いの後に糊を使わずに干したもので着心地が柔らかいから皆こぞって着るようになったと聞いたばかりだが、装束の色合いにまで、有職故実に細かな意味合いがあるなどとは知らなかった。
「ほう。そのようなことまで……」
 奥の深さに牛一が嘆息していると、左後ろから物音が聞こえた。
「誰ぞ! 誰ぞあるか」
 東宮が人を呼んでいる様子が窺われた。
 いざ御用とばかりに、取り巻きが足音を立てている。
「なんじゃ、騒々しいのう。時と場を心得よ」
 隣で言継は、苦虫を噛んで小さく吐き捨てた。有職故実を体現する禁裏の重鎮にしては、軽々しい若公家の振る舞いが腹立たしいのだろうか。牛一は恐々と言継を見た。だがやはり泰然と揺るがぬ言継がいるばかり。下々と違って顔変わりが早い。心の襞を出すまいとの気質なのかもしれない。
 辺りは落ち着きを戻し、東宮の周りに幾人いくたりかの人が集まっているだけだ。その中から、若公家の通勝が出て庭に降りた。
 牛一は気にも留めずに、再び庭の蹴鞠へ歓心を向けた。
「うっ……」
 牛一は自分でも気付かぬうちに指で鼻先を弾いた。
「どうされたかの?」不思議そうに言継が笑みを寄こした。
「あ、いえ、別に」
「おう、珍しや、冠束帯の若者は……」
 その張り声に誘われて、牛一も視線を庭へ戻した。

 
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