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 ここグレースには、神の試練ダンジョンと呼ばれている塔が、国の中心に聳えそびえ立って在る。
 ダンジョンとはそれ即ち、──神の遺産である。
 古来より王国に伝わって来た文献によると、ダンジョンの名を『バベルの塔』と言い、『神に到達せしめる頂きである』と、記されている。
 
 雲の上まで突き抜けている、ダンジョン。
 外部から壁を破壊して侵入することも、内部から壁を破壊して脱出することも出来ない。
 一度足を踏み入れてしまえば、来た道を戻るしか帰る方法が無いのだ。
 しかし、そんなダンジョンを一人だけ、踏破した人物が居た。
 その人物こそが、グレースの初代国王、──『ヘラクレス』その人である。
 ヘラクレスはダンジョンを踏破し、神に認められ、一国の王となったのだ。
 王となったヘラクレスは、ダンジョンから持ち帰って来た財宝で、天下統一を成した。
 そうして出来たのが、『人間』と『土の妖精族ドワーフ』と『風の妖精族エルフ』が共に生活をする国、グレースである。
 
 世界に一つしか無い国グレースでは、一切の争いを禁じられている。
 それはもちろん、他種族間でも、同種族間でも、だ。
 それを破ったモノは捕まり、強制的にダンジョン内へと放り出される。
 王国を守護する先鋭の騎士団により、ダンジョンの奥深くへと……。
 それは一般人にとって、実質的な死刑である。
 だからこそ民は、平和に、平穏に暮らしているのだ。

 しかし国民の中には、死にたがりの変わり者が居る。
 その死にたがり共は『クラン』と言う集団を作り、自らの足でダンジョンに踏み入れるのだ。
 そのような死にたがり共を、人は『冒険者』と言う。
 その名の通り、命懸けで人生を冒険する馬鹿野郎共だ。
 それ以上に相応しい肩書きは無いだろう。
 
 そんな冒険者がダンジョンに入る理由は、大きく分けて二つ存在する。
 一つ。ダンジョン内にあるアイテムや、モンスターが落とすアイテムを売り、──莫大な資金を得て生活する為。
 二つ。ダンジョンを踏破することで、──地位と名誉を手に入れる為。
 
 大概が、この二つである。
 そうなのだ、大概が、この二つなのだ。
 つまり、例外が存在する。
 その例外と言うのが、世界最強の騎士が率いる世界最強の騎士団、──『フィアナ騎士団』だ。
 フィアナ騎士団は未知の資源の為、文献に記されている世界の滅亡を阻止する為、ダンジョンに挑み続けている。
 そんな騎士団だが、幼少期の頃に検査を受け、十二段階あるレベルの中の三以上で、強制的に入団させられてしまうのだ。
 
 ──四年後に訪れる世界の滅亡に、足掻く為に。

 ダンジョンだが、ヘラクレスが踏破した日から六百六十年の間、五階層に到達した者は居なかった。
 しかし、四階層の守護神エリアボス『スフィンクス』を倒し、見事五階層に足を踏み入れた者が現れる。
 それこそが、王国最強の騎士団率いる世界最強の騎士、『エマ・グレース』だ。
 生まれた時から神なる力を持ち、十歳の時には世界最強の称号と共に、神の如く強さから『神姫』と言う二つ名が付けられた。
 そんな神姫が率いるフィアナ騎士団は今、五階層のエリアボスに挑戦しようとしていた。

◆◆◆

 階層の奥深くには、大きな扉がある。
 扉の種類は階層によって異なりはするが、変わるのは見た目だけだ。

 その扉は当然、私達が居る毒沼エリア第五階層にも存在する。
 第五階層には毒の沼が広がってあり、生息しているモンスターも毒系しか居なかったのだ。
 そんな階層である、エリアボスへと通じる扉も、毒々しいことこの上ない。

「何とも、毒々しいのう……余は苦手じゃ」

 一番右側に立って居るのが、『アルテミス・マクドバ』。
 銀のミディアムヘアと碧眼の、気品溢れるエルフだ。
 背中には金の弓を装備しており、右腰には金の短剣を装備している。

「ボクも、苦手です……」

 一番左側に立って居るのが、『プロメテウス・オディナ』。
 赤のマッシュヘアと赤目の、可愛らしい男の娘だ。

「ふぉっふぉっふぉ。大丈夫よ、ワシに任せろ」

 左側から二番目に立って居るのが、『ヘファイストス・マウル』。
 とんがり帽と髭がポイントの、ドワーフだ。
 重厚な戦斧せんぷを、肩に担いで持っている。

「ヘファイストスさんが大丈夫だって言うと俺、めちゃくちゃ安心するっす」

「副団長様が何か言ってるわい。ふぉっふぉっふぉ」

 右側から二番目に立って居るのが、『アキレウス・マックルー』。
 金のショートヘアと碧眼の、イケメン副団長だ。
 背中に槍を装備しており、左腕に盾が装備されている。

「そうだな。こと言う私も、みんなのおかげでココまで来ることが出来た。みんなと居ると安心する」

「最強の団長がそれを言うからね、ボク参っちゃうよ」

「ははは、そう言うな、私らの仲じゃないか」

 そして最後に、威風堂々とした佇まいで中心に立って居るのが、『エマ・グレース』。
 白のセミロングヘアと赤目の、美人団長だ。
 鞘に入っている直剣を、左腰に装備している。

 世界最強である私達は扉の前に着くと、先程までの緩い空気を消し、瞳に闘志の光を宿した。

「みんな、行くぞ!!」

「「「「おうっ!!」」」」

 鬨の声と共にヘファイストスが扉を開けると、私達は扉の向こうへと足を踏み入れる。
 その扉には大きな文字で『Хюдораヒュドラ』と、そう在った。

―――

【世界観ちょい足しコーナー】

○世界観

『年号』
▶︎ハーキュリーズ歴
▶︎今はハーキュリーズ歴662年である

『世界の状況』
▶︎ ハーキュリーズ歴666年までにダンジョンの頂きに到達していないと、世界が滅亡すると記されている
▶︎上記の為、フィアナ騎士団が挑み続けている
▶︎馬鹿野郎がダンジョンに挑んで命を散らす世界
 
○ダンジョン

ダンジョンの創られた理由は不明である。
バベルの塔と呼ばれているダンジョンは、計十二階層あると言われている。

○種族
 
『人間』
▶︎短命故に一番数の多い種族
▶︎様々な魔力を持つ
▶︎エルフとドワーフに威力負けする

『エルフ』
▶︎妖精族である
▶︎風の精霊に好かれる
▶︎長寿で美男美女
▶︎精霊を操る

『ドワーフ』
▶︎妖精族である
▶︎土の精霊に好かれる
▶︎とんがり帽と小さい身体がポイント
▶︎力が強い
▶︎技術に精通する職人
▶︎鍛治職人になることが多い
 
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